アルジャーノンに花束を

D・キイス著の『アルジャーノンに花束を』は、古典SFの中でも名作と言われる長編のSF小説で、ネビュラ賞を受賞した作品です。

小尾美佐氏の見事な翻訳により、たんなるSF小説という枠組みを超えた名作と言われる理由がよく分かる、感動的な作品でした。

 

32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。そんな彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の先生が頭をよくしてくれるというのだ。これにとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を受ける。やがて手術によりチャーリイの知能は向上していく…天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは?全世界が涙した不朽の名作。著者追悼の訳者あとがきを付した新版。(「BOOK」データベースより)

 

『アルジャーノンに花束を』はいつかは読むべき本だとは思っていながら、どちらかと言えば内容が重い作品だと聞いていたので、何となく忌避していたのかもしれません。

でも図書館で本書が目の前にあったのですぐに借りて読み終えました。そして、名作と言われるその意味が分かりました。

 

32歳になる知的障害を持つ青年チャーリー・ゴードンはIQを向上させるという手術を受けます。アルジャーノンと名付けられた実験動物のねずみは、この手術を受け劇的な知能の向上を示していました。

そして、手術を受けたチャーリーもまた高い知能を得ます。しかし、高い知能を得た代わりに失ったものもあったのです。

 

本書『アルジャーノンに花束を』は、チャーリー自身の手による経過報告という手記の体裁で物語は進むのですが、翻訳者の小尾美佐氏の翻訳の表現が見事としか言いようがありません。

当初のIQが低い状態のチャーリーの報告では句読点もないひらがなの文章であり、チャーリーがより高度な単語を覚えていくにつれ、達者な文章として綴られていくのです。

作品の内容もさることながら小尾氏の訳もまた名訳と言われているのも納得します。

 

高度な知能を獲得したチャーリーは、過去の記憶まで明瞭に取り戻し、父や母、そして妹とのやり取りをも思いだします。

息子の知的障害を認めたがらず、厳しい躾により色々なことを覚えさせようとするヒステリックな母、その母親を抑えることのできない父親、知的障害の兄を疎ましく思う妹などの蘇った記憶はチャーリーの心を深く傷つけます。

また、チャーリーが働いていたベーカリーでの仲間の仕打ち、自分に手術を施した教授、更には自分に読み書きを教えてくれていたキニアン先生への性的な欲望など、思いもよらない心の葛藤がチャーリーの心を苦しめるのです。

 

知的障害を持つ人たちへの健常者と言われる人たちの視線、感情等がむき出しにされていき、経過報告を読んでいる読者は常に自らの行いを見つめ直させられます。

人間の持つ弱者に対する優しさと傲慢さとが差別を受ける人間の目線で語られていくのですが、それは知的障害を持たない我々への警鐘にもなっているのです。

そしてクライマックスを迎える過程でチャーリーの人間としての存在が、誇りが読者の前に突きつけられ、経過報告のしめくくりに至るのですが、この最後2行には心を打たれ、いつまでも心から消えません。

爽やかな読後感とは行きませんが、どこまでもやさしいチャーリーの言葉に救いを見つけたいと思います。

 

私が読んだ『アルジャーノンに花束を』新刊書には谷口高夫氏の解説が付属していたのですが、この解説がまた素晴らしかった。

主人公の内心の葛藤についての解説は勿論のこと、SFというジャンルが「架空世界から現実世界へと向かうベクトルが働いていた」時代に、「限りなく地表に向かって近付いて行って成立した」のがこの作品だという話には、大いに納得させられました。

 

SFというジャンルだからというわけではなく、一編の文学作品として是非読んでもらいたいと思う作品でした。

旅仕舞 新・酔いどれ小籐次(十四)

本書『旅仕舞 新・酔いどれ小籐次(十四)』は、『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十四弾です。

今回は、例幣使杉宮の辰麿という押し込みの一味と小籐次との対決が見どころとなっています。また、同時に非の打ち所のない少年として育っている駿太郎のこれからに思いを致す小籐次の姿もあります。

 

文政8年冬。日光街道周辺で凶悪な押込みを働いていた杉宮の辰麿一味が江戸に潜り込んでおり、探索に協力してほしいと小籐次は乞われる。その直後、畳屋の隠居夫婦、続いて古筆屋一家が惨殺された。一味の真の目的を探るうち、小籐次は自分やその周辺が標的にされる可能性に気付く。久慈屋に迫る危機を小籐次は防げるのか?(「BOOK」データベースより)

 

以下、簡単なあらすじです。

第一章 社参延期
久しぶりに江戸へと戻り久慈屋の店先で研ぎ仕事を始めた小籐次父子のもとに、南町奉行所定町廻り同心の近藤精兵衛らが来た。そして、上様の日光社参の延期理由の一つでもある押し込み強盗の例幣使杉宮の辰麿一味が江戸へと潜入したらしいと言ってきた。

第二章 研ぎ屋再開
おりょうが絵を含めた「鼠草紙」の模写を図るなか、久慈屋で研ぎ仕事をする小籐次の元へ難波橋の秀次親分が来て北品川の畳屋の古木屋の隠居所で三人が殺されたと言ってきた。現場を見ると押し込み強盗ではなさそうで、例幣使杉宮の辰麿一味とは関係が無さそうだった。

第三章 絵習い
小籐次は、十二歳の駿太郎が大人ばかりの中で育つことの是非を考えていた。一方、おしんからは例幣使杉宮の辰麿一味は幕府に反感を持つ集団であることを、また秀次の手下の銀太郎からは、南町奉行所近くの古筆屋藪小路籐兵衛宅で一家六人奉公人三人が惨殺されたと知らされるのだった。

第四章 鳥刺しの丹蔵
小籐次は久慈屋で会ったおしんから、届けられた四斗樽については全く知らないと聞いた。酒樽を調べると「いわみぎんざんねずみとり」という毒が入っていた。望外川荘へ久慈屋からの絵の具類の土産を持って帰った小籐次は、ひそかに久慈屋の用心棒を務めるのだった。

第五章 墓前の酒盛り
深川蛤町裏河岸での仕事中に同心の近藤精兵衛と秀次親分がきて、杉宮の辰麿こと鳥刺しの丹蔵は南町奉行所に恨みを持つ件があったという。近藤は丹蔵のねらいは肥前屋だとするが、小籐次は新兵衛長屋で眠りながらも鳥刺しの丹蔵らの真の狙いを考えていた。

 

老中青山忠裕の治める丹波篠山から帰ってきた小籐次一家ですが、江戸の町はやはり小籐次をのんびりとはさせてくれません。

南町奉行所定町廻り同心の近藤精兵衛や浪花橋の秀治親分らは、江戸の町に上様の日光社参が延期になった理由かもしれない押し込みの一味が潜り込んだかもしれないというのです。

丹波篠山への旅の間できなかった研ぎ仕事もたまっていて、それどころではない小籐次でしたが、息子の駿太郎に任せて飛びまわる日々へと舞い戻りです。

 

この例幣使杉宮の辰麿一味に関する件が今回の主な事件として全編を貫いています。

その他に、おりょうが篠山で写し、また記憶していた「鼠草紙」の再現を始めたことがもう一つの流れとなります。

さらに言えば、道理の分かったおとなたちの間で実に健やかに、非の打ち所がないように育ってきた駿太郎についての小籐次の危惧を、小籐次の周りの大人が察し、駿太郎を同年代の子供らの間に放り込むことを考えるのです。

大きくは、この三つの流れが本書『旅仕舞』の物語の構成といえるでしょう。

 

なかでも、おりょうの「鼠草紙」の再現はおりょうや小籐次、また望外川荘自体をより有名な場所へと持ち上げることになります。

そして、駿太郎にとっての新たな環境の構築という発想は、作者の子供に対する一つの見識を示したものとも取れ、読んでいて安心の感情を持ったことを覚えています。

小籐次の立ち回りは当然のこととして、それ以外のおりょうや駿太郎の生活、成長への配慮は楽しみでもあり、一人の親としても安心であるのです。

刑事・鳴沢了シリーズ

本『刑事・鳴沢了シリーズ』は、鳴沢了という刑事を主人公とする長編の推理小説です。

刑事・鳴沢了シリーズ(2020年10月10日現在)

  1. 雪虫
  2. 破弾
  3. 熱欲
  1. 孤狼
  2. 帰郷
  3. 讐雨
  1. 血烙
  2. 被匿
  3. 疑装
  1. 久遠
  2. 七つの証言

 

第一巻目『雪虫』は親子の物語であり、また「正義」について考えさせられる作品でしたが、それ以降はハードボイルドの色が濃くなっていると思います。

まだすべてを読んではいませんので、巻を進め次第、本稿も充実させていきたいと思っています。

雪虫-刑事・鳴沢了

本書『雪虫』は、『刑事・鳴沢了シリーズ』の第一巻目であり、堂場瞬一のデビュー第二作目でもある長編の警察小説です。

文庫本で507頁というのは少々長いと感じなくもありませんが、それだけ読み甲斐がある小説でもありました。

 

俺は刑事に生まれたんだ―祖父・父を継いで新潟県警捜査一課の刑事となった鳴沢了は、晩秋の湯沢で殺された老女が、かつて宗教教団の教祖で、五十年前に殺人事件に関わったことを突き止めた。了は二つの事件の関連を確信するが、捜査本部長の父はなぜか了を事件から遠ざけるのだった。正義は、そして歳月は、真実を覆い隠すのか?新警察小説。(「BOOK」データベースより)

 

湯沢で起きた老婆の殺人事件の捜査をする刑事を主人公とする話で、その父親、そして祖父と新潟で三代にわたる警察官として生きた親子の物語です。

著者初の警察小説ですが、とても新人とは思えない仕上がりの読みごたえのある作品です。

 

本書『雪虫』の主人公鳴沢了は刑事になったのではなく、「刑事として生まれてきた」というほどのまっすぐな男です。

父親の鳴沢宗治は「宗一の鬼」と呼ばれ、新潟県警最強の刑事とうたわれたたほどの刑事であり、今では今回の事件が起きた魚沼署の署長をしています。

同じく「仏の鳴沢」と呼ばれた祖父鳴沢浩次は現在七十九歳で、なお元気でいます。

 

新潟県警捜査一課の刑事の鳴沢了は、湯沢で殺された老女の背景を探り、「天啓会」という新興宗教の教祖であった事実を探り出します。

そして、その教団で五十年前に起きた殺人事件が今回の事件に関係しているのではないかと疑い捜査を進めるのです。

 

本書『雪虫』は、主人公である鳴沢了の物語ですが、親子の物語でもあり、家族の話でもあるようです。

勿論、本書は推理小説であり、冒頭に起きた老女殺人事件の捜査が主眼であって、捜査の過程を緻密に描き出す警察小説としての面白さを十分に備えた小説です。

鳴沢了は、父鳴沢宗治からは「お前にとって、正義は一つしかない。」と言われる一本気な男であり、そのことが本書のテーマにも関係しています。

すなわち、この言葉は息子の一本気な性格に対する父親としての危惧からくるものでもあるでしょうが、本書の持つ「正義」とは、という問いかけへの大きな布石でもあります。

 

そうした父親と主人公の鳴沢了との微妙な距離感が、本書の随所でうまく表現されています。

核心を突いた質問をすれば親子の縁が完全に壊れかねず、そうはなりたくない自分がいる微妙な心象が示されていたりもするのです。

またベテランの部長刑事の緑川聡からも「真っ直ぐ過ぎる」として、鳴沢の直情的な正義感を心配されてもいて、今後の展開が暗示されています。

 

本書『雪虫』では、そんな鳴沢と相棒である大西海(かい)との会話は息抜きの一つにもなっています。

鳴沢は嫌がる大西に対し嫌味のように「うみ君」と呼び、彼に刑事としての基本を叩き込んでいきますが、その「うみ君」が次第に一人前の刑事になっていく様子も一つの見どころでした。

息抜きと言えば、鳴沢の恋人と呼んでいいかはわかりませんが、幼馴染の石川喜美恵との関係が少々半端な印象はありました。特に終盤の彼女のかかわり方はご都合主義的にも感じられました。

 

とはいえ、本書『雪虫』はとても新人の作品とは思えないほどの出来栄えと感じます。

「正義」とは個々人それぞれで異なる概念だとはよく言われることではありますが、そうではなく普遍的な正義があるはずで、その普遍的な正義について考えさせられる作品です。

 

「正義」について考えさせられる小説と言えば多々ありますが、 雫井脩介の『検察側の罪人』という作品は心に残った作品の一つです。「時効によって逃げ切った犯罪者を裁くことは可能か」を問う重厚な力作です。

 

 

また、 柚月裕子の『孤狼の血』もまた新任の刑事から見たベテラン刑事の暴力団との癒着ぶりに疑問を感じ、悩む物語であり、正義の一つのあり方を示したものでしょう。

事件の真実が明らかになった時、その裏に隠されたベテランなりの正義を知った若者はどう動くのか、かなり読ませる作品でした。

 

 

本書『雪虫』を第一巻目とする『刑事・鳴沢了シリーズ』は、現時点(2020年10月)では外伝も含め全11 巻で完結しています。

本書の印象とは異なり、今後はハードボイルド色が強くなった作品として続くようです。

かなり読ませるシリーズなので、しばらく追ってみたいと思います。

まよい道: 新・吉原裏同心抄(一)

本書『まよい道: 新・吉原裏同心抄(一)』は、『吉原裏同心シリーズ』が新たな展開を見せる『新・吉原裏同心抄シリーズ』の第一巻です。

京に着いて早々の新しい土地での新しい出会いや、何者かの襲撃を受ける神守幹次郎と加門麻の二人の様子が描かれています。

 

吉原遊郭の裏同心・神守幹次郎は、表向きは謹慎を装い、元花魁の加門麻を伴う修業の旅に出た。桜の季節、京に到着した幹次郎と麻は、木屋町の旅籠・たかせがわに投宿し修業先を探すことに。その最中、知人のいぬはずの京の町中で二人は襲撃される。一方、汀女らが留守を預かる吉原では、謎の山師が大籬の買収を公言し…。京と吉原で、各々の運命が大きく動き出す。(「BOOK」データベースより)

 

江戸吉原で謹慎となっているはずの神守幹次郎加門麻は、吉原会所頭取の四郎兵衛から紹介されていた木屋町通りの旅籠「たかせがわ」へと投宿した。

修行のために京都の町を見て回った二人だったが、島原の「ゆるゆるとした凋落」ぶりをを感じ取り、予定通りに島原での修行を進めていいものかを迷うのだった。

そこで、清水寺で知遇を得ることになった羽毛田亮禅老師や、祇園の一力茶屋の前で出会った江戸の三井越後屋大番頭の予左衛門らの知恵を借りることになる。

また、幹次郎の旧藩豊後岡藩の家臣らの不穏な動きを察知した幹次郎は、岡藩家臣と思われる暴漢の襲撃を受け、これを撃退するのだった。

 

本書『まよい道』から、吉原の裏同心である神守幹次郎の新しい物語が始まります。

すでに、『吉原裏同心抄シリーズ』として一度新たな展開を模索したこの物語ですが、今回新たに『新・吉原裏同心抄シリーズ』として、京都を舞台にした展開が待っているのです。

対外的には吉原会所七代目頭取の四郎兵衛から謹慎処分を受けたことを隠れ蓑に、京の島原での修行のために江戸を出た神守幹次郎と加門麻の二人が、やっと京都へとたどり着くところから本書『まよい道』の話が始まります。

 

この旅で特徴的なのは、幹次郎らが多くの人々へとの出会いがあることです。

まずは旅籠「たかせがわ」の主の猩左衛門、その旅籠で会った三井越後屋の隠居楽翁、清水寺の羽毛田亮禅老師、三井越後屋大番頭の予左衛門、一力茶屋の女将水木、祇園感神院執行の彦田行良など、主だったものだけでも多数に上ります。

悪い方でも、入京早々に幹次郎の旧藩の豊後岡藩の家臣に出くわしてしまい、何故か彼らの襲撃を受けたりもします。

 

本書『まよい道』では、幹次郎らの修行の場所や住まいを決める必要があり、それらが決まるまでの様子が語られることになります。

その過程で、先に述べた様々な人たちの力を借りることになります。この点はあまりにご都合主義的ではないか、とも思えます。

しかし、本書の中で登場人物が言うように、実に多くの重要人物らとの出会いがあり、また交流を深めることになるのですが、幹次郎らの人柄が人を寄せ、面倒を見たくなる、と読むべきでしょう。

 

ともあれ、修行の中身は未だ見えないままではありますが、京での落ち着き先も決まりました。

一方、江戸では、裏同心神守幹次郎がいないすきを狙って新たな面倒ごとが起きつつあります。

今後の展開がいかなるものになるのか、期待をもってこのシリーズを見守ることになりそうです。

もう聞こえない

本書『もう聞こえない』は、誉田哲也作品にしては珍しい長編のダークファンタジー小説と言えると思います。

ファンタジーの世界で展開されるサスペンスは結構楽しく読めた作品でした。

 

一向にわからぬ被害者男性の身元、14年前の未解決殺人事件。ふたつの事件を繋げるのは、“他界した彼女”だった…。(「BOOK」データベースより)

 

冒頭に「誉田哲也作品にしては珍しい」作品だと書きましたが、それはあくまでファンタジックなタッチは珍しいという意味です。

もともとこの作者は『妖の華』や『アクセス』のようなホラー小説を出発点としている作者ですから、霊的なものに対する処理はお手の物なのでしょう。

 

 

110番に中西雪実という女性から、男性に怪我をさせてしまったとの連絡が入った。

その男は後に死亡し、高井戸署において中西雪実の聴取を行おうとする。しかし、泣いてばかりで話にならず、警視庁捜査一課の竹脇元警部補にその役目が回ってきた。

ところが、中西雪実は竹脇の聴取中に「女の人の声が聞こえるときがある」と言い出すのだった。

 

本書『もう聞こえない』は、誉田哲也お得意の多視点での物語であり、基本的に章の始めが竹脇警部補の事情聴取の様子、残りが「ゆったん」というあだ名の女の子の視点での物語となっており、各々の話が交互に語られます。

読み進める過程で発動した仕掛けに、してやられた感を抱いていると、さらに意外な展開が待ち受けています。

この作者らしい読者をミスリードにさそったり、意外性を持った展開など、サービス満点のエンターテイメント小説です。

例えば、竹脇と組まされた相棒は苗字を菊田という女性で、旦那も警察官である、などという設定もこの作者のお遊びの一つと言えるでしょう。

つまり、その旦那というのは誉田ファンであればだれでも知っている『姫川玲子シリーズ』の重要な登場人物である菊田和男ではないか、などと想像できるのです。

 

 

本書『もう聞こえない』では、何といっても、殺された「霊」が語りかけ、そのことによりこの物語が展開していくというのですから普通ではありません。

その上、『武士道シリーズ』のような青春小説にも定評があり、本書にもそのニュアンスが読み取れます。まあ、こうした他ジャンルの雰囲気をも併せもった作品を書くというのは、本書に限らずこの作者の他の作品でも同様ではあります。

 

 

ここで「霊」を絡めた作品を見ると、「霊媒」を主人公とする作品として 相沢沙呼の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』という作品があります。

この作品は、第20回本格ミステリ大賞を受賞し、「このミステリーがすごい!」2020年版国内篇と「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキングで第一位をとり、さらに2020年本屋大賞と第41回吉川英治文学新人賞で候補作品となるほどに評価されました。

しかしながら、この作品は本格派の推理小説であり、私の好みとは少々異なる作品でもありました。でも、かなり読みごたえがあった作品であることは間違いありません。

 

 

更には 梶尾真治にも『精霊探偵』という作品があるそうですが、残念ながら私はまだ読んでいません。人の背後霊が見える主人公が背後霊たちに力を借りながら人探しをするという話らしいのです。

 

 

話を元に戻すと、本書『もう聞こえない』は、直接的に「霊」そのものと話します。正確には「幽霊」ではなく「言霊」だそうですが、そこは本筋とは関係ないのでいいでしょう。

その「霊」は生きている人たちを見ることはできるものの、音を聞くことも物に触ることもできません。何とか主人公の女性に声を聴かせることはできるようです。

その状態で事件真相に向かって突き進もうとする物語で、なかなかに楽しく読むことができました。

特異家出人 警視庁捜査一課特殊犯捜査係・堂園晶彦

本書『特異家出人』は、ある誘拐事件を追う主人公の姿を追う長編の警察小説です。

文庫本で殆ど五百頁にもなる力作ですが、その長さを負担に感じかねない微妙な作品でした。

 

東京都葛飾区在住の資産家老人・有村礼次郎が突然失踪した。質素で孤独な生活を送る老人と唯一交流のあった少女・奈々美の訴えで臨場した警視庁捜査一課特殊犯捜査係の堂園晶彦は、有村邸の玄関から血痕を発見する。同時に預金通帳や有価証券、時価二億円の根付コレクションが消えていた。有村老人は元暴力団員・中俣勇夫に金目当てで拉致された可能性が高い。中俣の潜伏先である鹿児島に飛んだ堂園は、自身の祖父と有村が鹿児島第一中学の同級生だったことを知る。二人はある事件がもとで故郷を追われていた。時代を超えた宿縁をめぐる、慟哭のミステリー。(「BOOK」データベースより)

 

本書『特異家出人』の主人公は警視庁刑事部捜査第一課特殊犯捜査第二係の堂園晶彦警部補です。上司は高平裕といい、堂園を買ってくれ、何かと捜査しやすい状況を作ってくれる存在です。

ここで「特殊犯捜査係」とは、本来は現在進行形の凶悪事件を専門に扱う部署だそうです。ですが、緻密な捜査技術と犯人との交渉力こそが特殊班の特徴だとありました。

殺人犯の捜査は死人が出てから始まるのに対し、特殊班の捜査は死人を出さないためのものであり、本件のような事案はまさに特殊犯捜査係の出番だそうです。

 

資産家の有村礼次郎が行方不明の事案は事件性があると感じた堂園でしたが、キャリア然とした所轄の所長の反対により捜査本部の設置は見送られることとなります。

そんな折、堂園の父親から多喜男叔父が死んだという知らせが届きます。銀行の貸し剥がしのために新たに借りた商工ローンの支店長に騙されたようなものだというのです。

叔父の葬儀には出席できないという堂園に、有村礼次郎が堂園の祖父の知り合いらしい事実が判明し、更には鹿児島へ連れていかれた可能性も出てくるのでした。

 

本書『特異家出人』は、被拐取者有村礼次郎の身体の安全の確保し犯人の逮捕を目指す警察小説であり、大河小説風味のミステリー小説だと思い読み進めていました。

ですから、せっかくのミステリーの流れも、有村礼次郎が主人公の堂園晶彦警部補の人生に偶然にからんでくるという設定に触れ、いかにもご都合主義的だと感じたのです。

 

その点を除けば、物語の展開自体は非常に面白いものであり、惹きつけられるはずなのです。

本書でのこの作者らしい社会性を見せる場面として、キャリアである署長の経費削減の観点からの捜査本部設置への反対論や警察の裏金問題なども取り上げてあります。

それも単に反対論があったという事実だけではなく、堂園たちが上司の高平らの支援を得て実際により積極的な捜査へと乘り出すきっかけともなるように、物語の流れの一つとして捉えてあるのです。

ただ一点、たまたま有村と祖父とが知り合いだったという偶然が残念な気持ちになったのです。

 

しかし、この偶然を主人公の行う捜査の過程にたまたま現れた接点というとらえ方ではなく、主人公堂園晶彦、そしてその父、祖父の三代にわたる堂園家の物語として見直せば話は変わってきます。

本書『特異家出人』は先に述べたような「大河小説風味のミステリー小説」ではなく、堂園家の親子三代にわたる物語として、まさに「大河小説」そのものではないか、と思えてきたのです。

そういう点からも本書はシリーズ作品ではなく、単発の物語としてあるのでしょう。

その観点で見ると、本書『特異家出人』はまさに大河小説であり、惹句に「時代を超えた宿縁をめぐる、慟哭のミステリー。」とあるのも納得がいくのです。

 

こうした警官の家庭をテーマとした警察小説としては、親子三代にわたり警察官となった男達の人生を描く大河小説であり、2007年の日本冒険小説協会大賞を受賞し、直木賞のノミネート作でもある 佐々木譲の『警官の血』と、その続編の『警官の条件』があります。

 

 

また、単に親子三代の警察官を描く警察小説としては、 堂場瞬一刑事・鳴沢了シリーズもありますが、こちらは大河小説とは言えないでしょう。親子三代の警察官の物語ではありますが、第一巻の雪虫 刑事・鳴沢了を除いては鳴沢了個人の警察小説です。

 

 

話を本書『特異家出人』に戻すと、茶木則雄氏は本書の「解説」で、本書の基礎をなす偶然はご都合主義の疑念を払しょくできないだろうが、作者の巧みな伏線の配置と卓越した文章力で作為的な偶然に終わらせず、そうしたそしりを受けないエクスキューズを構築している、と書かれています。

ここで、「エクスキューズ」とは「弁明」や「言い訳」などという意味だと記されていました。(マイナビニュース : 参照 )

 

しかし、ご都合主義ととられかねない構成であることは否定はできないと思います。やはりその点に関しては物語の構成を考えた方がよかったのではないか、と思うのです。

 

繰り返しになりますが、現時点では新たな視点で振り返り、力作だとの思いを持ってはいます。

ただ、実際に本書『特異家出人』を読んでいる途中では、どうしてもご都合主義との印象もぬぐえません。

現実に本書を読み終えた時点では、面白かったという印象と、それほどでもないという印象との間の微妙な感情にあったとしか言いようがありません。

ということで、残念ながら、冒頭に書いたような「長さを負担に感じかねない微妙な作品」と言わざるを得ないのです。

冬芽の人

本書『冬芽の人』は、一人の元女性刑事を主人公とした長編のミステリー小説です。

アクション場面はほとんどないと言ってよく、恋愛模様を絡めた作品となっていて、この作者の作品としてはミステリー重視の作品でした。

 

警視庁捜査一課に所属していた牧しずりは、同僚が捜査中重大事故に遭ったことに責任を感じ、五年前に職を辞した。以来、心を鎖して生きてきた。だが、仲本岬人との邂逅から、運命の歯車は再び回り始める。苛烈な真実。身に迫る魔手。古巣たる警察の支援は得られず、その手にはもはや拳銃もない。元刑事は愛する男のために孤独な闘いに挑む。警察小説の名手が描く、至上のミステリ。(「BOOK」データベースより)

 

本書『冬芽の人』の感想とまず挙げられるのは、主人公牧しずりの内心をかなりこまやかに描写されているということでしょう。

これまで読んだ大沢作品でも主人公の内心を描写している場面はありました。しかし、本書ほどに詳細に展開されていることはほとんどないと言っていいと思います。

例えば、『新宿鮫シリーズ』の鮫島と晶との関係の描き方とは比べ物になりません。まあ、本作品は二人の関係自体も物語のテーマとして挙げられるでしょうから、ハードボイルドともいえる『新宿鮫シリーズ』の場面と本作とを比べること自体おかしいことだとは思います。

 

 

それにしても、端的に言ってどうにも読みにくく感じました。冗長に感じて仕方がないのです。大沢在昌という作家の作品で冗長に感じた経験はもしかしたら初めてではないでしょうか。

結果として、物語のテンポがよくない、ということにつながります。大沢在昌という作家の描く世界観はこういうものではなかったはずです。

例えば『ライアー』という作品は、海外での暗殺を任務とする国家機関員である女主人公の姿を描く長編のアクション小説です。

女性の心裡を追いながらも、この手の荒唐無稽ともいえる作品の第一人者である大沢在昌らしい、テンポのいいエンターテイメント小説としてとても面白く読んだ作品でした。

 

 

このほかに、女性を主人公としたアクション小説としては、半グレ集団に襲われた教え子を救出しようとする女教師の活躍を描く 月村了衛の『槐(エンジュ)』などがあります。

この作品は徹底したエンターテイメント小説であって、一人の元戦士の活躍させるためだけに半グレ集団を登場させている、と言っても良さそうなアクションに徹した作品でした。

 

 

本書『冬芽の人』の主人公牧しずりは、警視庁捜査一課に所属していた元刑事です。

職務執行中の事故で相棒だった先輩刑事前田光介を亡くしたことに責任を感じて職を辞め、普通のOLとして生きている女性です。

この女性が相棒だった先輩刑事の息子仲本岬人に出逢い、相棒の死に疑問を感じ始め、その死の真相を探ることになります。

 

こうして先輩刑事の息子岬人との二人三脚での調査が始まりますが、ここからのミステリーとしての面白さはかなりのものがありました。

あくまで先述の冗長性、テンポの悪さを脇に置いての話ですが、調査を進めていく過程で感じた疑問点、例えば犯人と臆された村内が自転車で環七に飛び出したその理由などは後にきれいにその理由が明かされます。

読み進める中で何となく疑問に感じた事柄のほとんどが、作者の計算の上で置かれた謎であり、それがクライマックスでの謎解きできれいに整理されていくのです。

主人公のしずりの内面がこれほどまでに執拗に描かれていなければミステリーとしてどれほど楽しめたかと残念に思ったほどです。

 

本書『冬芽の人』においてさすがに大沢作品らしいと思ったのは、主人公のしずりが、自分に危害が及ぶかもしれない捜査になおのめり込む理由をきちんと明示してあるところなどです。

それは、「強いていうのなら、決着をつけたいという気持だ」と言います。この点をあいまいにするということは、「残りの人生すべてを自分は答えの出ない問いかけに埋もれて暮らすことになる。」と言わせているのです。

こうした細かな理由付けを丁寧にしていくことで読者は物語の世界に没入でき、感情移入できると思えるのです。

 

もう一点個人的な不満を描かせてもらうと、相棒役の岬人がもう少し大人であればと思った点もありますが、それではしずりが主導権をとった捜査ができないということになるのでしょうか。

ちょっと岬人の幼さが気になる場面があったのですが、それはそれで作者の意図なのでしょう。

 

ちなみに、本書を原作として2017年にテレビ東京でテレビドラマ化されています。しずりを鈴木京香、仲本岬人を瀬戸康史がそれぞれに演じているそうです。

 

宰領: 隠蔽捜査5

本書『宰領: 隠蔽捜査5』は、『隠蔽捜査シリーズ』の長編では五冊目の警察小説です。

今回は神奈川県警管轄内で事件が起こったため、警視庁との合同捜査本部が神奈川に設置され竜崎がその指揮を執ることになります。

警視庁との仲の悪い神奈川県警との間をどのように調整するのか、非常に興味がわく設定になっています。

 

衆議院議員が行方不明になっている伊丹刑事部長にそう告げられた。牛丸真造は与党の実力者である。やがて、大森署管内で運転手の他殺体が発見され、牛丸を誘拐したと警察に入電が。発信地が神奈川県内という理由で、警視庁・神奈川県警に合同捜査が決定。指揮を命じられたのは一介の署長に過ぎぬ竜崎伸也だった。反目する二組織、難航する筋読み。解決の成否は竜崎に委ねられた!(「BOOK」データベースより)

 

単に論理に従って行動しているだけという主人公竜崎伸也の振舞いは相変わらずで、原理原則に基づく竜崎の行動は爽快です。

相手の身分や立場によって態度を変えることのないその姿は、現実には難しいがゆえに読者はカタルシスを得るのでしょう。まあ、そういうことは改めで言うまでもないことですが。

 

本書『宰領: 隠蔽捜査5』の特色は、竜崎の新しい衝突先として神奈川県警が設定してあることでしょう。

これまでも、他の所轄署であったり、本庁の人間であったりと、様々な人間が最初は竜崎の異色の経歴と変人ぶりに惑わされ、不信感を抱き、距離を置いていました。

しかし、最終的には竜崎の事件解決に対する真摯な態度に尊敬の念さえ抱くようになってきました。

それが、今回は警視庁とは仲の悪いことで知られている、神奈川県警の横須賀署に設けられる捜査本部に副本部長として赴くことになるのです。

現実に警視庁と神奈川県警戸が不仲なのかは知りません。でも、小説の世界ではこの両者は仲の悪いことが当然の前提となっているようです。

そうした神奈川県警ですので、竜崎に対しても飾り物としての扱いしかしません。あとはいつもの展開ではあるのですが、その様がやはり面白いのです。痛快でさえあります。

 

本書『宰領: 隠蔽捜査5』が属する『隠蔽捜査シリーズ』の魅力は、推理小説としての事件の謎ときもさることながら、竜崎をとりまく人間関係そのものや、その変化の面白さにあると思っています。

加えて竜崎の家庭内の問題もスパイス的に書き込まれており、家族に対しても同様の態度を取る竜崎の人間描写に厚みを加えています。

そうした意味では、黄門さまの物語のようにお定まりのパターンの中で、様々に趣向を凝らして読者を楽しませているのです。

 

現時点では今野敏のシリーズものの中では本『隠蔽捜査シリーズ』と『安積班シリーズ』が一番面白いと思っているのですが、両者共に登場人物の人間模様が魅力になっていると感じます。

 

 

私の好みがそこらにあるのでしょう。

本作はいつまでも続いて貰いたいシリーズの一つです。

夜明けまで眠らない

本書『夜明けまで眠らない』は、元傭兵のタクシー運転手を主人公とする長編のハードボイルド小説です。

この頃ひと昔前の大沢作品を読んでいたためか、のめり込んで読むことができる大沢作品があまり無かったのですが、本書はかなり面白く読めました。

 

タクシー運転手の久我は、血の匂いのする男性客を乗せた。かつてアフリカの小国で傭兵として戦っていた久我の同僚らしい。客は車内に携帯電話を残して姿を消した。その携帯を奪おうとする極道の手が迫り、久我は縁を切ったはずの激しい戦いの中に再び呑まれていく。疾走感みなぎる傑作ハードボイルド!(「BOOK」データベースより)

 

本書『夜明けまで眠らない』の主人公久我晋は、傭兵だったという過去を持つタクシー運転手です。

そして、久我の前に現れる敵も、久我の傭兵経験の中で夜に眠れなくなった原因を作ったという人物です。

もちろん、ヤクザも立ちふさがりますが久我の敵ではありません。現実の戦争、それもアフリカの森林での戦闘をも経験している主人公にとっては現代の都会でのヤクザは物の数ではないのです。

 

元傭兵を主人公とした作品といえば、 今野敏の『ボディーガード工藤兵悟シリーズ』があります。優れた格闘術と傭兵経験を活かしてボディーガードを生業としている工藤兵悟を主人公とするアクション小説です。

 

 

また、外国の小説ですが A・J・クィネルの『燃える男』という作品はかなりの読みごたえがあった作品でした。

元傭兵である老ボディガードのクリーシィと少女の組み合わせは、激しいアクションの中にも熱くさせるものがありました。

 

 

話を本書『夜明けまで眠らない』に戻すと、久我の運転するタクシーに乗ってきたカケフと名乗る日本人が車内に置き忘れた携帯電話が久我の日常を奪ってしまいます。

カケフはすぐに死体となって発見され、カケフの婚約者の市倉和恵という女性から久我に連絡が入ります。

彼女の話では、カケフは本名を桜井といい、ある人物の警護で日本に来ていた際に偶然久我に会ったらしいというのです。

そして、現地の言葉で「夜歩く者」を意味する「ヌアン」という言葉を聞いていたというのでした。

 

傭兵の経験者が、傭兵時の出来事のために夜眠ることができなくなって、深夜勤務のタクシー運転手として暮らしています。

そこに、たまたま乗った客が傭兵時代へと主人公を引き戻すという状況は感情移入しやすい設定でした。

こうした導入部からすぐに、主人公のキャラクタを示すヤクザとの対決の場面が用意されています。

置き忘れられた携帯電話を渡すようにと脅してくるヤクザと久我との会話が、客商売のタクシー運転手としての会話であり、印象的です。

そして、久我が勤務する会社の主任の岡崎が訳ありの元ヤクザであり、久我への理解を示すというのも主人公の立ち位置がはっきりして読みやすい設定でした。

 

そうした導入部を経て、主人公の久我が、殺された桜井が置いて行った携帯電話の秘密を本格的に調べ、久我自身の過去へと向き合い始めます。

そこで大切なのが、市倉和恵の妹市倉よしえという女性の存在です。彼女がこの物語に花を添えることになります。

また、久我を陰から支える人物として傭兵仲間のケベック州出身のカナダ人であるアダムという人物がいます。東京で精神科医を開業しており、久我の主治医でもあります。

この人物が、情報収集など多くの場面で久我を支え、久我の大きな力となっています。

 

ここで、市倉よし江という人物が、個人的には不要と思える存在でした。

彼女を危険な状態に置く、との行為の方が物語の進行上不自然であり、変な違和感を感じる原因ともなっています。

当初からそれなりの設定、人格をよしえに与えてあったのであれば別です。しかし、本書の場合そうではありませんでした。

 

とはいえ、彼女の存在が物語を面白くしている側面があることもまた否定はできません。色気の側面と同時に、情報収集の面でもそうなのです。

ということは、先の不満点も大したことではないと言わざるを得ないのでしょう。少なくとも私にとっても小さな瑕疵と言うしかありません。

事実、本書を読み終えて残ったのは面白かったという感想だけです。

 

以上の点はありながらも、つまりは久しぶりに面白いと思いながら楽に読めた作品でした。

エンターテイメント小説はこうあるべきという手本のような、というのは大げさですが、楽しく読めた一冊でした。