『警官の条件』とは
本書『警官の条件』は『警官の血シリーズ』の第二弾で、2011年9月に新潮社からハードカバーで刊行され、2014年1月に新潮文庫から782頁の文庫として出版された、長編の警察小説です。
『警官の条件』の簡単なあらすじ
警部に昇任し、組織犯罪対策部第一課の係長に抜擢された、安城和也。彼は自らのチームを指揮し、覚醒剤の新たな流通ルートを解明しようと奮闘していたが、過程で重大な失策を犯してしまう。重苦しいムードに包まれる警視庁に、あの男が帰ってきた。かつて、“悪徳警官”として石もて追われたはずの、加賀谷仁が!警察小説の頂点に燦然と輝く『警官の血』-白熱と慟哭の、第二章。(「BOOK」データベースより)
『警官の条件』の感想
本書『警官の条件』は、大河警察小説として高い評判を得ている『警官の血』の続編として書かれた長編の警察小説です。
さすがに警察小説の第一人者と言われる著者佐々木譲が、自身の人気ベストセラー小説の続編として書いた作品だけあって十分な面白さをもった作品でした。
ただ、本書『警官の条件』が『警官の血』という名作の続編ということ、また前巻『警官の血』の終わりで強烈な印象を残した加賀谷仁が帰ってくるという惹句の文言をそのままに本書を読むと期待外れに終わるかもしれません。
というのも本書は前巻とは異なり、あくまで安城家としての物語というよりは三代目である安城和也の物語であり、また加賀谷はそのアクセントに過ぎないからです。
つまりは、本書では安城家の歴史を描いたという側面は薄く、また加賀谷という存在も前作ほどではないのです。
それはひとつには前作を貫く、安城清二が追っていた事件や安城清二自身の死にまつわる謎が一応の解決を見ていることからくる、安城家という背景の希薄さからくるものと思われます。
また加賀谷に関しても、あくまで本書『警官の条件』は安城和也が主人公であるということからくるものでしょう。
とはいっても、加賀谷というキャラクターがあってこその本書であることもまた事実であり、その存在感は強烈です。
この加賀谷のような悪徳警官として個性をもった人物として、まず逢坂剛の『禿鷹の夜』から始まる『禿鷹シリーズ』の主人公である禿富鷹秋刑事を思い出します。
ハゲタカこと禿富鷹秋刑事は、「信じるものは拳とカネ。史上最悪の刑事。・・・ヤクザにたかる。弱きはくじく。」とアマゾンの内容紹介にもあるように、その存在自体が強烈です。
またその存在感という点では柚月裕子の『孤狼の血』の大上刑事もそうです。加賀谷とキャラクターの類似という点ではハゲタカよりもこちらの大上刑事の方が似ているかもしれません。
具体的な類似性は実際読んでいただく方がいいでしょう。ここで書くとネタバレになりかねないのです。
本書『警官の条件』での加賀谷というキャラクターの処理はある意味ベタと言っても間違いのない扱いであって、そのベタさこそが魅力だとも言えます。
本書が『警官の血』の続編である以上は、和也が中心になるのは当たり前のことであって、その中で和也がどのように成長するかという観点こそが主眼であり、加賀谷はあくまで脇役なのです。
だからこそ加賀谷の扱いがベタであって、和也が生きてくると思われます。
そうはいっても本書の中ほどまでを読み進める過程では、本書は『警官の血』での魅力と比して半減しているとの思いを持っての読書でした。
安城和也という男が主人公ではあるものの、他の人物を主人公として設定しても物語として成立し、警察小説として評価は低くはないのだろうなどと思っていました。
しかし、クライマックス近くになると、本書『警官の条件』の小説としての面白さが次第に迫ってくるようになります。
そして、警察内部の縄張り争いを主眼に描かれていくこの物語が、クライマックスにいたり先にも述べたある意味ベタな結末を迎えることになるのです。
この点に拒否感を抱いた読者も少なからずおられるのではないかと思われます。しかし、個人的には本書のような終わり方は決して嫌いではありませんでした。
もしかしたら、私にとっては、この終わり方だったからこそ本書の評価が高くなったのかもしれません。
一方、前巻でもこの加賀谷というキャラクターをもう少し読みたいと思っていたこともあり、せっかく本書で加賀谷を復活させたのであるならば、もう少しこのキャラクターのも物語を読みたいと思ったのも事実です。
できれば、サイドストーリ的に、もしくは本書『警官の条件』のスピンオフ作品として加賀谷を中心にした作品を読んでみたいと思うのです。