将軍家の肝煎りで、日の本一の剣客を決める御上覧試合の開催が決まった。主君真興の推挙を受け、湯瀬直之進は予選が行われる駿州沼里の地を踏んだが、城下を押し込みの一団が跳梁していた。その探索に乗り出そうとした矢先、直之進の前に尾張柳生の遣い手が現れる。果たして直之進は故郷に平穏を取り戻し、上野寛永寺で行われる本戦出場を果たせるのか!?人気書き下ろしシリーズ第三十六弾。(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの第三十六弾の長編痛快時代小説です。
日本一の剣客を決める御上覧試合が行われることになり、駿州沼里城主真興とその弟房興とが秀士館の直之進のもとを訪れ、沼里藩の代表として出て欲しいと言ってきました。
寛永寺で開催される御上覧試合は、全国が十二の地域に分けられており、東海地方での予選は沼里で行われるそうです。そのため、御上覧試合を勝ち抜くためには、同じ東海地方の強豪である尾張藩の柳生新陰流を倒す必要がありました。
予選に参加するために、直之進は、おきくや、主持ちではないために試合に参加できない佐之助と共に沼里に赴きます。
沼里に来る船の中で、沼里で跳梁しているという押し込みの一団の話は聞いていましたが、突然に直之進の屋敷を訪ねてきた尾張柳生の剣士新美謙之介とともに、この一団を退治した直之進らは予選試合へと臨むのでした。
今回は、これまでとは異なる話の流れになっていて、シリーズのマンネリ化を感じていた私としては待ちかねた展開になった物語でした。
剣術の勝ち抜き戦という舞台設定自体は決して珍しいものではないにしても、これまでのこのシリーズの流れからすると毛色が変わってきたと思われ、何にせよ期待したい流れなのです。
その中で、特に尾張柳生の剣士新美謙之介というキャラクターは、多分ですが今後も登場する人物として設定されている気がします。
それほどに、この人物の登場の仕方や人物像にが軽い意外性があり、簡単に退場する人物像では無さそうな描き方をしてあるのです。
しかし、近時再読している池波正太郎の『剣客商売』シリーズを読んでいて改めて思うのですが、小説のストーリーの運び方、登場人物像の描き方などのうまさにおいて、どうしても比較してしまい、若干の物足りなさも感じています。
それは、本シリーズのみならず、近年の時代小説全般に対して思うことでもあります。近年の時代小説のありかたそのものに関わるものかもしれません。それは本シリーズも同様なのですが、ただ本シリーズの持つ独特の個性を失うことなく、更なる魅力的な物語を提供して欲しいと思うばかりです。