深緑 野分

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東京創元社

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一晩で忽然と消えた600箱の粉末卵の謎、不要となったパラシュートをかき集める兵士の目的、聖夜の雪原をさまよう幽霊兵士の正体…誇り高き料理人だった祖母の影響で、コック兵となった19歳のティム。彼がかけがえのない仲間とともに過ごす、戦いと調理と謎解きの日々を連作形式で描く。第7回ミステリーズ!新人賞佳作入選作を収録した『オーブランの少女』で読書人を驚嘆させた実力派が放つ、渾身の初長編。(「BOOK」データベースより)

スピルバーグが制作した『プライベート・ライアン』や『バンド・オブ・ブラザース』を見て、戦争の後方支援に興味を持ち、「コック兵って他人の命を預かりながら、同時に自分でも銃をとって闘い、二倍大変なんですよ。」と言い、「戦場の中の“ここ”を書きたい」と思ったという作者です。

しかしながら、それが何故ヨーロッパ戦線なのかという疑問が常に付きまといました。コック兵であるならば、日本兵ではいけなかったのだろうか、何故日本人である作者がアメリカの若者を描く必要があったのか、ということです。

その点を除けば、この作者の想像力、そして創造力には正直脱帽します。本書の終わりに掲げられている膨大な資料を見ても、何よりも本文を読んでみてもその努力の跡がうかがえます。

第二次世界大戦でのノルマンディー上陸作戦に参加した十九歳のアメリカ兵のティムは、戦場で一晩で忽然と消えた600箱の粉末卵や、不要となったパラシュートをかき集める兵士、オランダで接収した民家での職人夫婦の死、雪原で聞こえてきた幽霊の音などの謎を探偵役のエドの力を借りて解き明かします。

(戦争という非日常の中の)日常に潜む謎を解き明かすと言えば、近頃読んだ作品であるためか 長岡弘樹の物語を思い浮かべます。『教場』にしても、日本推理作家協会賞短編部門賞をとった『傍聞き』にしても、前提となる殺人事件などの大きな事件ではない、日常に潜む細かな謎を、緻密に張り巡らされた伏線を順次回収しながら解き明かすという、小気味いい物語でした。

また、 米澤穂信の『真実の10メートル手前』にしてもこの系統に属すると言ってもいいのではないでしょうか。この作品は直木賞候補にもなった作品で、太刀洗万智という女性フリージャーナリストの、誰も気にしない「一言」から、その裏にある意味を探りながら真実にたどり着くという、ミステリーです。

本書をミステリーとしておすすめかと言えば、首をひねります。どうしても謎が戦場で考慮すべきもなのかなどと思ってしまい、物語を平板に感じてしまうのです。

ただ、ここまで書いてきて言うのも変ですが、全体として第二次世界大戦の欧州戦線下での若者を描いた物語としてみると読み甲斐のある物語だった、とも思います。戦争ものの常としての翌日にはいなくなる戦友たちとの交流や、エピローグでのひとくだりなど、一つの青春小説としても読ませる物語だと思います。

[投稿日]2016年12月21日  [最終更新日]2016年12月21日
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深緑野分先生『戦場のコックたち』著者コメント - YouTube
深緑野分先生『戦場のコックたち』著者コメント
【今週はこれを読め! ミステリー編】戦場で「日常の謎」に挑むコックたち
深緑野分『戦場のコックたち』(東京創元社)は、著者初めての長篇作品であり、若き兵士の視点から第二次世界大戦の日々を綴った戦争小説である。本篇は5章に分かれており、随所にミステリー的な謎が仕掛けてあるという趣向だ。
僕らの武器は銃とフライパン。『戦場のコックたち』深緑野分
本書では、タイトル通りの料理と戦争という要素だけでなく、戦場という特殊状況下での〈日常の謎〉が大きな核をなしています。

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