もし絵馬の言葉が本当なら、私をあなたのお嫁さんにしてください―。きっかけは絵馬に書いた願い事だった。「嫁に来ないか。」と書いた明青のもとに、神様が本当に花嫁をつれてきたのだ―。沖縄の小さな島でくりひろげられる、やさしくて、あたたかくて、ちょっぴりせつない恋の話。選考委員から「自然とやさしい気持ちになれる作品」と絶賛された第1回『日本ラブストーリー大賞』大賞受賞作品。
本書が小説家デビューである作者のファンタジックな長編恋愛小説で、日本ラブストーリー大賞を受賞している作品です。
「作家としての経験を積んでおきたかった」という作者が、当時勤めていた「六本木ヒルズからいちばん遠い世界を書こうと思って」書き始めたのが、取材旅行で足をのばした伊是名島での、カフーという犬を連れた人との出会いだったそうです。そのことが、「『カフーとは幸せという意味です』と聞いた時に、私のなかでカキーンと何かがヒットしました。」という作者の言葉に表れています。( 作家の読書道 : 参照 )
家の近くに青い空と海、そして白い砂浜があるという、絵にかいたような沖縄のとある村に住む明青は、ある日突然に「幸」という女性からの手紙を受け取ります。それは、明青が旅先で戯れに残した「嫁に来い」という絵馬を見たという女性の、「結婚してください」という内容の手紙でした。
この手紙を受け取ってからの幸が現れるまでの明青のほのぼのとした様子など、とてもデビュー作だとは思えない出来です。
明青のもとに現れた幸は、いつか自然に明青らの仲間になり、明青の裏の家に一人住む島唯一人のユタであるおばあと共に、明青は愛犬カフーと幸との暮らしを続けるのでした。
しかし、そうした絵にかいたようなパラダイスにも開発業者の手は伸びてきます。生活という現実のもとで、土地を売らなければならない人も出てくるのです。
そんな中でも明青は、幸との暮らしを維持しようとする努力すらもしないのでした。
沖縄の美しい自然の中での生活があり、そこに突然に美女が現れ一緒に住み始める。そんな展開はあり得ないだろう、という思いもあったのですが、だからこそのファンタジーであり、美しさと、人の善意を強調した恋愛小説なのだろうと納得したものです。
たまにはこうした毒のない美しい物語もいいものだと思える小説でした。
本書のような恋愛小説は私の得意とするところではなく、あまり読んだことはないのですが、それでも井上荒野の直木賞受賞作である『切羽へ』は、官能の香りを漂わせる大人のための恋愛小説として、「性よりも性的な、男と女のやりとり」を醸し出している佳品との文言が適切な、こういう物語もあるのだと、小さな驚きを持って読んだ小説でした。
また雫井脩介の『クローズド・ノート』は、引っ越した先のクローゼットに置き忘れられた一冊の日記をめぐる物語で、そのノートの中で息づく一人の女性とその女性に対する主人公の女性の想いが、テンポのいい文章で描写されており、思わず惹きこまれてしまいました。
これらの小説はファンタジックな要素が満載の本書『カフーを待ちわびて』とは少々異なりますが、恋愛小説という意味では、読んでいてこうした小説もたまにはいいものだと思わせられた小説でした。
なお、本書を原作として、有羽なぎさという人の画によるコミックも出ています。この人の画がどういう画かは分かりませんが、装丁画を見る限りは、ファンタジックなタッチのような気がします。
また、明青を玉山鉄二、幸をマイコという配役で映画化もされています。私は未見ですが、いつか見て見たいと思っています。