新田 次郎 雑感
私の中では、山岳小説といえば新田次郎という名前が最初に上がります。特に、実在の人物をモデルにしての山岳小説を多数書かれておられ、どの作品もかなりの読みごたえをもって読んだものです。
文章は決して美しいとはいえないのですが、山登りが一歩一歩大地を踏みしめて少しずつ登っていくように、じわりと心に響いてきますす。
山というものに対しての情報小説としての一面があると言ってもいいのではないでしょうか。
その観点から見ても面白い小説としては、著者が現在の気象庁である中央気象台に入庁している経験を生かして書かれた『富士山頂』や『劒岳 点の記』などがあります。
一方、『武田信玄』( 文春文庫 全四巻 )を始めとする歴史小説も書かれており、これまた緻密な下調べが伺える物語で、引き込まれてしまいました。
決して派手ではありませんが、読み進むにつれゆっくりと心に沁み入ってくる文章を書かれる人です。新田次郎の作品の大半を読んで思うのは、時代小説も勿論面白いのですが、やはりこの作家の山を舞台にした物語は他の人の追随を許さない作品だということです。
ただ、近年、笹本稜平という作家の山を舞台にした作品群を読んでとりこになりました。新田次郎とはまた異なる、『還るべき場所』のような冒険小説的な色合いの濃い山小説や、それとは異なる『春を背負って』のような美しい山の物語もまた是非一読をお勧めします。新田次郎とは異なる感動がありました。
[投稿日] 2014年12月26日 [最終更新日] 2019年4月19日