『流れ行く者 』とは
本書『流れ行く者』は『守り人シリーズ』の第八弾で、2008年04月に偕成社からハードカバーで刊行され、2013年8月に新潮文庫から著者のあとがきと幸村誠氏の解説まで入れて301頁の文庫として出版された、長編のファンタジー小説です。
『流れ行く者 』の簡単なあらすじ
王の陰謀に巻き込まれ父を殺された少女バルサ。親友の娘である彼女を託され、用心棒に身をやつした男ジグロ。故郷を捨て追っ手から逃れ、流れ行くふたりは、定まった日常の中では生きられぬ様々な境遇の人々と出会う。幼いタンダとの明るい日々、賭事師の老女との出会い、そして、初めて己の命を短槍に託す死闘の一瞬ー孤独と哀切と温もりに彩られた、バルサ十代の日々を描く短編集。(「BOOK」データベースより)
『流れ行く者 』の感想
本書『流れ行く者 』は、十代のバルサを主人公とした、バルサの短槍の師ジグロとの用心棒をしながらの逃亡の日々を描く、『守り人シリーズ』本編の間隙を埋める番外編に位置づけられる作品集です。
「第一話 浮き籾」は、トロガイのもとで世話になっていたバルサが、トロガイたちが他出している間にバルサを慕ってくるタンダの相手をしながらタンダの叔父に対する想いをかなえてあげる物語です。
『守り人シリーズ』の世界における田舎の生活、風景を緻密に描写しながら、若き二人の日々の生活や、特にタンダのやさしい性格を描きながら村の風習やそこにかかわるバルサの生活をも描き出してあります。
「第二話 ラフラ〈賭事師〉」は、本書の中で一番最初に書かれた物語だとあとがきに書いてありました。
人けのない酒場に座って賽子を転がしているいる老女とそれを見ているバルサという光景がいきなり頭の中に浮かび、その瞬間に物語の全体像もほぼ出来上がっていたそうです( 著者による『文庫版のあとがき「ひとつの風景」』:参照 )。
ロタ王国のとある酒場に用心棒として雇われているジグロと、酒場の手伝いをしているバルサは、その酒場に雇われている老ラフラ(賭事師)のアズノと知り合います。
アズノはサイコロを使う遊戯であるススットの遣い手であり、バルサともススットを通して知り合ったのです。
この物語は、流れ者の用心棒や賭事師の浮き草のような生活を描き出すとともに、プロとしてのアズノの厳しさを哀しみとともに描き出してあり、特にそのラストは妙に心に残る作品でした。
「第三話 流れ行く者」は、第二話と同じく明日をも知れぬ用心棒生活を描いてありますが、なかでも直接に自らの命を懸けて依頼人を守るという厳しい暮らしと、用心棒の仲間同士の繋がりが語られています。
特に、ある隊商の護衛士としての旅の中での出来事が、用心棒家業の厳しさを教えてくれるのです。
「第四話 寒のふるまい」は、ほんの数ページのショートショートともいうべき一編です。
「寒のふるまい」とは、冬の最中の食べ物が乏しい時期に、山の獣たちに食べ物を分けることをいうそうです。
その「寒のふるまい」をもって山に入ることを口実にしてトロガイのもとへと駆けるタンダの姿が描かれている、寂しさが溢れている物語です。
全体を通して、父がわりのジグロとの厳しい用心棒生活が描かれている中で、バルサがいかにジグロやトロガイ、そしてタンダらに愛されていたかがよく分かる物語になっています。
その上で、今のバルサの短槍使いとして、また用心棒として一流になっているその背景がよく分かる物語になっています。
単なる冒険ファンタジーの物語を越えた作品として存在するこの『守り人シリーズ』の存在意義をあらためて感じさせてくれる一冊でした。