明治十三年、福岡藩士出身の月形潔は、集治監建設のため横浜港から汽船で北海道へと向かった。その旅のさなか、亡き従兄弟の月形洗蔵を想った。尊王攘夷派の中心となり、福岡藩を尊攘派として立ち上がらせようとしていた洗蔵。だが、藩主・黒田長溥は、尊攘派の台頭を苦々しく思っており、洗蔵は維新の直前に刑死した。時は過ぎ、自分は今、新政府の命令によって動いている。尊敬していた洗蔵が、今の自分を見たらどう思うのか?激動の明治維新の中で国を思い、信念をかけて戦った武士たちを描く、傑作歴史小説!(「BOOK」データベースより)
本書は前半と後半で異なる物語が語られます。
前半は明治維新時の福岡藩に実在した、同じ葉室麟の作品である『春風伝』にその名前が出てきた月形洗蔵という人の物語であり、後半は月形洗蔵の従兄弟である月形潔の明治期における北海道での樺戸集治監での物語です。
そして、明治維新という波を地方の小藩から見た物語です。今まで良く知らなかった薩長同盟の実質的な立役者月形洗蔵、その月形洗蔵を反発しながらも動かしていた福岡藩の藩主黒田長溥等々の人々が語られているのは実に興味深い物語でした。明治維新という時代の変革に振り回される小藩の様子が良く描かれていたのではないでしょうか
当時のダイナミックな時代の動きは単純に個人の力だけでは動かないのだと、当り前のことですが、改めて思い知りました。
ただ、出来ればこの月形洗蔵の話で一冊の物語を読みたいと思いました。結局、後半の月形潔の物語までも少々中途半端に感じたのです。
潔は時代を照らす月の光たらんとするも、集治監の所長として過酷な環境下で囚人たちに対し厳罰で臨まなければならない現実との相克に悩み続けますが、脇の人物の配置など、葉室麟という作家にしては少々雑な感じがしたのは残念でした。