「戦国武将」から「剣聖」へ。新陰流創始者・上泉伊勢守の勇壮な生涯。
時は戦国——のちに「剣聖」と仰がれる上泉伊勢守は関東制覇の要衝・上州は大胡の城主。上杉謙信・武田信玄・北条氏康の野望に巻き込まれ、戦場から戦場へ体を休める暇もない。その武勇を「上州の一本槍」と天下に轟かせるも、一介の剣士として剣の道に没入できる平穏な日々の訪れを秘かに願う伊勢守だった。折しも国盗り合戦は佳境を迎え、上州の勢力図にも大きな変化が……。(上巻 : Amazon内容紹介 より)
極めよ、剣の道! 「剣聖」上泉伊勢守が最後に見せた奥義。
押し寄せる武田軍によって上州は陥落寸前。死を覚悟し、最後の出陣に臨んだ上泉伊勢守に「兵法を広めよ」との伝令が……。隠居を決意した伊勢守は、剣の道を極めるため、旅に出る。柳生の里や京都で「心と躰は二にして一」という「活人剣」を標榜し、無益な殺生を拒否した伊勢守が、最後に見せた凄まじくも静かな剣技。「新陰流」の創始者となった戦国武将の勇壮な生涯を描いた長編時代小説。(下巻 : Amazon内容紹介 より)
剣聖と呼ばれた上泉伊勢守信綱の生涯を描く長編時代小説です。
上泉伊勢守信綱は戦国時代に今の群馬県(上州)の城持ちの武将でありながら、剣聖と呼ばれた人です。上杉謙信の力を借りて武田信玄や北条氏康等と戦い抜きながら、後に城を嫡男にまかせ、剣の道を極めるために旅に出ました。
本書ではそうした上泉伊勢守信綱の武将としての側面を描いてあります。
本書での上泉伊勢守は冒頭で既に三十八歳であり、北条との戦いの只中にいます。そして上泉伊勢守信綱が武田信玄との戦いに敗れ、一介の剣士として旅立つまでの話を中心に、その後の伊勢守の消息も含め描写してあります。
また、伊勢守とある女性との係わりをも描いて物語に色を添え、もう一方で伊勢守に対立する剣士として十河九郎兵衛という剣士を登場させています。勿論、柳生宗巌や宝蔵院胤榮等も登場します。
上泉伊勢守信綱を描いた作品として他に海道龍一朗の「真剣」があります。「真剣」では剣聖としての上泉伊勢守信綱に焦点を当て、少年期から宝蔵院胤榮との戦いまでを「剣」との関わりを中心に描いてありました。
私個人の好みは「真剣」の剣聖としての上泉伊勢守信綱の面白さを買うのですが、人間上泉伊勢守信綱を読みたい人はこの本でしょう。池波正太郎の「鬼平犯科帳」や「剣客商売」と同じレベルとまではいかないでしょうが、十分に面白い物語です。