カトマンドゥの裏街でカメラマン・深町は古いコダックを手に入れる。そのカメラはジョージ・マロリーがエヴェレスト初登頂に成功したかどうか、という登攀史上最大の謎を解く可能性を秘めていた。カメラの過去を追って、深町はその男と邂逅する。羽生丈二。伝説の孤高の単独登攀者。羽生がカトマンドゥで目指すものは?柴田錬三郎賞に輝いた山岳小説の新たなる古典。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)
その男、羽生丈二。伝説の単独登攀者にして、死なせたパートナーへの罪障感に苦しむ男。羽生が目指しているのは、前人未到のエヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂だった。生物の生存を許さぬ8000メートルを越える高所での吐息も凍る登攀が開始される。人はなぜ、山に攀るのか?永遠のテーマに、いま答えが提示される。柴田錬三郎賞に輝いた山岳小説の新たなる古典。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)
伝奇小説の第一人者である夢枕獏が描く、長編の山岳小説です。
本作品は実在の人物をモデルにした主人公羽生丈二の冬季単独登攀が描かれています。併せてジョージ・マロリーという登山家がエベレストに登頂したのか、という謎を絡めた話にもなっています。
この作者の筆力が真向に感じされる骨太の作品で、実に面白く、熱くなって読み終えました。
ただ、私にとって山の物語はやはり新田次郎です。この作品も新田次郎を越えるとまでは感じませんでした。
例えば、昭和の初めの頃「単独行の加藤」と呼ばれた実在の登山家である加藤文太郎という人をモデルとした『孤高の人』があります。
また実在の登山家芳野満彦臥モデルの『栄光の岩壁』や、今井通子、若山美子といった登山家をモデルにした『 銀嶺の人』などがあります。
そういう意味では笹本稜平の山岳小説は、『天空への回廊』などの冒険小説的な色合いが豊かな作品や、『春を背負って』などの爽やかな人間ドラマな作品もあり、また違った側面の山を描いてあって、面白い小説でした。