『あだ討ち 柳橋の桜(二)』とは
本書『あだ討ち 柳橋の桜(二)』は『柳橋の桜シリーズ』の第二弾で、2023年7月に文庫本書き下ろしで文春文庫から刊行された長編の痛快時代小説です。
本書では現実に父が世話になっている船宿の船頭となる主人公の姿が描かれていて、前巻とは異なり、痛快時代小説としての面白さを持った作品でした。
『あだ討ち 柳橋の桜(二)』の簡単なあらすじ
猪牙舟の船頭を襲う強盗が江戸の街を騒がせていた。父のような船頭を目指す桜子だが、その影響もあってか、親方から女船頭の許しがおりない。強盗は、金銭強奪だけでなく、殺人を犯すこともあったのだ。そして舟には謎の千社札が…。仕事を続ける父親の身を案じる桜子へ、香取流棒術の師匠である大河内小龍太が、ある提案をする。船頭ばかりを狙う強盗の正体と、その本当の狙いとは?物語が急展開をするシリーズ第二弾!(「BOOK」データベースより)
『あだ討ち 柳橋の桜(二)』の感想
本書『あだ討ち 柳橋の桜(二)』は『柳橋の桜シリーズ』の第二弾となる作品で、主人公の娘の成長を描く長編の痛快時代小説です。
棒術の達人という設定の主人公桜子の活躍は本書でも十分にみられるのは勿論で、前巻よりは面白く読むことができます。
しかしながら、主人公の桜子にそれほどの魅力を感じることができないため今一つ、という印象はぬぐえず、のめり込んで読むとまではいきませんでした。
本書は父親のような船頭になることを夢見る娘の物語ですが、主役の桜子はついに一人前の猪牙舟の船頭としてデビューすることが許されます。
それも、北町奉行の小田切土佐守自らが少しでも世間を明るくしてほしいとの願いから、北町奉行直筆の木札を許されたというのでした。
しかしながら、近頃猪牙舟の船頭を狙う猪牙強盗(ぶったくり)が頻発していて、死人まで出ているため、素性が判明している贔屓筋の客だけを乗せることを条件に親方の許しも出たのでした。
そんななか、薬研堀にある香取流棒術大河内道場の道場主の孫の大河内小龍太は、桜子の身の安全を心配し、桜子の身を守ると行動を共にするのです。
猪牙強盗(ぶったくり)という明確な敵役が登場する本書であり、桜子とその師匠筋の小龍太との活躍が十分に描かれた物語で、痛快時代小説として軽く読める作品でしたが、やはり敵役の軽さは否めません。
桜子が一人前の船頭として認められたというのはいいのですが、それ以上の物語の展開がどうにも素直に受け入れられないのは、読み手の私の第一巻を読んだ際の大時代的な台詞回しへの不満などの先入観のためでしょうか。
でもそれだけが原因ではなく、先に述べたように主人公の桜子に感情移入するだけの魅力に欠け、またシリーズとしての意図が明確ではないということが本シリーズに対する印象の根底にあるのではないかと思っています。
とはいえ、佐伯泰英作品らしく物語の展開そのものの面白さは持っているので、単にストーリー、物語の展開だけを軽く読む、という点では普通だと言えると思います。
佐伯作品には『酔いどれ小籐次シリーズ』に出てくるクロスケのような犬が登場しますが、本書でも薬研堀にその名の由来を持つヤゲンという犬が登場し、物語にゆとりが与えられていたりします。
佐伯作品らしい物語世界の広がりをゆったりと感じさせる工夫などは施されていて、ストーリー展開を楽しむことができる作品ではあります。
最後にもう一点。
本書では、物語の前後にオランダのロッテルダムの情景が描かれ、一枚のフェルメール風の絵画についての語りが載っています。
これは、作者が現地で感じたことをそのまま取り込んだと書いてありましたが、本書だけを見るととってつけたような印象であまり意味が分かりませんでした。
ただ、次巻のタイトルを見ると『二枚の絵』であることを見るともっと具体的に何らかの絡みがあるのでしょう。
このことは、そもそもが作者の頭の中に浮かんできた一枚の絵の印象が本シリーズのモチーフになっているということなので、間違いのないことでしょう( 佐伯泰英 特設サイト :参照 )。
そうしたことも含めて次巻を期待したいと思います。