梶尾 真治

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クロノス・ジョウンターの黎明』とは

本書『クロノス・ジョウンターの黎明』は『クロノス・ジョウンターシリーズ』の第二弾で、2022年10月に徳間書店から刊行され、2025年9月に徳間文庫から296頁の文庫として出版された、長編のSF小説です。

待望のと言ってもいい、続編が書かれるとは思ってもいなかった作品なのですぐに読みましたが、若干の期待外れの一面もありました。

クロノス・ジョウンターの黎明』の簡単なあらすじ

勤務先近くのレストランで、店主が撮った自主映画を観せてもらった克男は、映っていた女性・杏子に惹かれる。しかし彼女は撮影直後に事故で亡くなっていた。会社の人事異動で、克男は系列の新会社に出向する。そこでは「時間軸圧縮理論」を応用し、過去や未来へ行くことが出来る装置“クロノス”を開発していた。彼は、その装置で杏子を救えるのではと思いつき…。内容紹介(「BOOK」データベースより)

クロノス・ジョウンターの黎明』の感想

本書『クロノス・ジョウンターの黎明』は『クロノス・ジョウンターシリーズ』の第二弾のSF小説です。

本シリーズの第一弾『クロノス・ジョウンターの伝説』は短編小説集だったのですが、本書は長編小説です。

 

クロノス・ジョウンター」とは物質過去射出機、つまりはタイムマシンのことであり、本ブログの『クロノス・ジョウンターの伝説』の項で簡単に説明してあります。

それが、

「クロノス・ジョウンター」とは「時間軸圧縮理論」を採用したタイムマシンであり、過去に戻ればその反発で戻った過去の分以上の未来へ飛ばされてしまうという欠点を持っています。

ということであり、通常のタイムトラベルもののパラドックスの問題に加え。この欠点ゆえのドラマが繰り広げられます。

 

そして、その「クロノス・ジョウンター」の開発の様子が描かれているのが本書『クロノス・ジョウンターの黎明』です

短編集だった前巻『クロノス・ジョウンターの伝説』は「クロノス・ジョウンター」の持つ弱点を焦点にした物語だったのですが、本書は「クロノス・ジョウンター」開発のきっかけや開発行為そのものを描き出しています。

そのためでしょうか、前巻『クロノス・ジョウンターの伝説』に比べて物語の持つ熱量が今一つのような印象を受けました。

前巻は基本的にラブストーリーであり、それもクロノス・ジョウンターの持つ弱点からくる未来へのジャンプという制限故の、自己犠牲的な愛情の発露が要になっていました。

ところが、本書『クロノス・ジョウンターの黎明』ではその過去への遡行とその反発による未来へのジャンプという現象がないために、ラブストーリーの哀切感があまり感じられません。

 

物語は、たまたま見かけた八ミリ映画に登場していた清水杏子という女性に恋をしてしまった仁科克男という人物と、未来から送られてきた手紙を受け取りやはり清水杏子に恋をしてしまう青井秋星の二人の物語からなっています。

正直なところ、前著『クロノス・ジョウンターの伝説』の内容をあまり覚えていませんでしたので、本書読了後に前著の内容を調べたところ、前著での登場人物が幾人か本書で登場していました。

本書の最後に付されているクロノス・ジョウンター関連の年表でも、前著でのそれぞれの短編の主人公であった野方耕市吹原和彦などのエピソードがさらっと触れられているのです。

これはもう一度『クロノス・ジョウンターの伝説』を読み直す必要があると痛切に感じました。

そうすれば本書の印象ももう少し変わったかもしれません。

 

著者梶尾真治は、時間旅行をテーマにした純愛ものが一番得意な分野であり、面白いと思っているのですが、そうしたいくつかの作品の中に『クロノス・ジョウンターの伝説』にも登場してくる機敷埜風天などというキーマンが登場してくるのも一興です。

例えば『デイ・トリッパー』という作品がそうで、合わせて読んでみるのもいいと思います。

機敷埜風天とは個人的な収集物を展示した博物館の館長という設定ですが、そこに「クロノス・ジョウンター」も展示してあったりするのです。

 

こうした点から、梶尾真治の得意とする時間旅行ものとロマンス物とのミックスである筈の本書が、ロマンスの点でも時間旅行の面でも若干の不満を残す結果となってしまったのは残念でした。

とはいえ、今更ではありますが、ほかの作品と比較して残念だったというだけであり、それなりの面白さを持っている物語だった、とも言えるのです。

[投稿日]2023年02月10日  [最終更新日]2025年9月19日

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