『狂う潮 新・酔いどれ小籐次(二十三)』とは
本書『狂う潮 新・酔いどれ小籐次(二十三)』は酔いどれ小籐次シリーズ』の第二十三弾で、2022年6月に341頁の文庫本書き下ろしで刊行された、長編の痛快時代小説です。
『狂う潮 新・酔いどれ小籐次(二十三)』の簡単なあらすじ
淀川を襲う激しい嵐から人々を救うため、来島水軍流・剣の舞を天に奉納する小籐次・駿太郎親子。森藩の御座船・三島丸に乗りこんだ二人は、国家老一派から目の敵にされる。そんな中、船中からひとりの家臣が消えたーついに、先祖の地・豊後を目にした小籐次に藩主・通嘉は「頼んだぞ」と声をかける。果たしてその意味とは。(「BOOK」データベースより)
第一章 三十石船
文政十年(1827)春仲夏、赤目小籐次親子は伏見京橋の川湊に到着した。船問屋大伏見の屋根船で枚方を過ぎたあたりで嵐に会い停泊しているところに、六、七人の剣術家と思しき面々が襲ってきたが、俊太郎と小籐次がこれを撃退してしまう。
第二章 季節外れの野分
野分は激しさを増すばかりで、駿太郎はまわりの乗合三十石船の客を陸に挙げる手伝いをしていた。小籐次は残っていた酒をお神酒とし、駿太郎と共に来島水軍流正剣十手を奉納する。ようやく御座船三島丸へと乗り込み、駿太郎は三島丸の主船頭の利一郎らと顔を合わせていた。
第三章 瀬戸内船旅
駿太郎は、翌未明から茂という若い水夫と共に水夫の仕事を手伝い、また稽古をしているところにやってきた船奉行支配下の佐々木弁松を懲らしめるのだった。また様子を見に来た小籐次から国家老一派のことを聞いていた。
第四章 三島丸の不穏
次の停泊地の家島で駿太郎は小籐次と共に家島権現へと参った。備讃瀬戸に入ったところで、創玄一郎太が何者かに襲われる事件が起きる。野分が襲いそうな天気のもと、茂は「来島」の語源の説明をしていた。
第五章 先祖の島
種々の事件は起きるものの佐柳島の本浦湊へと入港したおりに、小籐次らは三嶋の大山祇神社に剣技を奉献する。そして三島丸は最後の伊予灘を走っていた。そこに、藩主久留島通嘉と池端恭之助が現れ小籐次に、しかと頼んだぞ、と告げるのだった。
『狂う潮 新・酔いどれ小籐次(二十三)』の感想
本書『狂う潮 新・酔いどれ小籐次(二十三)』は、ほとんど全編が森藩の飛び地へとたどり着くまでの船旅の様子が語られまています。
最初は、瀬戸内に至るまでの淀川での船旅です。
そこでは、反対派によると思われるに六、七人の剣術家の襲来がありますがこれは駿太郎の敵ではありませんでした。
また、野分が襲い、小籐次親子によるほかの船の船客の救助や剣技の奉納などの出来事があります。
この大阪までの物語は、なんとなくですが半端な印象もあって、言葉は悪いですがどうでもいい描写だったという印象です。
その後、瀬戸内海での船旅の様子が描かれます。
ここでの旅は各土地の来歴、例えば「淡路島」との名前は「阿波への道」から来ていることの解説など、ちょっとしたトリビア的な文章があり、それなりの面白さを持っていました。
この三島丸に関しては、異人帆船の作り方でできていること、つまりは長くて二十年と言われる和船の寿命よりも倍以上の寿命を誇ること、その理由の一つとして船体を支える竜骨が通っていることなどが記されています。
また、瀬戸内の海を灘と呼び、摂津大坂から和泉灘、播磨灘、水島灘、備後灘、燧灘、斎灘、安芸灘、伊予灘などの名称も記されているのです。
本書『狂う潮』の物語としての面白さに関しては、本『酔いどれ小籐次シリーズ』の作品と比較すると面白さが増しているとは言えません。
ただ、森藩内の江戸藩邸派と国家老派との対立が明確になる面白さはあります。
しかし、この点は、藩主を前にした御用人頭の水元忠義と船奉行の三崎義左衛門が、藩主の問いを無視した振る舞いをするなど、時代小説では普通は考えられない行動をとっているなどの疑問な点もあります。
でも、こうした疑問も後の展開の中で解消されていく事柄かもしれず、またもしかしたら痛快時代小説の流れとして声をあげるべきところでは無いのかもしれません。
いずれにしろ、本書『狂う潮 新・酔いどれ小籐次(二十三)』はシリーズの中では特別に面白い作品だということはできないと思います。
シリーズの完結が近づいています。今後の展開を楽しみにしたいと思います。