寛政期、西国の小藩である月ヶ瀬藩の郡方・日下部源五と、名家老と謳われ、幕閣にまで名声が届いている松浦将監。幼なじみで、同じ剣術道場に通っていた二人は、ある出来事を境に、進む道が分かれ、絶縁状態となっていた。二人の路が再び交差する時、運命が激しく動き出す。第十四回松本清張賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
主人公は日下部源五、松浦将監という武士の子、それに加えて百姓の子である十蔵の3人と言って良いでしょう。この3人の現在と少年期、青年期とが交互に描かれます。読み進むにつれ3人の現況とそこに至るまでの秘密が明かされていくのですが、その構成が読み手を引きつけるのです。
先に『川あかり』を読んだときには藤沢周平ほどの余韻は無いと感じたのですが、本書では逆に藤沢周平のタッチを思い出してしまいました。この作品の方が『川あかり』よりも前に書かれた筈なのだけれど、本作品の方が落ち着いて感じられるのは私だけでしょうか。
登場人物の心理も、情景の描写も丁寧に描かれています。作者は私と同年らしいのですが、その博識さ、描写力の優しさ見事さ、自らとの落差を思い知らされるばかりです。
ともあれ、時代小説の新たな書き手として読者としては楽しみというばかりです。時代小説のファンであれば一度読めば虜になることは間違いないと思われます。