『イクサガミ 地』とは
本書『イクサガミ 地』は、2023年5月に464頁の文庫本の書き下ろしとして講談社から刊行された長編のエンターテイメント小説です。
第一巻の『イクサガミ 天』で抱いた伝奇小説としての印象とは若干ですが異なった、しかしやはり山田風太郎タッチの面白さに満ちた作品です。
『イクサガミ 地』の簡単なあらすじ
2巻続けて、発売即重版!
私を、今年最も興奮と陶酔の坩堝に叩き込んだ一作がこれだ。
ーー縄田一男(文芸評論家)☆★第1巻『天』が続々ランクイン、大反響!☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
第1位! –「時代小説SHOW」2022年時代小説ベスト10 文庫書き下ろし部門
第2位! –読書メーター OF THE YEAR 2022 第2位☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆☆★☆★
討て。生きるため。
武士の時代の終幕ーー魂の戦い!読者の熱烈な支持を受けた、明治バトルロイヤル譚。
待望の第2巻!〈あらすじ〉
東京を目指し、共に旅路を行く少女・双葉が攫われた。
夜半、剣客・愁二郎を待ち受けていたのは、十三年ぶりに顔を合わせる義弟・祇園三助。
東海道を舞台にした大金を巡る死闘「蠱毒」に、兄弟の宿命が絡み合うーー。
文明開化の世、侍たちの『最後の戦い』を描く明治三部作。待望の第2巻!
【文庫書下ろし】(「BOOK」データベースより)
『イクサガミ 地』の感想
本書『イクサガミ 地』は、まさに山田風太郎の世界が展開される、面白さ満載のエンタメ作品です。
本書は著者の今村翔吾の他の作品とはかなりその世界観を異にしている物語で、明治維新に登場する大久保利通や前島密、川路利良などがそのままに登場してきます。
もちろん、歴史小説の中での登場人物としてではなく、架空の歴史の中で特別の役割を担った、エンターテイメント上の役割を担った存在として登場しているのです。
本書『イクサガミ 地』では、明治維新をテーマにした作品では数多く登場する剣客の仏性寺弥助の紹介から始まっています。
仏性寺弥助がこの物語にどのように関わってくるのか何も示されていませんが、物語が進むうちに多分ではありますが、仏性寺弥助が登場してきた意味が明かされていきます。
仏性寺弥助の描写が少し続いた後に本書の本筋へと戻り、前巻『イクサガミ 天』の最後で義弟の祇園三助に攫われた少女香月双葉を救い出そうと追いかける主人公の愁二郎の姿へと移ります。
そこでは、京八流継承者のうちの嵯峨愁二郎(さがしゅうじろう)、化野四蔵(かのしぞう)、衣笠彩八(きぬがさいろは)、祇園三助(ぎおんさんすけ)が集まり、京八流継承者同士の殺し合いから逃げ出した愁二郎の命を狙い闘いが始まるところでした。
そこに、京八流の見届け人であり、裏切った京八流継承者の命を狙う朧流の岡部幻刀斎(おかべげんとうさい)が現れ、四人は力を合わせこの敵と戦います。
何とかその場を逃れた愁二郎らは、その後、京八流の義兄弟に加え柘植響陣などとも力を合わせて幻刀斎や蠱毒への参加者たちとの戦い、さらには蠱毒という仕掛けの謎を解明するべく戦い続けるのです。
本書『イクサガミ 地』は、徹底的にエンターテイメント小説として作り上げられている作品です。
特に、この物語のキモである「蠱毒」という命を懸けたゲーム、そのシステムにもそれなりの必然的な意味を持たせてあるところなど、単なるエンタメ作品というにはもったいない作りとなっているのはさすがに今村翔吾という作家の個性だと言えるのでしょう。
この蠱毒というゲームが抱える秘密の一端が明らかにされていくのも本書の醍醐味です。
そのことは、同時に大久保利通ら明治維新の立役者たちがこの物語に関係してくることを意味し、伝奇小説としての醍醐味が展開されてくることでもあります。
同時に、嵯峨愁二郎を始めとする京八流継承者が殺し合いながらも互いに相手のことを思い合っている様子が垣間見えたり、自分の身を委ねたりと、揺れ動く様子が描かれている点も見どころです。
それはまたまだ登場してきていない京八流継承者である義兄弟のこれからの関りが気になるところでもあります。
こうして、この物語は大きなスケールの中で展開されている謀りごととしての側面が明らかになっていくのであり、同時に「蠱毒」と同じような構造を持つ京八流継承者同士の戦いの行方も気になるところでもあります。
さらには、京八流継承者と岡部幻刀斎との戦い、加えて貫地谷無骨という正体不明の剣客との争いなど、最終巻へ持ち越されている戦いや未だ明らかになっていない謎は最終巻へと持ち越されているのです。
多分、一年後の刊行となるであろう最終巻の刊行が待ち望まれます。