本書『酒合戦 新・酔いどれ小籐次(十六)』は、文庫本で322頁の『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十六弾です。
篠山藩の蔵の中で見つけた御伽草紙「鼠草紙」のおりょうによる模写も終わり、大奥での披露など様々な出来事が待ち構えている様子が描かれています。
『酒合戦 新・酔いどれ小籐次(十六)』の簡単なあらすじ
十三歳にして剣術に優れ、研ぎ仕事の腕も上げた駿太郎はアサリ河岸の桃井道場に入門し、年少組で稽古に励む。一方、肥前タイ捨流の修行者に勝負を挑まれた小籐次は、来島水軍流の一手を鋭く繰り出し堀に沈めてみせる―。さらに、おりょうの「鼠草紙」を披露するため招かれた江戸城の花見では、大奥上臈との酒合戦が待っていた。(「BOOK」データベースより)
第一章 神谷町の隠居所
小籐次と俊太郎は、おりょうの書いた掛け軸を土産に、今は五十六と名乗る紙問屋久慈屋の先代昌右衛門の隠居所への引越し手伝いをしていた。数日後、桃井道場年少組の年長者である木津留吉が、駿太郎ら年少組を引き連れて芝居町へと入っていく姿があった。
第二章 拐し騒ぎ
おりょうの「鼠草紙」の模写もひと段落して、丹波篠山からともに江戸までやってきたお鈴も望外川荘にいる理由がなくなり、久慈屋の奥向きの女中として奉公することになった。そこに、空蔵が駿河町の薬屋の孫娘が行方不明になり身代金の要求があったことを聞きつけてきた。
第三章 木刀と竹竿
おりょうの「鼠草紙」も完成し、老中青山忠裕の奥方や、大奥へ上がっての披露の話が持ち上がっていた。また、桃井春蔵の頼みに応じて俊太郎が学んでいるアサリ河岸の桃井道場へとやってきた小籐次は、門弟を相手に稽古をつけるのだった。
第四章 お鈴の迷い
久慈屋で女中として奉公を始めたお鈴だったが、何か気持ちが晴れずにいた。しかし、老中青山忠裕の奥方久子の望外山荘訪問に合わせ手伝いを兼ねて望外山荘へと行くことになったお鈴の顔には喜びの色が走るのだった。
第五章 吹上の花見
おりょうの「鼠草紙」の大奥での披露が、おりょうの大奥への入室は差しさわりがあるということから、吹上の庭で催されることになった。一方、小籐次が一度は命を助けた剣士大蔵内山門隠士が、小籐次との再びの対決をのぞんでいると聞こえてきた。
『酒合戦 新・酔いどれ小籐次(十六)』の感想
本書『酒合戦』でも常と変わらない小籐次とその家族たちの姿が描かれます。
本書で語られている事柄の中心は、小籐次ら家族の丹波篠山への旅行の際におりょうが見つけた「鼠草紙」をもとに、おりょうがすすめていた模写作品が出来上がったことです。
その新たな「鼠草紙」を巡り、老中青山忠祐の奥方久子が望外山荘へ来られ、また大奥へも披露しに行くことにもなります。
また、「鼠草紙」が仕上がったことによって、丹波篠山から江戸へと出てきたお鈴の仕事も終わったことになり、お鈴の今後のことも考えなければならないことになりますが、そこは久慈屋という大店が控えています。
そして、小籐次個人の問題として、やはり小籐次に戦いを挑む輩が登場するのです。
こうした出来事が、久慈屋の先代昌右衛門あらため五十六の引越しや、小籐次親子の研ぎ仕事、駿太郎の桃井道場での剣の稽古などの日常に加えて描写されます。
勿論、小籐次の剣劇の場面も用意されてはいますが、何と言ってもおりょうの「鼠草紙」の完成以上の出来事はないと言っていいでしょう。
本書『酒合戦』というタイトルのもとともなった、大奥での「鼠草紙」の披露の際の上臈末乃との飲み比べなどもありますが、このエピソード自体は大きなものではありません。
あい変らずに読みやすく、何も考えないで読み進めることができる小籐次のシリーズです。
今後どれくらい続くか分かりませんが、ただただ小籐次の世界にゆっくりと浸り、小気味のいい活躍に酔いしれるだけ、そういう一冊です。