『汝、星のごとく』とは
本書『汝、星のごとく』は、2022年8月に352頁のハードカバーで刊行された2023年本屋大賞の受賞作であり、第168回直木賞の候補作ともなった長編の恋愛小説です。
作者の凪良ゆうは2020年の『流浪の月』でも本屋大賞を受賞しているので二度目の本屋大賞受賞ということになりますが、私の好みとは異なる作品でした。
『汝、星のごとく』の簡単なあらすじ
☆2023年本屋大賞受賞作☆
【第168回直木賞候補作】
【第44回吉川英治文学新人賞候補作】
【2022王様のブランチBOOK大賞】
【キノベス!2023 第1位】
【第10回高校生直木賞候補作】【ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2022 第3位】
【今月の絶対はずさない! プラチナ本 選出(「ダ・ヴィンチ」12月号)】
【第2回 本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞 ノミネート】
【未来屋小説大賞 第2位】
【ミヤボン2022 大賞受賞】
【Apple Books 2022年 今年のベストブック(フィクション部門)】
などなど、賞&ノミネート&ランクイン多数!その愛は、あまりにも切ない。
正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。(内容紹介(出版社より))
『汝、星のごとく』の感想
本書『汝、星のごとく』は、上記「内容紹介」にもあるように2023年本屋大賞を受賞したほか、第168回直木賞の候補となるなど各種文学賞の候補ともなっている非常に評価の高い恋愛小説です。
本書では十七歳から三十二歳までの男女の視点を交互に借りて互いの心象が描き出されていて、同じ出来事なのに当事者によって異なる意味を持ってくる様子が明確に描き出されています。
つまり、第一章「潮騒」では十七歳の二人が描かれ、第二章「波蝕」では二十歳前半、第三章「海淵」では二十歳代後半から三十代初め、そして最終章の第四章「夕凪」へと至ります。
そして、物語の前後に設けられているプロローグとエピローグとの対比が、また読者に同じ場面の異なる意味を見せつけるように展開されていて効果的でした。
こうした多視点の手法自体は少なからずの作品で取り入れられていて、例えば物語の分野は異なりますが木内昇の『新選組 幕末の青嵐』などでも効果的に使われていたのを覚えています。
しかしながら、私にとっては本書はやはり同じ凪良ゆうの2020年本屋大賞を受賞した『流浪の月』という作品で感じたと同じ苦手な分野の作品でした。
本書『汝、星のごとく』の主役の二人である青埜櫂と井上暁海は、共に親としての役割を放棄した親を見捨てることができずにいる自己主張をやめた二人で、周りの無理解の中で生きている近頃問題となっているヤングケアラーです。
青埜櫂の母親は男なしでは生きられず、今青埜櫂が済むこの瀬戸内の島にも男を追いかけてきてスナックを開いています。
一方、井上暁海の父親は他に女ができて家を出ていき、母親はその父親を見捨てることができずにアルコールに逃げ、半分精神を病んでいます。
この二人は狭い島の噂の種になりながらも、母親の世話をしながら生きているという似たような境遇のためもあってか何となく付きあい始めます。
本書では二人を冷静に見つめる大人として、高校の化学教師である北原という男性教師と、なんと暁海の父親の不倫相手である林瞳子という女性が配置されています。
この配置された二人の大人がまたそれぞれに独特な個性の持ち主であり、共に二人の若者に大きな影響を与えています。
特に暁海がそうで、瞳子からは女が一人で生きていくということ、現実に収入を得るためのオートクチュール刺繍という手段を教えてもらうのです。
北原先生は暁海と生涯の付き合いをすることになるし、櫂ともこの人の世話があればこそという人生を送ることになります。
この大人の二人が、櫂と暁海のこれからの進むべき道を示しているのですが、大人である筈の二人自身が世間の常識と言われるものからは外れている二人です。
結局、作者は世間の常識などとは無関係なところで当事者本人が納得するように自由に生きろと言っているようです。
ただ、その自由に生きることにはそれ内の対価を支払う必要があることをも覚悟しなければならないのでしょう。
瀬戸内の島に暮らす二人は、櫂は卒業後漫画の原作者として上京しますが、櫂と一緒に上京するつもりだった暁海は母親の世話をしなければならないと結局は島で暮らすことになります。
その後の流れは太田裕美の歌う「木綿のハンカチーフ」と同じであり、つまりは恋愛小説の王道を普通に描いてあります。
ただ、その普通の描き方が作者凪良ゆうは違います。この人の文章は常に内向きであり、明るい未来を示すことはないようです。
前述したように、本書『汝、星のごとく』は各種文学賞で非常に評価が高い作品です。
また、実際読み終えてみても若い二人の心象がうまく描かれていて、襲い来る様々な難題に押しつぶされながらもお互いや、周りの人たちの力を借りて生き抜いていく二人の姿には感情移入し、惹き込まれるしかありません。
しかし、自己主張の仕方が下手で、特に母親の存在に深く縛られその呪縛から抜けることができない櫂と暁海の様子はどうにも受け入れることができませんし、本書のような作品を積極的に手に取ることはないと思われます。
とはいえ、本書の素晴らしさは否定することはできませんし、それだけの評価を得るに値する作品だと思います。