廻船問屋戸川屋から借金百二十七両の返済を求める書状が届いた。戸川屋のひとり娘は、元国家老園田頼母の妻女だ。頼母は正紀暗殺を企てたとして腹をつめている。復讐のにおいがするが、新江戸家老佐名木源三郎の調べでは、借金は高岡藩としてなした正式なものであるという。進退窮まった正紀は、ついに商人に屈してしまうのか!?待望のシリーズ第三弾!(「BOOK」データベースより)
『おれは一万石シリーズ』の第三弾の長編痛快時代小説です。
前巻では、ここ数年の凶作で財政難に陥った高岡藩の新たな収入源として高岡河岸に新たな船着き場や納屋を設けることに成功した正紀らの活躍が描かれていました。
ところが、ここにきて高岡河岸の事実上の支配者である廻船問屋戸川屋から貸金の返済を求める書状が届くのでした。というのも、戸川屋の一人娘は前巻での騒動の責めを負い腹を切った元国家老園田頼母の妻女だったのです。
一方、高積見廻り与力の山野辺蔵之介は築地の河岸近くで上がった船頭の斬殺死体の件を扱うことになり、下り塩仲買問屋の大松屋から、播磨龍野の極上の下り醤油が奪われたことを聞き込み、商売敵の津久井屋の名を聞き出します。
また、正紀が借金の相談に龍野藩脇坂家の安董(やすただ)のもとへ行くと大松屋の醤油が奪われ、藩としても困っているため、期日までに取り戻してくれたなら、あらたに取り寄せた分を半額で譲ろうと言われるのでした。
こうして、また正紀の藩の財政にからんだ新たな金策に振り回される正紀の姿が描かれることになります。
今回は、山野辺の抱える事件と正紀の金策とをうまいことリンクさせ、正紀の行動と山野辺の行動の意味とを一致させることで、二人の行動を自然なものにしています。
そうした中、正紀の新妻京の行い、言葉を今回も上手くくみ取ることができずに、京を怒らせてしまう正紀の姿があります。
前回は下総の塩の流れを描写してありましたが、今回は前回でも少しだけ語られていた醤油に焦点が当たります。
「当時、清酒やしょうゆ、塩から雪駄に至るまで、上方のすぐれた産物が江戸に送られてい
」て、「下り酒」や「下りしょうゆ」などと呼ばれて珍重されていたそうです。
その後、下総の野田と銚子とを中心として醤油作りが盛んとなり、「地回り醤油」が上方からの「下り醤油」にとって代わるようになりました( 以上 キッコーマン ホームページ : 参照 )。
このように下総の醤油を取り上げた小説は記憶にありません。
ただ、これまでも取り上げてきた辻堂魁の『風の市兵衛シリーズ』の中の『遠き潮騒』が、銚子を主な舞台としており、港町として上方からの酒や塩、そして醤油を取り扱う問屋がありこと、また地回りの醤油のことなども描かれていました。
本書では、山野辺が担当することになった事件と正紀の緊急性のある借金返済のための金策とをうまく関連付け、二人での事件探索の様子が描かれることになります。
加えて、下り醤油である「龍野醤油」の特徴の風味は劣らないままの淡い色をした醤油という特徴をうまく生かした物語の運びを考えてあります。
まだ三巻しか読んではいませんが、それなりの興味を引く物語展開になっていて、今後も読み続けていこうと思っています。