『ただいま神様当番』とは
本書『ただいま神様当番』は、2020年7月に刊行されて2022年5月に田中達也氏との対談も含めて336頁で文庫化された、長編のファンタジー小説です。
これまで読んだ青山美智子作品と同様に、とても心温まる平和な読書の時間を持てた作品でした。
『ただいま神様当番』の簡単なあらすじ
ある朝目を覚ますと、腕に大きく「神様当番」という文字が!突然現れた神様のお願いを叶えないと、その文字は消えないようで…?幸せの順番待ちに疲れたOL、弟にうんざりしている小学生の女の子、リア充と思われたい男子高校生、乱れた日本語に悩まされる外国人教師、部下が気に入らないワンマン社長。ムフフと笑ってほろりと泣ける、5つのあたたかい物語。(「BOOK」データベースより)
あるバス停に通勤、通学のために毎朝並ぶ五人が、そのバス停でOLは好きなCDを、また小学生は腕時計をと、手に入れたいと思っている何かをそれぞれに拾い、そのまま自分のものにしてしまう。
ところが、翌朝になり気がつくと自分の腕にくっきりと「神様当番」という文字が浮かび上がっていた。
その上、突然現れたお爺さんが、わしは神様であり、わしのお願い事を聞いてもらえないとその文字は消えないといって自分の腕の中に入ってしまう。
さらには、自分の意思に関係なく腕が動き始めることもあり、その結果いつもの自分では決して遭遇することなどないであろう事態に直面してしまうのだった。
『ただいま神様当番』の感想
本書『ただいま神様当番』は、作者の青山美智子の前作である『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』が非常に読みやすく、心に沁みる物語であったため、この作者の他の作品も読んでみたいと思い、手に取った作品です。
その結果は私の思った通りの物語であって、ゆっくりとした平和な読書の時間を持てた作品でした。
本書『ただいま神様当番』について読み始めてしばらくは、ゆるいファンタジーである本書は何とも平和でのんびりした作品だと思っていました。
どうにもまわりの人たちと会話ができなかったり、物事が思い通りにいかなかったりと、何かにつけうまくいかないことが多い登場人物が、神様の一押しで人生が好転するという話です。そういう話だと思っていました。
最初の一人のOLの話にしても、彼女の前に現れた神様から自分自身の嫌なところを取り上げて見せつけられたことで自分の間違いに気付くという流れであり、そんな単純な物語だとおもっていました。
しかしそうではなく、その後の話の流れは、主人公が神様のちょっとしたあと押しこそありますが、そのあと押しで自分自身での一歩の踏み出しが可能になり、世界が広がって行くのです。
登場人物の一人が「理想から外れていることをただ嘆くなんて」と独白しているように、自分の思い込みで自分の世界を狭めていることなど、個人の苦悩は心の持ちようで解消することも少なからずあります。
本書『ただいま神様当番』が素晴らしいと思うのは、本人の思い込みによる考え違いを他人から指摘してもらうのではなく、普通の何気ない会話の中で本人が気付くことです。
自らがその点に気付くことが本人にとっても救いになるのではないでしょうか。
自分が当初はそうであったように、本書のような優しさに満ちた物語を、単純にきれいごとに過ぎると斬り捨ててしまうのは簡単です。
しかし本書においては、普通の人の日常の暮らしの中で気付くことの大切さが語られているようです。
普通の会話の中に自分の卑屈さや、嫌なところを教えてくれるヒントは転がっているものだし、それを単純に見つけることができずにいるだけだと、それ以上に思い知ることを拒否しているのだと教えてくれているようです。
でも、この作者の作品はそうした理屈を考えずに、ただ物語世界にひたってただ楽しめばいいと思われます。
本書『ただいま神様当番』はそれだけの楽しさ、面白さを持った作品だと思います。