佐伯 泰英

空也十番勝負シリーズ

イラスト1

奔れ、空也 空也十番勝負(十) 』とは

 

本書『奔れ、空也 空也十番勝負(十) 』は『空也十番勝負シリーズ』の第十弾で、文春文庫から2023年5月に文庫本書き下ろしで刊行された、長編の痛快時代小説です。

このシリーズ最終巻となる本書ですが、この作者の近時の他の作品と同様に、何となくの物足りなさを感じた作品でした。

 

奔れ、空也 空也十番勝負(十) 』の簡単なあらすじ

 

京の袋物問屋の隠居・又兵衛と知り合った空也は、大和国室生寺に向かう一行と同道することになった。途中、柳生新陰流正木坂道場で稽古に加わるのだが、次第にその有り様に違和感を抱く。一方、空也との真剣勝負を望む佐伯彦次郎が密かに動向を探っていた。空也の帰還を待ちわびる人々の想いは通じるか、そして勝負の行方は!?(「BOOK」データベースより)

 

奔れ、空也 空也十番勝負(十) 』の感想

 

本書『奔れ、空也 空也十番勝負(十) 』は『空也十番勝負シリーズ』の第十弾で、いよいよこの物語も終わりを迎えることになります。

つまり、『居眠り磐音シリーズ』全五十一巻に続いて、本『空也十番勝負シリーズ』も完結することになるのです。

ところが、本書の著者自身の「あとがき」で、八十一歳を超えた佐伯泰英氏自身が『磐根残日録』を書きたいとの思いがあると書いておられます。

本シリーズのファンとしては大いに喜ばしいことで、『居眠り磐音シリーズ』も未だ終わることなく続行すると思ってよさそうです。

 

ただ、著者佐伯泰英の近年の著作に関しては全般的に芝居がかってきた印象が強く、往年のキレが亡くなってきたように感じてなりません。

そんな印象を抱えたまま、本書『奔れ、空也 空也十番勝負(十) 』を読むことになったのです。

 

いよいよ大和へと赴くことになる坂崎空也ですが、途中で知り合った京の袋物問屋の隠居の又兵衛に連れられて柳生道場へと向かうことになります。

そこで、旧態依然とした柳生剣法に違和感を抱き、ついに皆が待つ姥捨の山へと向かいますが、やはり途中で修行のために山にこもります。

その後、襲い来る薩摩の刺客を退け、最後の対決相手として用意されていた佐伯彦次郎との勝負に臨む空也でした。

 

こうして、前述したように痛快時代小説である『居眠り磐音シリーズ』の続編的な立場のシリーズ作品として始まった本『空也十番勝負シリーズ』も最終巻を迎えることになりました。

でありながら、先に述べたように物足りなさを感じてしまいました。

それは多分、空也の強さが予想以上のものになってしまったことにもあるのではないかと考えています。

その生活態度も含めて常人の域を超えたところで生きている空也は、もう普通の人間ではなく超人と化しているのです。

そしてその超人はいかなる問題が起こっても単身で剣一振りを抱えただけで敵役を倒して問題解決してしまい、他の人達の問題解決の努力も意味がないものとしてしまいます。

一般的な痛快時代小説ではスーパーマンすぎる人物はいらず、頭をそして肉体を使い共に苦労して涙しながら問題解決の方途を探ることこそが求められていると思います。

つまり、皆で力を合わせて努力し、そのひと隅に主人公の剣の力がある、という設定がいるのではないでしょうか。

 

他の剣豪小説でも、主人公は常人以上の努力をして名人と言われる域に達しているはずなのですが、本シリーズでの空也の場合、そうした名人たちの努力をも楽に超えているような印象を持ってしまったように思えます。

加えて、芝居がかった印象まで持っているのですから物語をそのままに楽しめないのも当然なのでしょう。

そうした印象を持ったのは私だけかもしれませんが、非常に残念です。

とはいえ、全く面白くなくなったのかといえばそうではなく、痛快時代小説としての面白さをそれなりに持っているので悩ましいのです。

今はただ、続巻を楽しみに待ちたいと思います。

[投稿日]2024年02月01日  [最終更新日]2024年3月18日

おすすめの小説

おすすめの痛快時代小説

吉原御免状 ( 隆慶一郎 )
色里吉原を舞台に神君徳川家康が書いたといわれる神君御免状を巡り、宮本武蔵に肥後で鍛えられた松永誠一郎が、裏柳生を相手に活躍する波乱万丈の物語です。
鬼平犯科帳 ( 池波正太郎 )
言わずと知れた名作中の名作です。
用心棒日月抄 ( 藤沢周平 )
藩内の抗争に巻き込まれた青江又八郎という浪人者の用心棒としての日常を描いてあります。一巻目では赤穂浪士に関わり、二巻目以降は藩の実権を握ろうとする一派の企みを阻止ずべく、用心棒稼業のかたわら、放たれた刺客と闘う姿が描かれます。
剣客春秋シリーズ ( 鳥羽亮 )
剣術道場主の千坂藤兵衛とその娘里美、その恋人彦四郎を中心に、親子、そして若者らの日常を描きながら物語は進んでいきます。
口入屋用心棒シリーズ ( 鈴木英治 )
浪々の身で妻を探す主人公の湯瀬直之進の生活を追いながら、シリーズの設定がどんどん変化していく、少々変わった物語です。ですが、鈴木節は健在で、この作家の種々のシリーズの中で一番面白いかもしれません。

関連リンク

佐伯文庫 – 佐伯泰英 ウェブサイト
佐伯泰英 公式サイト
文春文庫『奔れ、空也 空也十番勝負(十)』佐伯泰英 - 本の話
空也の武者修行は、これにて完結! 京の袋物問屋の隠居・又兵衛と知り合った空也は、大和国室生寺にむかう一行と同道することになる。途中、柳生新陰流正木坂道場で稽古に...
空也の武者修行は、これにて完結! 2023年5月9日発売『奔れ、空也 空也十番勝負(十)』
父・磐音の故郷である豊後関前の地から、16歳で武者修行の旅に出た空也。薩摩での厳しい闘いの末に生じた酒匂一派との因縁。その後も長崎、上海、山城、近江などで死闘を...dd>
佐伯泰英の人気時代小説「空也十番勝負」シリーズが堂々の完結へ
2023年5月9日(火)、作家の佐伯泰英氏による小説『奔れ、空也 空也十番勝負(十)』(文藝春秋)が発売。本作をもって、2017年から続いた時代小説シリーズ「空...
松坂桃李主演で映画化もされた「居眠り磐音」シリーズ続編「空也十番勝負」が完結 次は磐音と空也父子の「壮年若年篇」か[文庫ベストセラー]
5月16日トーハンの週間ベストセラーが発表され、文庫第1位は『奔れ、空也 空也十番勝負(十)』が獲得した。 第2位は『霹靂 惣目付臨検仕る(五)』。第3位は『ク...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です