思惑どおりにいかない人生に自棄を起こしそうになっていたノボルのもとに、簡単数日間の仕事で1000万円の報酬という話が舞い込む。別れた彼女に借りた金を返すためにも早急に金が必要だったノボルはためらいながらもその仕事を受ける。約束の場所に約束の人物は現れなかったのだが、一夜明けるとノボルらは殺人犯として追われる立場になっていた。
実に視覚的で映像感覚豊かな痛快小説です。木内一裕らしい、テンポのいい青春アクション小説として仕上がっています。
主人公のノボルは、単純な仕事のはずだったのにより大きな何者かの思惑に取り込まれ、殺人犯にされてしまいます。一打席だけバッターボックスに立ったつもりがその一球はデッドボールだったのです。自分たちは何故こんな目にあっているのか、誰に騙されているのか。兼子ノボルと彼に話を持ちかけててきた源田ツトムらはその謎に立ち向かうのです。
常に視点が変化します。同じ場面をも異なる視点で描きつつ、それぞれの立場での舞台裏を見せながら、互いの行動の意味を明らかにしています。視点の変化というその流れさえも、構成がしっかりしているために紛らわしくなく、端的な文体とも相まって実に効果的です。映画的と言っても良いかもしれません。
木内一裕と言えば、なぜか深町秋生の作品を思い出してしまいます。深町秋生といえば、第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、「渇き。」というタイトルで映画化もされた『果てしなき渇き』という作品が一番有名だと思われるのですが、多分木内一裕の『藁の楯』と物語の持つ雰囲気が似ているのだと思います。
ただ、子細に検討すると深町作品が抱えている闇に比べると、木内作品はまだ救いがあるなど、相違点は多々あるのです。その意味では本書はまさに木内一裕の物語なのです。
ワル達が主人公という点では、東山彰良の『路傍』や『逃亡作法』もあります。犯罪者を主人公として描いた作品という意味ではノワール小説とも言えそうです。