おれは一万石シリーズ(2019年09月04日現在)
- おれは一万石 1
- おれは一万石 2 塩の道
- おれは一万石 3 紫の夢
- おれは一万石 4 麦の滴
- おれは一万石 5 無節の欅
- おれは一万石 6 一揆の声
- おれは一万石 7 定信の触
- おれは一万石 8 囲米の罠
- おれは一万石 9 贋作の謀
- おれは一万石 10 無人の稲田
井上(竹腰)正紀 美濃今尾藩竹腰家の次男。
竹腰勝起 正紀の実父。美濃今尾藩前藩主。
竹腰睦群 正紀の実兄。美濃今尾藩藩主。
山野辺蔵之助 高積み見廻り与力で正の親友。
植村仁助 正紀の供侍 今尾藩から高岡藩に移籍。
井上正国 高岡藩藩主。正紀の父勝起の弟。
井上京 正国の娘 正紀の妻となる。
児島丙左衛門 高岡藩江戸家老。
佐名木源三郎 高岡藩江戸詰め中老。
園田頼母 高岡藩国家老。下妻藩江戸家老園田次五郎兵衛とは親戚関係。
井上正棠 下妻藩藩主。
井上正広 正棠の長男。
園田次五郎兵衛 下妻藩江戸家老。
時代小説には珍しく、大名が主人公の痛快時代小説です。
主人公は美濃今尾藩三万石前藩主竹腰勝起の次男の正紀という十七歳の若者です。
この正紀が、下総高岡藩一万石に婿入りし藩の危機を救っていく、というこれまでの時代小説とは少々視点が異なった物語です。
高岡藩井上家の現藩主井上正国はやはり入り婿であり、正紀の父勝起の弟です。そこで、高岡藩井上家では、次の当主は井上家から迎えるべき、という考えの正紀の婿入りを歓迎しない空気もあったのです。
ここに下妻藩という存在があり、この下妻藩井上家が高岡藩井上家と共に浜松藩井上家を本家とする関係にあります。
そして下妻藩江戸家老の園田次五郎兵衛と高岡藩国家老の園田頼母とが親戚関係にあることから問題は複雑になります。
ここで、江戸時代の「大名」とは、石高一万石以上の所領を幕府から禄として与えられた藩主のことであり、徳川将軍家直属の家臣団のうち石高が一万石未満で、儀式など将軍が出席する席に参列する御目見以上の家格を持つ者が「旗本」であり、御目見以下の家格に位置付けられた者が「御家人」と言われていました( ウィキペディア 「大名」・「旗本」・「御家人」 : 参照 )。
つまり、正紀が養子に入った高岡藩は石高が一俵でも欠けると大名としての地位を失い旗本になってしまうという弱小の藩だったのです。
それにしても、痛快時代小説で大名を主人公に据えるという発想は、テレビドラマでは「暴れん坊将軍」などの作品もありましたが、小説ではあまり知りません。
筒井康隆に『ジャズ大名』という映画化もされた中編の作品はありますが(新潮文庫『エロチック街道』所収)、かなり昔に読んだもので内容はほとんど覚えていません。また風野真知雄には『大名やくざ』という作品があるそうですが私は未読です。
ともあれ、本シリーズは弱小大名が自分の藩の、借金や自然災害などの様々な危機を知恵と人々の助けを借りて乗り越えていく様を描いています。
例えば、第一巻では氾濫の危機にあった利根川の堤防を強化するための杭二千本を手当てするための財源確保をいかにするかが描かれています。
このような一個の藩の経済的な基盤など、普通の痛快時代小説では描かれることのない新たな視点を提供してくれているのです。私がこれまで読んだ時代小説ではあまりない視点でした。
ただ、青山文平の『鬼はもとより』などは経済の面から見た時代小説でありましたし、辻堂魁の『風の市兵衛シリーズ』は渡り用人を主人公とする経済的視点を加味した痛快時代小説でした。
ただ、まだシリーズの初めの数巻を読んだだけですのではっきりとは言えないのですが、先に挙げた例えば辻堂魁の作品などと比べると、本『おれは一万石シリーズ』はあまり情感を感じさせません。
また文章も決して美しいとは言えません。
作家の特徴かもしれませんが、少なくとも本『おれは一万石シリーズ』は単純にストーリーを楽しむエンターテイメント小説というべきだと思います。
その点では私の好みとは少しずれたところのあるシリーズでした。
しかしながら、素直にストーリーを楽しみながら気楽に読むには最適かもしれません。