『三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』とは
本書『三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』は『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第二十弾で、2021年2月に文庫本で刊行された341頁の長編の痛快時代小説です。
『三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』の簡単なあらすじ
大切な舟が水漏れするようになったが、金の工面に悩む小籐次。舟づくり名人・亀吉親方が思い出したのは、かつて小籐次が助けた花火師親子のことー人の縁が繋がってお目見えした新舟「研ぎ舟蛙丸」が江戸を大いに沸かせる中、ニセ鼠小僧の悪事が止まらない。奉行所と小籐次、そして元祖鼠小僧がタッグを組んで成敗に乗り出す!(「BOOK」データベースより)
第一章 新しい工房
船頭の兵吉から小籐次の仕事船は買い替えた方がいいとの忠告を受け、仕事船の持ち主である久慈屋の了解を得て新造することとなった。北割下水の船大工の蛙の親方こと亀作親方を紹介してもらい、蛙の親方のところにあった船を譲ってくれることとなった。
第二章 火付盗賊改との再会
小籐次のもとを火付盗賊改与力の小菅文之丞と同心の琴瀬権八とが二人が訪れ、小籐次と鼠小僧治郎吉との付き合いを話せと言ってきた。その後、子次郎を望外山荘の屋根裏に泊めることにした小籐次だった。
第三章 研ぎ舟蛙丸
新しい船が望外山荘に届き、蛙丸と命名されたその船で皆に挨拶回りをする小籐次だった。その後、駿太郎が一人で望外山荘へ帰ると、火付盗賊改の手先が蛙丸を盗み出そうとするのだった。
第四章 虫集く
小籐次は、火付盗賊改にとらわれている子次郎の仲間を助け出し、また偽物の鼠小僧治郎吉は表火之番の井筒鎌足とその三男坊の八十吉がだとの話を聞いた。翌日、仕事を終え望外山荘へ帰った小籐次と駿太郎の前には、おりょうに刀を突きつける小菅文之丞がいた。
第五章 三河の菓子
中田新八らに相談し、老中青山忠裕の命で両替商の錦木に莫大な金子が集まるその夜、小籐次親子や子次郎らは襲い来た井筒鎌足ら偽鼠小僧一味を一網打尽とするのだった。ことが終わり、三河の吉田宿の近くに子次郎の姿があった。
『三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』の感想
本書『三つ巴 新・酔いどれ小籐次(二十)』では、小籐次親子の足ともいえる研ぎ船がいよいよ水漏れをし始め、新しい船を手に入れることになります。
と同時に本書でのメインの出来事である鼠小僧治郎吉の偽物は、とうとう人殺しまで犯してしまいます。
また、火付盗賊改が小籐次に狙いをつけ、鼠小僧との関連を疑い始める事態も起こります。
火付盗賊改とは、あの池波 正太郎の『鬼平犯科帳』という作品で高名な火付盗賊改ですが、本書に登場する火付盗賊改はかなりのワルとして描かれています。
同時に偽鼠小僧も登場し、本書ではこれらの火付盗賊改と偽鼠小僧が敵役となっています。
ただ、今回登場の敵役はあまり魅力がありません。
とくに、表火之番の井筒鎌足とその三男坊の八十吉に関してはあまり書き込みもなく、その人物像が明確ではありません。
勿論、それなりの背景は書いてはあるのですが、何となくの印象であって小籐次に対峙する悪役としてはよく分かりません。
加えて、彼らに関しての出来事ももう一方の敵役である小菅文之丞と琴瀬権八という火付盗賊改の二人の存在と出来事とに分散されており、若干分かりにくい部分があります。
たしかに、毎回毎回新たな事件を設け、小籐次に相対するそれなりの敵役を設けなければならない作者はさぞや大変だろうと思います。
でも、この敵役がそれなりに魅力が無ければ主役のヒーローが目立たないのです。
とはいえ、新たな研ぎ船の「蛙丸」に関する話が設けられており、その船にまつわる人物や会話はいかにも『酔いどれ小籐次シリーズ』らしく、ほほ笑ましくもあります。
あと数巻しかないこのシリーズです。
最後まで丁寧に読んでいきたいものです。