『あきない世傳金と銀(四) 貫流篇』とは
本書『あきない世傳金と銀(四) 貫流篇』は『あきない世傳 金と銀シリーズ』の第四弾で、2017年8月に角川春樹事務所から296頁の文庫書き下ろしとして出版された、長編の時代小説です。
前巻で思いもかけずに義理の弟に嫁ぐことなった幸は、今回もまた新たな別れが待っていて、一段と目が離せなくなってきました。
『あきない世傳金と銀(四) 貫流篇』の簡単なあらすじ
江戸時代中期、長く続いた不況を脱し、景気にも明るい兆しが見え始めた。大坂天満の呉服商、五鈴屋でも、五代目店主の惣次とその女房幸が、力を合わせて順調に商いを広げていた。だが、徐々に幸の商才を疎むようになった惣次は、ある事件をきっかけに著しく誇りを傷つけられ、店主の地位を放り出して姿を消す。二度と戻らない、という惣次の決意を知ったお家さんの富久は、意外な決断を下す。果たしてその決断は五鈴屋を、そして幸を、どのような運命へと誘うのか。大人気シリーズ第四弾!(「BOOK」データベースより)
『あきない世傳金と銀(四) 貫流篇』の感想
本書『あきない世傳金と銀(四) 貫流篇』でも、理不尽としか言えない出来事に見舞われる幸の姿があります。
惣次が家を出て、智蔵が惣次が隠居するとの手紙を持ってきた日に、何かと世話になってきた桔梗屋もやってきて、惣次が相談に来て、「離れて生きる不幸」を選んだというのでした。
お家さん(富久)は三男の智蔵が五代目徳兵衛を継ぐことを望みますが、智蔵は煮え切りません。
そこで、幸を養子にと考えるお家さんでしたが、智蔵は幸もろともに五鈴屋を引き受けることを決心します。
智蔵は六代目徳兵衛となり、自分は人形となって幸の思うとおりに五鈴屋を動かしてもらおうと考えるのでした。
次から次へと運命に翻弄される幸です。
何かと困難な出来事を設定し、それを乗り越える姿を描くことで、読者に爽快さ、痛快さを感じてもらうのが痛快小説に限らない小説の手法の一つでしょう。
またそれこそが作者の腕の見せ所だと思うのですが、本書『あきない世傳金と銀(四) 貫流篇』のように主人公が三人もの夫に嫁す、それも三兄弟に嫁すというのは意外な設定でした。
そんな中でも、よくもまあ兄弟三人それぞれに性格設定を色分けし、最終的(かどうかはわかりませんが)に幸が一番力を発揮できるような環境を整えたものだと感心します。
ですから、今後はそうした環境の中で幸が五鈴屋をさらに発展させていく姿が描かれることになるのでしょう。
ただ、この作者のことですからまた意外な設定を準備しているのかもしれません。
今後は、智蔵という良き理解者を得て、商の戦場に乗り出していく幸の姿が十分に描かれていくのでしょう。
しかし、大阪という商売人の町での商売上の障害がまだ少ししか描かれてはいないことを考えると、幸にはより大きな試練が待っているのではないかと思うのです。
そしてその試練を乗り越える展開が予想されるのです。