木内 一裕

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講談社

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本書『飛べないカラス』は、出所したばかりの元売れない役者を探偵役とする、長編のミステリーです。

ミステリーとは書きましたが、そう言い切っていいのか疑問もあるほどに物語の謎自体は深くはありません。にもかかわらず、物語としてはかなりの面白さがある不思議な小説です。

 

俺の幸運は、不幸の始まり…のはずだった。元売れない俳優で、元企業経営者。元犯罪被害者で、元受刑者。納得しようのない罪での服役を終えた加納健太郎への奇妙な依頼は、彼を運命の女へと導いた。規格外のニューヒーロー誕生!笑い、驚き、涙するすべてが詰まった究極の娯楽作!(「BOOK」データベースより)

 

主人公は加納健太郎という元売れない役者です。この男が、ある理由から入った刑務所から出所するところからこの物語は始まります。

シナリオライター界の重鎮である大河原俊道から、自分の娘かもしれない村上沙羅という女が現在幸せでいるかどうかを調べてきてほしいと頼まれます。

その女村上沙羅はあっさりと見つかりますが、加納健太郎は、逆に「私のこと、わかりませんか。」と問われる始末でした。

さらに、そのすぐ後に知り合った前田慎也という男は、その数日後死体となって発見されるのです。

 

読みはじめは、一人称での語りだというこもあり、また物語の内容が人探しであることもあって、本書『飛べないカラス』はハードボイルド小説だと思い読み進めていました。

ところが、そうかからないうちにどうも話がハードボイルド小説とは異なり、どちらかというと、軽いミステリータッチの探偵小説のように進んでいることに気が付きます。

たしかに、主人公は生き方にこだわりを持っているようであり、腕っぷしも強く、襲い掛かる正体不明の暴力に対してもこれを軽くいなしてしまいます。

しかし、ハードボイルドをにおわせるのはそれだけであり、正体不明だと思っていた暴力の正体はすぐに明らかになります。

 

それどころか、探す対象の女はすぐに見つかり、その女は主人公を知っていて、私のことを覚えていないのかと、逆に問われてしまうのです。

そこで、自分とその女とのかかわりを探すことになるのですが、そこは主人公のこだわりを貫く姿勢が描写されるわけでもなく、少しずつ判明してくる情報をもとに正解にたどり着く、それだけのことです。

 

でも、そこ過程が結局は主人公の加納健太郎の過去を振り返ることにもなり、また役者加納健太郎としての役者論、演劇論の端をかじるような描写もあって、なかなかに読ませます。

それは勿論、本書『飛べないカラス』を書いている木内一裕という作者の力量だと思うのですが、読みこめば深さを感じさせるような内容を軽く感じる文章で描いてあり、とても読みやすいのです。

 

ただ、本書で唯一つといっていいのかもしれませんが、不満点を挙げるとすれば、宮下日菜という女性についての書き込みがあまり無いということです。

この女性は本書でかなり重要な役目を担っているはずなのですが、宮下日菜という女性がどのような人物なのか、その背景は全くと知っていいほどに書いてありません。

例えばキャバ嬢のアルバイトをしていたとか、キャバクラの共同経営の話でトラブっているとかの表面的な事実は書いてあっても、何故にこうも深く加納健太郎に関わるのかなど、宮下日菜個人を深く知る情報は無いのです。

もう少し、加納健太郎に関わる事情を書いてあればと読み進めながらなのも思ったものです。

 

何はともあれ、木内一裕という作家の作品は、会話文の使い方のうまさ、ストーリー運びのうまさなど、私の好みにうまく合致しているようです。

もっとも、木内一裕の作品全体としてみるとき、何となく世界観が狭い印象はあります。

それが悪いということではなくて木内一裕が作り出す物語として大好きなのですが、例えば 大沢在昌の『新宿鮫シリーズ』のような物語などと比べると、物語世界の広がりが狭いと感じるのです。

 

 

この作家の作品は文章のテンポがいいだけに、じっくりと読みこむとのではなく、ストーリーの流れに乗っていくことが楽なのではないでしょうか。

そのことが、物語の中でのいろいろな意味での距離感を、空間的にも、また人間関係においても広く感じさせていない、とも思えるのです。

 

私は、この作家では『矢能シリーズ』の大ファンでもあります。

本書の主人公加納健太郎も『矢能シリーズ』の矢能のように面白いキャラクターだけに、本作があの『矢能シリーズ』のように膨らんでくれればと思います。

でも本書で加納健太郎の人生の核心に踏み込んでいるので、多分そうはならないでしょう。

 

[投稿日]2020年09月10日  [最終更新日]2020年10月2日
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