佐伯 泰英

酔いどれ小籐次留書シリーズ

イラスト1
Pocket


御留山 新・酔いどれ小籐次(二十五)』とは

 

本書『御留山 新・酔いどれ小籐次(二十五)』は『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第二十五弾で、2022年8月に文庫書き下ろしで刊行された、編集者による巻末付録まで入れて365頁の長編の痛快時代小説です。

新・旧の『酔いどれ小籐次シリーズ』全四十五巻が本書をもって終了します。

 

御留山 新・酔いどれ小籐次(二十五)』の簡単なあらすじ

 

玖珠山中に暮らす刀研ぎの名人「滝の親方」は、小籐次にそっくりだという。もしや赤目一族と繋がりが?森藩の事情を憂う小籐次のもとに藩主・久留島通嘉からの命が届く。「明朝、角牟礼城本丸にて待つ」-山の秘密を知った小籐次は。『御鑓拝借』から始まった物語が見事ここに完結!記念ルポ「森藩・参勤ルートを行く」収録。(「BOOK」データベースより)

 

第一章 山路踊り
森陣屋でしばらく放っておかれた小籐次だったが、連れていかれた陣屋の中庭では、都踊りかとも見紛う山路踊りなる宴が催されているのに驚くばかりだった。翌朝、一人稽古を済ませた駿太郎はなんでも屋のいせ屋正八方を訪ねた。

第二章 二剣競演
久留島武道場で最上と稽古をした駿太郎は小籐次らと共にいせ屋正八を訪ね、鉄砲鍛冶の播磨守國寿師の鍛冶場を訪ねることとなった。その後、國寿の勧めに従い、次直の研ぎを頼むために十一丈滝の親方の求作に会いに向かうのだった。

第三章 血とは
久慈屋に届いた小籐次からの文が空蔵の手により読売へと仕上げられていた。一方小籐次親子は放っておかれ、何日も無視をされたままだったが、やっと森藩主久留島通嘉からの言伝が届いた。

第四章 山か城か
久留島通嘉は、長年の夢のために穴太積みの石垣を完成させていたのだが、しかし、その夢は森藩御取潰しになる夢でもあった。小籐次らが帰る途中、石動源八なる男が待っていた。

第五章 事の終わり
この夜、茶屋の栖鳳楼で嶋内主石らの酒盛りの席に小籐次が現れた。翌日、小籐次の働きを聞き八丁越に来た石動源八は、谷中弥之助、弥三郎兄弟の待ち受けを知るが、そこに小籐次親子が現れるのだった。

終章
文政十年(1827)七月五日、愛宕切通の曹洞宗万年山青松寺で、不在の間に亡くなった新兵衛の弔いが催され、小籐次親子がそれぞれに剣技を披露し、この物語も幕を閉じるのだった。

 

御留山 新・酔いどれ小籐次(二十五)』の感想

 

本書『御留山 新・酔いどれ小籐次(二十五)』は本シリーズの最終巻であり、小籐次親子が旧主久留島通嘉の参勤交代に同行してやっと森藩陣屋へとたどり着いた後の出来事が語られています。

森藩藩主久留島通嘉が小籐次を参勤交代に同行し、国表まで同行するように命じた理由も明らかにされます。

それは、小籐次の物語の最初である『酔いどれ小籐次シリーズ』第一巻『御鑓拝借』へと連なるものであり、最終巻をまとめるのにふさわしい理由付けだったとは思います。

また、その理由付けによって、前巻でも疑問であった藩主の参勤交代の旅での国家老一派の傍若無人な振舞いに対する「設定が甘い」という私の疑問も、それなりに、一応納得できる理由付けが為されたものでした。

そういう点では最終巻として納得できるものだったと言えます。

 

 

しかしながら、この小籐次親子の参勤交代への同行劇全体は、シリーズを通しての評価としては決して満足のいくものではありませんでした。

というのも、最終巻にしては小籐次の敵役としての国家老の存在が小者に過ぎ、今一つの緊張感が見られなかったからです。

この新旧の『”酔いどれ小籐次シリーズ”のシリーズ作品の中でも私が一番好きだった作品だったので、シリーズが終わること自体がまず残念でした。

そして、どうせ終わるのならば、シリーズ第一巻『御鑓拝借』での小籐次の大活躍のように、最終巻らしい活躍をさせてほしかった、という思いがあったのです。

ただ、こうした思いは藩主久留島通嘉が小籐次に同行を命じた理由そのものは納得できるものだったのですから、全く私の身勝手な好みで満足できなかったと言っているに過ぎないとも言えるでしょう。

 

ただ、それだけ市井に生きる小籐次の姿が好きだったのです。

ところが、いつの頃からか小籐次が神格化され、市井に生きる一浪人としての小籐次ではなくなってしまっていたのは残念でした。

このことは、『居眠り磐音シリーズ』でも同じことが言え、普通の腕が立つ浪人であった主人公の磐根が、そのうちに孤高の剣豪へと変っていったのと似ています。

それは、作者の佐伯泰英の変化に伴うものだったのかもしれず、長い間続くシリーズ物では仕方のないことなのでしょう。

それどころか、変化のないシリーズ物は逆に人気を維持できないのかもしれません。

 

 

ともあれ、本『酔いどれ小籐次シリーズ』は本書『御留山』をもって終了しました。

読者としては、作者の佐伯泰英氏にはお疲れ様でしたというほかありません。

ご苦労様でした。

あとは、『吉原裏同心シリーズ』などの他のシリーズ作品へ力を注いでいただけることを楽しみにするばかりです。

 

[投稿日]2022年11月19日  [最終更新日]2022年11月19日
Pocket

おすすめの小説

おすすめの痛快時代小説

口入屋用心棒シリーズ ( 鈴木 英治 )
浪々の身で妻を探す主人公の湯瀬直之進の生活を追いながら、シリーズの設定がどんどん変化していく、少々変わった物語です。ですが、鈴木節は健在で、この作家の種々のシリーズの中で一番面白いかもしれません。
夜叉萬同心シリーズ ( 辻堂 魁 )
北町奉行所隠密廻り同心である萬七蔵(よろずななぞう)は、一刀流の免許皆伝という腕前を買われ、奉行直属の隠密御用を命じられている「殺しのライセンス」を持つ同心です。
とんずら屋シリーズ ( 田牧 大和 )
隠された過去を持つ弥生という娘の「夜逃げ屋」としての活躍を描く、連作の短編集です。痛快活劇小説と言えるでしょう。この作家には他にからくりシリーズという娘が主人公のシリーズもあります。
八丁堀剣客同心 ( 鳥羽 亮 )
八丁堀の鬼と恐れられる隠密廻り同心・長月隼人が活躍する、ミステリー色の強い、痛快活劇小説です。
剣客商売 ( 池波 正太郎 )
老剣客の秋山小兵衛を中心として、後添いのおはるや息子の大治郎、その妻女剣客の佐々木三冬らが活躍する、池波正太郎の代表作の一つと言われる痛快時代小説です。

関連リンク

幻冬舎時代小説文庫「酔いどれ小籐次留書」シリーズ 公式サイト
幻冬舎時代小説文庫「酔いどれ小籐次留書」シリーズ 公式サイト
BS時代劇「酔いどれ小籐次」 | NHKドラマ
2013年の元日に放送され好評を博した正月時代劇『御鑓拝借~酔いどれ小籐次留書~』の続編として、江戸の長屋に暮らすことになった小籐次の、縦横無尽の活躍を描きます
作品集(シリーズ別) - 佐伯泰英 ウェブサイト
佐伯泰英 ウェブサイト

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です