『あきない世傳 金と銀(八) 瀑布篇』とは
本書『あきない世傳 金と銀(八) 瀑布篇』は『あきない世傳 金と銀シリーズ』の第八巻目で、2020年2月に角川春樹事務所から340頁の文庫書き下ろしで出版された長編の時代小説です。
あい変らずに面白い物語の運びです。商いも順調な五鈴屋江戸店ですが、いつものように次から次へと降りかかってくる難題をどうやって乗り越えるのか、幸の活躍が気になります。
『あきない世傳 金と銀(八) 瀑布篇』の簡単なあらすじ
遠目には無地、近づけば小さな紋様が浮かび上がる「小紋染め」。裃に用いられ、武士のものとされてきた小紋染めを、何とかして町人のものにしたい―そう願い、幸たちは町人向けの小紋染めを手掛けるようになった。思いは通じ、江戸っ子たちの支持を集めて、五鈴屋は順調に商いを育てていく。だが「禍福は糾える縄の如し」、思いがけない禍が江戸の街を、そして幸たちを襲う。足掛け三年の「女名前」の猶予期限が迫る中、五鈴屋の主従は、この難局をどう乗り越えるのか。話題沸騰の大人気シリーズ第八弾!!(「BOOK」データベースより)
『あきない世傳 金と銀(八) 瀑布篇』の感想
本書『あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇』は『あきない世傳 金と銀シリーズ』の第八巻目で、新たに試みた「小紋染め」も十順調に売り上げを伸ばすなか、新たな試練が襲い来るのでした。
町人は身につけるものではないとの思い込みから、町屋では売られていなかった小紋染めを売り出した幸の思惑は見事に当たり、五鈴屋は売り上げを伸ばしていました。
そこに襲い掛かったのが思いもかけない流行り病です。身近な人が病に倒れる中身を飾ることがためらわれる、という思いは五鈴屋のような商売には正面からの逆風となったのです。
更には幸の妹の結のことも大きな問題となっていました。二十七歳という嫁に行くにも遅い年齢となっていた結に縁談の話が起きますが、結自身の秘めた思いもあったのです。
そんな中、今度はお上からの難題が押し付けられます。
本書『あきない世傳 金と銀(八) 瀑布篇』はこれまでにも増して盛り沢山の内容になっています。
五鈴屋江戸店が出店したのは二年前の師走十四日のことでしたが、今では小紋染めの売り上げも順調であり、結やお竹らの「帯結び指南」も町屋のおかみさんたちにも受け入れられています。
基本的にお客様のことを思い、その上で店の利益をも考えるという『買うての幸い、売っての幸せ』という言葉のもと、五鈴屋七代目の幸や店の皆の努力もあって順風満帆な五鈴屋の商売です。
そこに流行り病が襲い、順調だった商売は停滞してしまいます。
ただ、今年になって型紙商人の型売りが株仲間として正式に認められ、型売りの行商が見られるようになりました。つまり、色々な伊勢型紙も江戸へ入ってくるということです。
そのこと自体は喜ばしいことだという幸でしたが、幸には天満組呉服仲間からの「女名前禁止」の期限も間近となっていました。
そこにお上からの上納金の申し渡し、そして惣次の再登場、加えて最後の予想もしない展開へとつながる本書『瀑布篇』なのです。
でも、こうした障害も、幸自身の必死の努力があればこそ乗り越えられたものです。
それに小紋の新しいデザインを考え抜いている手代の賢輔や、これまでとは異なる手法での染めを考えたりもする五鈴屋が染めを頼んでいる型付師の力造などの知恵や努力が実を結んだ結果でもあったのです。
そんな五鈴屋全員の働きの結果として今の五鈴屋があるのですが、それにしても本書『あきない世傳 金と銀(八) 瀑布篇』のラストはこれまで以上に驚きの出来事だったと言えるかもしれません。
この苦境を幸たちはどのように乗り越えるのか、五鈴屋の皆はこの衝撃に耐えられるのか。もうすぐ出版されるだろう『あきない世傳 金と銀(九) 淵泉篇』を待つしかありません。