本書『花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第三巻の、文庫本で357頁の長編の痛快時代小説です。
前巻『寒雷ノ坂』で明らかになった関前藩国家老の宍戸文六らの横暴と直接に対決する磐根の姿が描かれる、まさに痛快小説の面白さを持った作品です。
『花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』の簡単なあらすじ
安永二年、初夏。江戸深川六間堀、金兵衛長屋に住む坂崎磐音。直心影流の達人なれど、日々の生計に迫われる浪人暮らし。そんな磐音にもたらされた国許、豊後関前藩にたちこめる、よからぬ風聞。やがて亡き友の想いを胸に巨悪との対決の時が…。春風の如き磐音が闇を切り裂く、著者渾身の痛快時代小説第三弾。(「BOOK」データベースより)
磐根が親友二人を失った夏から一年が経とうとしていたある日、金兵衛長屋の磐根を富岡八幡宮前で金貸しとヤクザの二枚看板にしている権蔵一家の代貸の五郎造が迎えに来た。
前巻『寒雷ノ坂』で、泥亀の米次にさらわれた幸吉を探す手伝いをしてもらった際の借りを返してほしというのだった。
磐根は笹塚孫一と謀り、権蔵一家と敵対する顎の勝八が開帳する賭場に乗り込みこれを捕縛するとともに自分は用心棒たちを排除し、七、八百両の金を笹塚に渡すこととするのだった。
そんななか、上野伊織の許嫁の野衣から御直目付の中居半蔵に手紙を届けるために早足の仁助が国表から出てきたため磐根に会いたいと言ってきた。
そこで、仁助をつなぎとして中居半蔵に会うと、中居は佐々木玲圓門下でもあり、藩主の福坂実高本人の信任を得て入ることが判明し、今後はともに助力し合うことを誓う。
後日、国許の神伝一刀流中戸道場の先輩で藩主と共に江戸へ出てきた東源之丞と会い、国許へ帰ることを決心する。
『花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』の感想
豊後関前藩江戸屋敷の勘定方を務める上野伊織の働きによって、関前藩国家老の宍戸文六を中心とする勢力の専横が明らかになりました。
本書『花芒ノ海─ 居眠り磐音江戸双紙 3』では、坂崎磐根らが関前藩へと戻って活躍する姿が描かれます。
磐根の父親である豊前関前藩中老の坂崎正睦も閉門を言い渡されて動きが取れないなか、関前藩の江戸屋敷詰直目付の中居半蔵らと力を合わせ藩政改革の乗り出す磐根の姿があります。
そもそも、本シリーズの始めに親友を斬り江戸へ出ることになったのも、宍戸一派の策謀故であったことなどが明らかになるなか、磐根らの姿が爽快感をもって描かれるのです。
本書『花芒ノ海』の主軸はこのような関前藩に関する話ですが、その合間にヤクザの用心棒として働き、笹塚孫一に金を稼がせる様子や、酒飲みの亭主のために吉原へ女郎として売られる女性の話などの小さなエピソードが挟まれます。
そうした小さなエピソードの積み重ねが磐根の物語世界を形づくっていくのでしょうし、磐根のキャラクターを確立していく助けにもなっていると思われます。
ただ、本シリーズが進んでいくと磐根の印象が変化していきます。
本書『花芒ノ海』の時点では爽やかな青年剣士なのですが、ある頃から高みにいる孤高の存在のような印象になって来るのが残念です。
そうならない前の初々しい磐根を楽しみたいものです。