『バッド・コップ・スクワッド』とは
本書『バッド・コップ・スクワッド』は2022年11月に刊行された、長編のサスペンス小説です。
主人公の属する警官チームと対峙する犯罪者との目の前の金をめぐる緊迫した交渉が、手に汗握る作品となっています。
『バッド・コップ・スクワッド』の簡単なあらすじ
「私のいる場所が正義だなんて誰が言った」
5人の刑事の最低な1日の、最悪な選択。「彼は法を破ってでも、君を救ってくれるのか?」
違法捜査 昇任試験 監察官室 追跡 6億3000万円 小心者 人質家族 逃走経路 管理官 埼玉県警武南警察署 警視庁捜査一課特殊犯捜査……
正義と悪の狭間を行く5人の刑事の行き着く先は……!?
誰も見たことのない、衝撃の警察小説誕生!(内容紹介(出版社より))
元暴走族幹部が犯した強盗傷害事件捜査の容疑者を逮捕に向かったチームだったが、住まいであるマンションにはある筈の容疑者の車が無い。
しかし近所で容疑者の車を見つけ運転手を逮捕するが、その際、車体の弾痕から血を流している別の車を見つけてしまう。
その車が広い駐車場に入ったところでチームの一人がその車に近づくと、その車の運転手が突然発砲してきた。
何とかその男を捉えるが、その隙に逃走した最初に容疑者の車を運転していた男をチームの一人が誤って射ち殺してしまう。
ところが、主人公は誤射をしたメンバーに対し「望むならなかったことにしてやってもいい」と言い出すのだった。
『バッド・コップ・スクワッド』の感想
本書『バッド・コップ・スクワッド』は、いつもの木内一裕の作品と同じように実に読みやすい作品でありながらも、サスペンス感満載の警察小説となっています。
本書の中心となるのは、埼玉県川口市東部を管轄する武南警察署の強行犯係のチームです。
メンバーは指揮をとる係長の小国英臣警部補を始めとして、チーム唯一の女性捜査員の真樹香織里巡査長、橋本繁延巡査長、新米刑事の新田智樹巡査、そして本書の主人公でもある主任の菊島隆充巡査部長の五人です。
このチームが二週間ほど前に発生した強盗傷害事件の犯人と目される人物の逮捕に向かった先で遭遇した一台のハイエースを止めたところから新たな物語が始まります。
いきなり発砲してきたハイエースの運転手澤田弘幸を逮捕後に調べると、その車には数億の金が積んであったのです
ところが、今度はその金をめぐり新たな登場人物田中一郎まで現れ、事態は予想外の展開を見せ始めるのです。
本書『バッド・コップ・スクワッド』の最初のうちは、実在しそうもない警官たちを配してノワール風の物語を仕上げていく、木内一裕らしくない作品だという印象でした。
しかし、新田が拉致され、田中という第三者が現れたあたりから俄然物語の雰囲気が違ってきます。
背景や登場人物が一新した別の作品のように感じられてきて、濃密なノワール小説へと変わりました。
まさに木内一裕の物語が展開されて以降の展開が読めなくなり、一気に読み終えてしまいました。
もともと、木内一裕の作品は登場人物の心象はあまり表現されておらず、小気味いいリズムで会話が展開し、その会話の中で物語の進行が為されていきます。
そして、主人公の性格設定は基本的に「悪」であり、それゆえに物語はノワール小説の色合いを帯びる場合が多いのです。
そういう意味では、作者木内一裕が昔書いていた漫画『ビーバップハイスクール』の展開を思い出させるのです。
高校生が主人公ですから、もちろん内容は全く異なるものの、どこか物語に漂うコミカルなタッチや、時に見せるバイオレンスなど、作者の傾向はやはり同じだという印象です。
バイオレンスという点では『ドッグ・メーカー』や『煉獄の獅子たち』などの深町秋生と似たものを感じます。
しかし、深町秋生の作品はその暴力性の点で木内一裕のそれを上回りますが、逆に木内一裕に見られるユーモアのタッチは見られないと思います。
どちらがいいというものではもちろんなく、私の中ではどちらも面白いエンターテイメント小説であり、全部の作品を読みたい作家さんでもあります。
話を本書『バッド・コップ・スクワッド』に戻すと、本書は菊島を中心とするチームの物語にはなっていますが、その実、菊島個人の物語です。
菊島自身も言っているように、菊島自身が犯罪者側にその心裡が傾いていて、その点で本書は悪徳警官ものの変形ということもできるかもしれません。
そうした面で本書はノワール小説なのであり、元ヤクザが探偵をやっている同じ木内一裕が描く『矢能シリーズ』と同様に、新たに菊島を主人公とする元警官である犯罪者のシリーズとして続行されることを期待してしまいます。
本書の菊島というキャラクターはそれだけ魅力的な人物であり、シリーズを維持していけるだけのキャラクターだと思うのです。
木内一裕の作品にははずれがない、という言葉をネットでも散見しましたが、全く同意見です。
今後の展開を期待したいと思います。