『付添い屋・六平太 犬神の巻 髪切り女』とは
本書『付添い屋・六平太 犬神の巻 髪切り女』は『付添い屋・六平太シリーズ』の第六弾で、2023年4月に274頁の文庫本書き下ろしで刊行された、連作短編の痛快時代小説集です。
『付添い屋・六平太 犬神の巻 髪切り女』の簡単なあらすじ
冬空の下、浪人の秋月六平太は若党に扮して笹郷藩主登城の行列に加わっていた。かつて信州十河藩の警固役だった身としてほろ苦い思いに浸る中、突如現れた曲者たちの襲撃に遭う。藩主は難を逃れたものの、立ちはだかった六平太には影が付きまといはじめる。そんなある日、巣鴨で娘が髪を切られる事件が。最初に起こった品川から四件目だが、娘に怪我を負わせるわけでもないという。下手人の意図が気になる六平太が毘沙門の親方・甚五郎に相談すると、四つの事件には意外な繋がりがあると分かり…。六平太最愛の女に危機が迫る、王道の人情時代劇第十六弾!(「BOOK」データベースより)
第一話 日雇い浪人
天保四年の冬、笹郷藩主の登城の列に加わるため、若党に扮していた六平太。乗り物とともに御成街道を進んでいると、不意に幾つかの黒い影が飛び出し、行列を襲いはじめた。立ちはだかった六平太に、曲者は引き上げていったものの……。
第二話 髪切り女
品川で娘が髪を切られる事件が起きてから、ひと月半。巣鴨で四件目となったが、怪我を負わせるわけでもないという。いまだに手掛かりを得られない下手人の意図が気になる六平太が、毘沙門の親方・甚五郎に話を振ってみると意外な繋がりが……。
第三話 内輪揉め
「市兵衛店」で夫婦喧嘩が! やきもち屋のお常は、天気が悪いのに仕事に行くと言ってきかない大工の夫・留吉が、若い女とできてい円熟の第16弾!ると疑って引かないのだ。六平太が留吉に事情を聞くと、仕事先で妙なものを見つけてしまい、気になっているという。
第四話 春待月
六平太は『飛騨屋』の主・山左衛門の相談に乗っていた。店の養子を決めたと言うが、お登世の婿としてではないらしい。独身娘の集まり『いかず連』はどうなるのか? 翌日、六平太の恋仲のおりきが行方れずに。笹郷藩の行列を襲った者が怪しいが。(内容紹介(出版社より))
『付添い屋・六平太 犬神の巻 髪切り女』の感想
本書『付添い屋・六平太 犬神の巻 髪切り女』での巻を通してのエピソードは、「第一話 日雇い浪人」での笹郷藩主登城の際の襲撃事件に関する話です。
この襲撃事件の裏にあった笹郷藩内での派閥争いに巻き込まれた秋月六平太が、その剣の腕を見込まれて派閥の双方から助力を頼まれ、また反感を買うことになります。
そこで六平太に最後までつきまとう武士として笹郷藩江戸屋敷の徒歩頭である跡部与四郎という角ばった顔の侍が配置されています。
藩主の命を救った六平太ですから、感謝されることはあっても恨みを買うことはないはずですが、そこが主持ちの武士の融通の効かないところであり、厄介なところでした。
前巻『河童の巻 噛みつき娘』の項で書いたように、本書『犬神の巻 髪切り女』でも魅力的な主人公とその周りの人々の人情話が語られています。
「第一話 日雇い浪人」は前述したように主持ちの武士の融通の利かない振る舞いについての話でしたが、第二話「第二話 髪切り女」は近頃江戸の町で起きている娘が髪を切られるという事件の顛末です。
四谷にある相良道場で久しぶりに道場で顔を合わせた北町奉行所同心の矢島新九郎と汗を流した後に、娘が髪を切られるという事件が起きているという話を聞きます。
その後、この事件は「いかず連」の登勢やお千賀らへと伝わり、彼女らも巻き込んで展開するのでした。
「第三話 内輪揉め」は、「市兵衛店」に住む留吉とお常夫婦の物語です。
お常が、近頃留吉がため息ばかりをついているため留吉に女ができたと思い込み、夫婦仲が険悪になっていると聞いて、二人の間に入り話を聞いた六平太でしたが、話しは意外な方向へと向かいます。
「第四話 春待月」は、これまでの三話それぞれの総仕上げのようになっていて、本シリーズにしては珍しい構成です。
つまり、留吉とお常の夫婦にはお礼として届き、また「飛騨屋」の主の山左衛門からは店のために養子を決めたと聞かされます。そんなとき、おりきが行方不明になったとの知らせが届くのでした。
前にも書いたように、本書『付添い屋・六平太 犬神の巻 髪切り女』ではシリーズを通した大きな敵はいませんし大きな出来事もありません。
秋月六平太という素浪人の日々の生活が描かれていくだけであり、ただ、付添人である六平太の周りには人より揉め事が多く存するというだけです。
そこに痛快時代小説としてのネタがあるわけですが、若干派手さが欲しいという気がしないでもありません。
本書も、そうした流れの中に普通に位置づけられる作品だと思います。
ただ、そういう声が聞こえたのか、本書の終わりにちょっとした出来事が用意してあり、次巻へと続きますので、続巻を待ちましょう。