本書『寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第二巻の、文庫本で365頁の長編の痛快時代小説です。
江戸で貧乏暮らしをする磐根の日常が描かれますが、故郷の豊後関前藩とのつながりも残っています。
『寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』の簡単なあらすじ
江戸深川六間堀、金兵衛長屋で浪々の日々を送る坂崎磐音。直心影流の達人だが、相も変わらぬ貧乏暮らし。仕事の口を求めて奔走する磐音に、暇乞いした豊後関前藩との予期せぬ関わりが生じて…。些事にこだわらず、春風駘蕩の如き好漢・磐音が江戸を覆う暗雲を斬り払う、著者渾身の痛快時代小説第二弾。(「BOOK」データベースより)
改元されたばかりの安永元年(1772)の暮、前巻の終わりに南鐐二朱銀事件で受けた傷が完治していないため、宮戸川での鰻割きの仕事もできず腹を減らすばかりだった。
そんな磐根のもとに品川柳次郎が内藤新宿でのヤクザものの喧嘩の助っ人の話を持ってきた。そこでの争いに絡んできたのが南町奉行所の笹塚孫一という年番方与力だった。
結局、磐根の要請に応じて笹塚が乗り出し、ヤクザものの二つの組が稼いだ金を皆持っていってしまい、磐根たちはただ働きとなってしまう。
そんな磐根に幸吉は、両国広小路の矢場での用心棒の仕事を持ってきた。しかし、この仕事も結局は笹塚の登場を願うこととなるのだった。
笹塚の仲介で再び神田三崎町の佐々木玲圓道場へと顔を出すようになった磐根のもとに、豊後関前藩江戸屋敷の勘定方を務める上野伊織が訪ねてきた。
慎之輔や琴平の死は関前藩内の争いがかかわっているというのだった。
『寒雷ノ坂─ 居眠り磐音江戸双紙 2』の感想
シリーズも第二巻ともなり、一通りの登場人物の紹介のあと第一巻では登場していなかった南町奉行所の笹塚孫一という与力も登場します。
磐根の江戸での生活の紹介が一応終わって、物語の大きな筋が見えてくることになります。
それは、磐根が心ならずも身分を離れることになった旧藩である豊後関前藩の内紛です。
磐根ら親友の三人が心ならずも斬り合うこととなった原因を作ったのも国家老の宍戸文六を中心とする派閥であることが判明してくるのです。
こうして、本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』は、磐根の生まれ故郷である豊後関前藩の内部紛争を基本的な軸に据えることになります。
そして、師匠である佐々木玲圓との交流、それに第一巻で南鐐二朱銀事件で名前の挙がった田沼意次などと対決することになる磐根の姿などが描かれることになるのです。
もちろん、巻ごとに何らかの騒動が起き、それを磐根や品川柳次郎らが奔走し、解決していく、その背後には今津屋があり、そして南町奉行所与力の笹塚孫一が、さらにその背後には将軍御側御用取次の速水左近が控えているという構図になります。
痛快小説としての磐根の剣劇の場面が用意してあることは勿論であり、思いもかけない展開を見せていく佐伯作品の魅力にあふれたシリーズとして展開していきます。
作者の佐伯泰英氏は、先の展開まで計算して書かれていたとは思われない、スケールの大きなシリーズとして広がりを見せることになる本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』です。
再読してもなお面白さが失われない、それだけの内容を持ったシリーズでした。