本書『旅仕舞 新・酔いどれ小籐次(十四)』は、『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十四弾です。
今回は、例幣使杉宮の辰麿という押し込みの一味と小籐次との対決が見どころとなっています。また、同時に非の打ち所のない少年として育っている駿太郎のこれからに思いを致す小籐次の姿もあります。
文政8年冬。日光街道周辺で凶悪な押込みを働いていた杉宮の辰麿一味が江戸に潜り込んでおり、探索に協力してほしいと小籐次は乞われる。その直後、畳屋の隠居夫婦、続いて古筆屋一家が惨殺された。一味の真の目的を探るうち、小籐次は自分やその周辺が標的にされる可能性に気付く。久慈屋に迫る危機を小籐次は防げるのか?(「BOOK」データベースより)
以下、簡単なあらすじです。
第一章 社参延期
久しぶりに江戸へと戻り久慈屋の店先で研ぎ仕事を始めた小籐次父子のもとに、南町奉行所定町廻り同心の近藤精兵衛らが来た。そして、上様の日光社参の延期理由の一つでもある押し込み強盗の例幣使杉宮の辰麿一味が江戸へと潜入したらしいと言ってきた。
第二章 研ぎ屋再開
おりょうが絵を含めた「鼠草紙」の模写を図るなか、久慈屋で研ぎ仕事をする小籐次の元へ難波橋の秀次親分が来て北品川の畳屋の古木屋の隠居所で三人が殺されたと言ってきた。現場を見ると押し込み強盗ではなさそうで、例幣使杉宮の辰麿一味とは関係が無さそうだった。
第三章 絵習い
小籐次は、十二歳の駿太郎が大人ばかりの中で育つことの是非を考えていた。一方、おしんからは例幣使杉宮の辰麿一味は幕府に反感を持つ集団であることを、また秀次の手下の銀太郎からは、南町奉行所近くの古筆屋藪小路籐兵衛宅で一家六人奉公人三人が惨殺されたと知らされるのだった。
第四章 鳥刺しの丹蔵
小籐次は久慈屋で会ったおしんから、届けられた四斗樽については全く知らないと聞いた。酒樽を調べると「いわみぎんざんねずみとり」という毒が入っていた。望外川荘へ久慈屋からの絵の具類の土産を持って帰った小籐次は、ひそかに久慈屋の用心棒を務めるのだった。
第五章 墓前の酒盛り
深川蛤町裏河岸での仕事中に同心の近藤精兵衛と秀次親分がきて、杉宮の辰麿こと鳥刺しの丹蔵は南町奉行所に恨みを持つ件があったという。近藤は丹蔵のねらいは肥前屋だとするが、小籐次は新兵衛長屋で眠りながらも鳥刺しの丹蔵らの真の狙いを考えていた。
老中青山忠裕の治める丹波篠山から帰ってきた小籐次一家ですが、江戸の町はやはり小籐次をのんびりとはさせてくれません。
南町奉行所定町廻り同心の近藤精兵衛や浪花橋の秀治親分らは、江戸の町に上様の日光社参が延期になった理由かもしれない押し込みの一味が潜り込んだかもしれないというのです。
丹波篠山への旅の間できなかった研ぎ仕事もたまっていて、それどころではない小籐次でしたが、息子の駿太郎に任せて飛びまわる日々へと舞い戻りです。
この例幣使杉宮の辰麿一味に関する件が今回の主な事件として全編を貫いています。
その他に、おりょうが篠山で写し、また記憶していた「鼠草紙」の再現を始めたことがもう一つの流れとなります。
さらに言えば、道理の分かったおとなたちの間で実に健やかに、非の打ち所がないように育ってきた駿太郎についての小籐次の危惧を、小籐次の周りの大人が察し、駿太郎を同年代の子供らの間に放り込むことを考えるのです。
大きくは、この三つの流れが本書『旅仕舞』の物語の構成といえるでしょう。
なかでも、おりょうの「鼠草紙」の再現はおりょうや小籐次、また望外川荘自体をより有名な場所へと持ち上げることになります。
そして、駿太郎にとっての新たな環境の構築という発想は、作者の子供に対する一つの見識を示したものとも取れ、読んでいて安心の感情を持ったことを覚えています。
小籐次の立ち回りは当然のこととして、それ以外のおりょうや駿太郎の生活、成長への配慮は楽しみでもあり、一人の親としても安心であるのです。