田牧 大和

とんずら屋シリーズ

イラスト1
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十八歳になる弥生は、「弥吉」を名乗り、男姿で船頭として働くいっぽう、夜は裏稼業の逃がし屋、「とんずら」にも余念がない。情に脆く、「とんずら屋」の客にすぐに同情してしまい、女将のお昌とぶつかることもしばしばだ。東慶寺で生まれ、出生の秘密を持つ弥生を取りまくのは、松波屋に拾われた啓次郎、身分を隠し松波屋に逗留する進右衛門など、彼女を助太刀する男性陣。今日も依頼が舞い込んで―。シリーズ第1弾!(「BOOK」データベースより)

 

夜逃げ屋を主人公とする「とんずら屋シリーズ」の第一弾である長編の痛快人情時代小説です。

 

著者である田牧大和の作品『からくりシリーズ』とはまた異なった、独特の雰囲気を持ったシリーズです。『からくりシリーズ』は私の好みに一致したので、本書『とんずら屋請負帖』にも期待を持っていたのですが、期待以上に面白い作品でした。

「とんずら」の依頼毎の連作作品ではあります、実質は全体で一つの長編作品です。

 

自らも「逃げ」た過去を持つ弥生は、女船頭では吉原への行き来も多い船宿として都合が悪く、また船頭の世界でもやっかみや憎しみの対象にしかならないため、普段は船宿「松波屋」で船頭の「弥吉」という男として生きていた。

もっとも、男として生きる一番の理由は、来栖家当主の血を引きながら鎌倉の東慶寺でひっそりと生を受けたという弥生の過去にあったのだった。

 

以前中村雅俊を主人公とする『夜逃げ屋本舗』というテレビドラマ、映画がヒットしたことがあります。「夜逃げ」という極限状況に陥らざるを得なかった様々な人間ドラマを描いていて、面白い作品でした。

 

 

本シリーズも「夜逃げ」という状況下のドラマを描くことに変わりはありませんが、主眼は「とんずら」自体ではなく弥生自身にあります。つまり、各話で語られる「とんずら」の物語にかかわる弥生の行動を通して、少しづつ弥生の過去が明らかになっていくのです。

勿論、各話で語られる「とんずら」の話も人情物語でもあって面白い話です。そういう意味では、各話の「とんずら」の話と、次第に明らかになって行く弥生自身の物語の二重構造の面白さがあります。

 

登場人物の設定が良くできています。

船宿「松波屋」の女将お昌(おまさ)は「剛毅で強欲」な女傑であって、弥生の叔母でもあります。また、啓次郎(けいじろう)は『「とんずら屋」に助けを求めようとした矢先に一家皆殺しに遭った生き残りの子』であり、お昌自身が厳しく仕込んだ「裏稼業の跡継ぎ」です。

それに「陸(おか)」の「とんずら」を受け持つ韋駄天の源次(げんじ)がいます。これらの人間が良く書き込まれていて、物語に深みを与えています。

それともう一人、京でで評判の呉服問屋『吉野屋』の跡継ぎの進右衛門(しんえもん)がいます。「松波屋」に長逗留している若旦那、という触れ込みです。

 

個人的な好みから言えば、もう少し情緒面を抑えてあればなお良かったでしょう。特に弥生の内面をこれでもかと描いてるのが、少しだけ感傷的に過ぎないか、と読みながら思ったのです。

そう言いながらも、かなりのめり込み、一気に読んでしまいました。

[投稿日]2015年04月14日  [最終更新日]2018年12月19日
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