原田 マハ

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文庫

実業之日本社

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20××年、相馬凛子は42歳の若さで第111代総理大臣に選出された。鳥類学者の夫・日和は、「ファースト・ジェントルマン」として妻を支えることを決意。妻の奮闘の日々を、後世に遺すべく日記に綴る。税制、原発、社会福祉。混迷の状況下、相馬内閣は高く支持されるが、陰謀を企てる者が現れ…。凛子の理想は実現するのか?感動の政界エンタメ!(「BOOK」データベースより)

 

日本初の女性総理大臣の夫が記す、未来の超一級歴史的資料となる予定の日記、という形式をとった長編小説です。

テーマは非常に面白そうで手にとっては見たものの、この作者の手になる作品としては若干私の好みとは異なる作品でした。

 

主人公は、相馬日和という三十八歳の鳥類学者です。日本を代表する大財閥相馬一族を実家に持つイケメンです。東京大学理学部を卒業後、同大学院生物多様性科学研究室で博士課程を修了し、現在は善田鳥類研究所の研究員です。

日和の母親相馬崇子は「音羽の奥さま」と呼ばれ、何人もの使用人にかしずかれている存在であり、兄の相馬多和は非上場企業グループ「相馬グループ」のCEOです。

そして、この物語の中心にいるのが相馬凛子、四十二歳です。東京大学法学部卒でハーバード大学院法学政治学研究科で博士課程を修了し、公共の政策シンクタンクで研究員を務めたのち、三十一歳で無所属で衆議院議員に初当選した美人です。

ちなみに凛子の父親は真砥部惇といい最年少で開田川賞を受賞した小説家であり、花親の真砥部夕は東大大学院教授で国際政治学を専門とする政治学者で、二人ともに既に他界されています。

ほかに、凛子が党首を務めていた直進党の広報担当だった富士宮さんが、「総理の夫広報担当」として日和の日常を監視する役目としており、更に、凛子のスピーチライターとして、本書の作者原田マハの『本日は、お日柄もよく』に登場した伝説のスピーチライターである久遠久美も少しですが登場します。

 

 

この凛子が政界屈指の策士、原久郎の後押しで内閣総理大臣になることとなったのです。

つまり、与党だった民権党の原久郎が米沢内閣に反旗を翻し、野党の直進党党首相馬凛子が提出した内閣不信任決議案に同調して民権党を割って出たことで民権党は野に下り、成立した連立内閣の首班として相馬凛子が指名されるに至りました。

そこで、凛子の夫の日和が、後々のためにと総理大臣たる凛子の夫としての毎日を日記に認めることになったのです。

 

日本初の女性総理の成立や日常の裏側を垣間見れる、という設定は非常に魅力的であり、勇んで読み始めたのですが、残念ながら私が予想していた内容とは異なるものでした。

というのも、登場人物、特に相馬凛子という人物は現実にはあり得ない完全無欠な人物であり、まさに虚構の世界にしか存在しえないであろう人物として設定されていました。

その上で、総理の夫たる相馬日和を始めとする登場人物らも虚構の世界の人達でしかありません。

結局、本書は現実の政界に対するカタルシスをもたらしてくれるであろう物語を超えて、ファンタジー小説と言うしかないのです。

 

ただ、私が勝手に内容を予想し、ハードルを上げた末に、そのハードルに達していなかったというのですから非常に失礼な話ではあります。

擁護するわけではありませんが、本書でも消費税など様々な社会問題に対する凛子の主張など、かなり調べ上げられたうえで書かれてはいます。

ただ、消費税を15%にアップするという公約に対する国民の理解が簡単にと言っていいほどに進むことなど、若干首をひねらざるを得ない点が多々あるのです。

更には、凛子と日和に襲い掛かるスキャンダルの仕掛けも都合よく処理されてしまう、という点も物語展開として勿体ないとしか感じませんでした。

 

物語として、総理大臣となった凛子と日和の夫婦の関係も、たまには危うさを感じる場面もあり、物語としての展開自体はさすがに面白く読んだものです。

全344頁という分量を長いと感じずに読み通したのも事実です。

しかし、それには相馬日和と相馬凛子という、頭がよくて金持ちで見栄えのいい人間像を受け入れた上で、権謀術数渦巻く政財界の現実を捨象した上での話です。

現実との乖離というファンタジーを認めにくい人にとってはあまりお勧めできない作品でした。私が読んだ限りでの原田マハという作家の作品の中では、本書は上位にはいかないと思います。

 

蛇足かもしれませんが、本書のように政治の世界を舞台にしたエンタテイメント小説としては、まず 池井戸潤の『民王』という小説があります。総理大臣とその息子との間で突然人格が入れ替わってしまい巻き起こるドラマをユーモラスに描き出した物語でした。

この作品は設定自体がファンタジーではあるのですが、私の好きな 池井戸潤の物語としては何故か途中で読むのをやめた記憶しかありません。

どうして読むのをやめたのか、人格の入れ代わりという前提での政界の混乱を描いてあると思ったのに、その点がそうでもなかったからではなかったかと思いますが、はっきりとは覚えていません。

 

 

そして少々古く、またエンタメ小説とは言えないでしょうが、戸川猪佐武の『小説吉田学校』(人物文庫 全八巻)という作品があります。

しかし、この作品はここで取り上げるべき作品ではないかもしれません。ただ、政界の裏側を描いた実録小説として非常にインパクトがあったので挙げておきます。

他にコミックの世界では何作かありますが、大人気作『島耕作シリーズ』を描いた弘兼憲史の『加治隆介の議』(講談社漫画文庫 全10巻)があります。政治の世界を正面から描いた読みごたえのある作品でした。

 

 

[投稿日]2019年12月30日  [最終更新日]2019年12月30日
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