他人の人生を踏みにじり、生き血を吸う毒虫ども。享楽と喧騒の中に垣間見えた奇妙な友情。愛すれば愛するほど、壊れていく男と女。歌舞伎町には、この街なりの秩序というものがある。法では裁けない非道、そして現代の卑しき心の病魔を始末する。それが、伝説の歌舞伎町セブン。(「BOOK」データベースより)
『歌舞伎町セブン』シリーズの前巻『ノワール-硝子の太陽』で仲間の上岡慎介というフリージャーナリストを失ってから二か月が経った歌舞伎町セブンを描く短編集です。
兼任御法度
帝都大学ラグビー部OBらが惹き起こした強姦事件がなぜか揉み消しにあっていた。たまたま事件現場から出てきた掃除屋のシンちゃんを巻き込んでセブンの動き始める。
揉み消されようとしている強姦事件は単純に世の悪を懲らしめるという単純な作品です。
凱旋御法度
エジプトに帰ることになったテルマの運転手のアイマンが水道道路で交通事故で死んだ。何故そんな場所にいたのか誰も知らない。またまたアイマンらしき男が車に押し込められるのを見ていたシンちゃんの情報をもとにセブンが活躍する。
誉田哲也らしいと言っていいものか、少々グロい描写のある暴力信奉者に殺された外人の恨みを晴らします。
売逃御法度
杏奈が門脇美也子から相談を受けた三上亮の殺害依頼。被害者の田嶋夏希の視点と、加害者三上亮の視点で語られ、最終的に待つのは意外な展開だった。
依頼人の隠された秘密という意外な結末が待っている作品です。
改竄御法度
掃除屋のシンちゃんのもとにひょんなことからICレコーダーが飛び込んできた。小遣い稼ぎだと騙されて連れていかれた陽奈が、コウキが助けに来てくれた隙に盗ってきたらしい。ところが、そのコウキはシンちゃんが既に掃除をしてしまった男らしかった。この陽奈を助けるためにセブンが、主に市村が相手のヤクザである辻井を相手に動きます。
今回は逆に、依頼人が知らない隠された真実が悲しい作品です。
恩赦御法度
陣内の店「エポ」にやってきた東が帰り、ジロウと話しているところに土屋昭子から「たすけて」というメールが入った。添付されている画像ファイルに移っているのはニュースで報道している茨城の庄田満らしかった。
新世界秩序(NWO)の姿がかすかにうかがわれる土屋昭子の物語です。
今回の歌舞伎町セブンは短編集です。
作者が「いつか作品にしたいと思っていました。」という『必殺仕事人』シリーズ(歌舞伎町が再び血に染まる : 参照)を念頭に書いた現代の「仕事人」である「歌舞伎町セブン」ですが、本書では本来の仕事人としてのセブンが描かれています。
ただ、前作の『ノワール-硝子の太陽』の出来があまりにも素晴らしくて、その印象をもっての本短編集でしたが、前作のような凝った物語というわけにはいかなかったようです。
本書は、誉田哲也の作品としては普通の出来というしかありませんでした。
とはいっても、ストリーテラーとしての誉田哲也の描く世界ですからそれぞれに物語が凝った作りとして語られています。
冒頭の作品は仕事人の物語として単純であり、あと四話これが続くのは避けてほしいと思っていました。しかし、さすがに誉田哲也の作品であり、読み進むにつれ物語の色を変えてあって、なかなかにバラエティに富んだ作品集でした。
本書では新しいメンバーとなるかもしれない掃除屋のシンちゃんが三話にわたりキーマンとして活躍します。また、死んだ上岡の同業者であり新世界秩序(NWO)の関係者である土屋昭子もたびたび顔を見せ、セブンのメンバーに入れるべきかと話題になったりと、それなりの面白さは持っています。
ただ、『ジウサーガ』の一環としてみた場合、どうしても前述のような物足りなさを感じてしまいます。単純な「仕事人」としての物語ではなく、新世界秩序との対決として位置づけられる「歌舞伎町セブン」の物語をじっくりとよみたいものです。