鼠小僧治郎吉処刑の翌年、天保四年は全国的な凶作のうえ、江戸市中では刃傷沙汰が多発し、殺伐とした空気が漂っていた。秋月六平太は恩師に乞われ、相良道場の師範代として多忙な生活を送っていたが、堅実な暮らしに少しばかり飽きも感じていた。ある日、馴染みの材木商母娘に誘われた舟遊びで破落戸の喧嘩を諌めたことをきっかけに、妹佐和の進言もあって付添い屋稼業を再開する。命を狙われる女医者や傲慢な天才棋士の付添いを務めた六平太の帰りを待っていたのは、匕首を持った男たちだった。ドラマ時代劇の名手が贈る大ヒットシリーズ、待望の新章開幕!(「BOOK」データベースより)
付添い屋六平太シリーズの第十一弾ではす。本巻からシリーズの第四部が始まります。
第一話 春雷
秋月六平太は付添い屋をやめ、相良道場師範代を務めていた。ある日、飛騨屋母娘と舟遊びに出たところを破落戸に絡まれ、これを撃退。だが噂を聞いた口入れ屋に「隠れて付添い屋をしていたのか」と詰め寄られる。一方、十五歳になった穏蔵は八王子から江戸に出てきたが、肌に合わず奉公先を飛び出していた。
第二話 女医者
師範代を返上した六平太へ、中条流女医者かつ枝に付添う仕事が舞い込んだ。診療の帰り、外塀に貼られた姑獲鳥の札に、かつ枝は顔色を失った。そのころ、森田座の役者、河原崎源之助が行方不明になっていた。
第三話 鬼の棋譜
妙な男が市兵衛店を窺っているらしい。気になりながらも六平太は平岡宗雨の付添いへ出向く。将棋の才能に恵まれた宗雨だったが、態度が慇懃だと世間からの評判は悪かった。
第四話 一両損
穏蔵は甚五郎親分の下で働きたいという。二人を引き合わせた六平太は、音羽での騒ぎを耳にする。灰買いの女が集めた灰の中から高価な菩薩像が出てきたのだ。持ち主を探すため、六平太は町に噂話を流す提案をする。(「内容紹介」より)
今回の六平太の話は、おりきが六平太の元に戻っていることが一番の変化でしょうか。
ということで、六平太も元鳥越の市兵衛店での生活と、おりきのいる音羽の家での生活との二重の生活という以前と同じ状態に戻っています。
くわえて、相良道場の師範代という、いわば安定した生活から再び付添人という不安定な、しかし自由な生活に戻っていて、その点でも以前と同じになっています。
ただ、おりきがいない間、六平太には新たに博江という女性が現れていたと思うのですが、その“博江”のことについては何も触れられていないようです。
私の読み落としかもしれませんが、今後触れられるのでしょうか。
ともあれ、以前と同様の日常が戻った六平太です。
ただ、息子穏蔵が奉公先を逃げ出しており、今後、甚五郎親分のもとで修業をすることになるらしく、こちらも目が離すことができなさそうです。
相変わらず、この手の痛快時代小説の中では一番静かな物語と言えるかもしれません。目を見張る難敵もいなければ、大きな事件が起きるわけでもありません。
言ってみれば、六平太の日常が描かれているだけです。しかし、妙に心惹かれる物語でもあります。