『付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』とは
本書『付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』は『付添い屋・六平太シリーズ』の第十五弾で、2021年12月に文庫版で刊行された280頁の作品で、人情味豊かな連作の短編小説集です。
『付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』の簡単なあらすじ
天保四年秋、秋月六平太は豪商の娘たちの舟遊びに付添った。その会食の席で酔った若侍が狼藉を働く。残された脇差から侍は旗本の次男・永井丹二郎と知れた。意趣返しを警戒し永井に接触した六平太は、逆に剣の腕を見込まれ、道場師範に乞われてしまう。その頃『市兵衛店』に付添い仲間の平尾伝八夫婦が越してきた。さらには妹の佐和母子も六平太宅に居候することになり、長屋は俄に賑やかに。稼業のためにと剣術修業を始めた伝八に、六平太は祝儀代わりの仕事を融通した。だが翌朝、伝八は何者かに斬られ瀕死状態で見つかる。日本一の王道人情時代劇、最新刊!(「BOOK」データベースより)
第一話 深川うらみ節
天保四年秋、材木商の娘らが徒党を組む「いかず連」に付添うことになった六平太。その会食の席に酔った若侍が乗り込み、狼藉を働く。残された脇差から侍は旗本の次男・永井丹二郎と知れた。意趣返しを警戒した六平太は丹二郎に接触する。
第二話 付添い料・四十八文
『市兵衛店』に付添い仲間の平尾伝八夫妻が越してきた。さらに妹の佐和とその子らが六平太宅に居候することに。そんなある日、桶川への付添いの依頼が舞い込む。依頼主は奉公人で全財産はわずか四十八文。成り行きで引き受けるが……。
第三話 噛みつき娘
相良道場での稽古後、穏蔵の養父・豊松が死亡したとの知らせが入る。養家を継ぐのか、江戸に残るのか、穏蔵の将来を皆が心配する中、自分が実の父であることを隠しながら、六平太は厳しい言葉を突き付ける。
第四話 闇討ち
六平太の剣の腕を買い、丹二郎は自身の道場に招こうと躍起になっている。そんな頃、平尾伝八が剣術稽古を始めたことを知った六平太は、祝儀として付添い仕事を譲ることに。しかしその翌日、伝八が何者かに斬られているのが見つかった。(内容紹介(出版社より))
『付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』の感想
本書『付添い屋・六平太 河童の巻 噛みつき娘』での巻を通してのエピソードは永井丹二郎という旗本の次男坊が六平太にまとわりつく話であり、それとは別の各々の話での個別のエピソードとがあります。
本書を読んでいる途中でただただ六平太の日常を描く、そうした小説もまたいいものではないかと思いながら読み終えました。
その後本ブログのシリーズ前巻『猫又の巻 祟られ女』の項を読み返すと、本シリーズは六平太を取り巻く人間模様を描き出す物語なので特別な敵役など必要ではない、と記しています。
つまりは、シリーズ物の痛快時代小説といえば、例えば『居眠り磐音シリーズ』での田沼意次のように、主人公と対立する敵役があった方が面白い、と思っていたのです。
しかしながら、そうではないのだと、魅力的な主人公がいてその周りの人々の人情話を語り続けるだけでも十分に面白いシリーズがあり得るのだとあらためて思っていたようです。
それが、前回も、そして今回もこのシリーズを読んでいる中で同じように感じていたのだと思えます。
ですから、シリーズでは巻ごとに特有の人物が現れたり、長屋の住人の入れ代わりもあって、物語としての新陳代謝を図っているのでしょう。
また、物語としての派手な展開もなく、人情話に重点が置かれることになるのでしょう。
それはそれで話さえ面白くできていれば何の問題もないのであり、事実、本シリーズはそうした展開になっていると思われます。