佐伯 泰英

酔いどれ小籐次留書シリーズ

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本書『鑓騒ぎ 新・酔いどれ小籐次(十五)』は、『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十五弾です。

今回は、このシリーズの初回に戻るかのような「御鑓頂戴」事件が全編を貫く事柄として挙げられ、安定した面白さを持ったシリーズの一作品として楽しめる作品になっています。

 

文政9年正月。今年こそは平穏な日々を送りたいと願う小籐次のもとに元日早々、藤藩の近習頭・池端が訪ねてくる。旧主久留島通嘉が床に伏せって新年の登城を拒んでおり、窮状を救えるのは小籐次だけだという。じつは通嘉は何者かから、初登城の折、森藩の御鑓先を頂戴すると脅されていた。「御鑓頂戴」をもくろむのは何者か?(「BOOK」データベースより)

 

第一章 御節振舞
これ以上厄介ごとに巻き込まれないことを願う小籐次だったが、元旦早々、森藩近習頭池端恭之介から旧主久留島通嘉が二日の総登城を遠慮すると言っている、と伝えてきた。久留島通嘉は、森藩の御鑓先をを頂戴するという手紙を受け取っていたというのだった。

第二章 御鑓頂戴
元日の夜を豊後森藩江戸藩邸御長屋に泊まった小籐次は、初登城の鑓持ちの中間頭水邨勢造から鑓持ちの稽古をつけてもらう。おしんにこの騒ぎの真の犯人の探索を頼み、付け髭などで変装した小籐次は、二日の登城に二本鑓の一人として参加するのだった。

第三章 松の内騒ぎ
正月七日、研ぎ仕事のために深川へ行く途中、永代橋で降りた小籐次を見た駿太郎は、お夕のすすめに従い、新兵衛長屋で仕事をするのだった。案の定、下城の森藩行列に御鑓頂戴と七人が襲い掛かってきた。しかし、近くで休んでいた大黒舞の一人が立ちふさがり、池端恭之介と共にこれを撃退するのだった。

第四章 道場稽古
数日後、深川蛤町裏河岸の小籐次父子のもとに来た定町廻り同心の近藤精兵衛が、桃井道場の稽古開きへの同道を言ってきた。翌日、桃井道場へと行った俊太郎は、鏡心明智流道場へと通い同年代の仲間と稽古に励むこととなった。一方、望外川荘へ帰った小籐次に中田新八とおしんとが過日の騒ぎの報告をするのだった。

第五章 空蔵の災難
望外川荘を訪れた家斉は、竹藪蕎麦の美造親方の蕎麦に舌鼓を打ち、おりょうの「鼠草紙」に喜んで帰っていった。その折青山忠裕と共に望外川荘に来ていた田沼玄蕃守意正こそ、「御槍拝借」騒ぎの背後にいた人物であり、主君の知らないうちに家臣が為した騒ぎというのだった。
 

新たな年の幕開けに際し、本書『鑓騒ぎ』で突然降ってわいた事件は、今度は小籐次がかつて引き起こした事件が、自分が属していた旧藩の森藩に降りかかってきたという話です。

すなわち、正月二日の総登城に際し、森藩の御鑓先を頂戴するという手紙が森藩主のもとへ届き、そのことを一人胸に抱え込んだ藩主をやはり小籐次が助けるというのです。

ただ、今回の御鑓頂戴騒ぎは、小籐次が起こした「御槍拝借」騒ぎに対する四藩による報復合戦とは異なり、全くの新しい事件として小籐次の前に現れたのです。

 

シリーズ物につきものの、主人公に対する新たな敵が現れたのかと思い読み進めましたが、どうもそこまでの話ではありませんでした。

こう書くこと自体がネタバレといえそうなのですが、このくらいの情報は読書する上で邪魔になる情報ではないでしょう。

この事件に対し、老中青山忠裕の密偵のおしんや中田新八らの力を借り、事件の背後にいる勢力を調べることになります。

一方、おりょうの「鼠草紙」の模写もひろく噂になり、将軍の耳にまではいることになるのです。

 

本書『鑓騒ぎ』で特筆すべきは、駿太郎の生活環境への配慮といえます。

南町奉行所定町廻り同心の近藤精兵衛の助けによって江戸の四大道場の一つといわれる桃井道場へと通うことになるという環境の変化です。

ここで、江戸の四大道場とは、千葉周作(北辰一刀流)の「玄武館」、斎藤弥九郎(神道無念流)の「練兵館」、桃井春蔵(鏡新明智流)の「士学館」といういわゆる江戸三大道場に、伊庭秀業(心形刀流)の「練武館」を加えたものです( ウィキペディア : 参照 )。

こうした駿太郎への配慮は、前巻でも書いたように一人の親としても、また読書人としても、作者の目線の人間性が垣間見える気配りとして安心できるのです。

あらためて、本『酔いどれ小籐次』シリーズの今後の展開が楽しみです。

[投稿日]2020年10月27日  [最終更新日]2020年10月27日
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