『あきない世傳 金と銀(五) 転流篇』とは
本書『あきない世傳 金と銀(五) 転流篇』は『あきない世傳 金と銀シリーズ』の第五弾で、2018年2月に角川春樹事務所から309頁の文庫書き下ろしで出版された長編の時代小説です。
呉服商の「五鈴屋」に奉公に出て、思いもかけず五鈴屋の三兄弟に嫁ぐこととなった幸ですが、商いも順調ななか江戸への出店を考えることになります。
『あきない世傳 金と銀(五) 転流篇』の簡単なあらすじ
大坂天満の呉服商、五鈴屋の六代目店主の女房となった主人公、幸。三兄弟に嫁す、という数奇な運命を受け容れた彼女に、お家さんの富久は五鈴屋の将来を託して息を引き取った。「女名前禁止」の掟のある大坂で、幸は、夫・智蔵の理解のもと、奉公人らと心をひとつにして商いを広げていく。だが、そんな幸たちの前に新たな試練が待ち受けていた。果たして幸は、そして五鈴屋は、あきない戦国時代を勝ち進んでいくことができるのか。話題沸騰の大人気シリーズ待望の第五弾!(「BOOK」データベースより)
『あきない世傳 金と銀(五) 転流篇』の感想
本書『あきない世傳金と銀(五) 転流篇』は『あきない世傳 金と銀シリーズ』の第五弾です。
五鈴屋の商いは順調ですが、お家さんが亡くなるなど幸の存在は一段と大きいものになっていきます。
天満組呉服仲間の寄合で、五鈴屋が桔梗屋を買い上げることが正式に認められ、結果として真澄屋の買取の話も退けることができた五鈴屋であり、店も一気に大きくなりました。
そこで、幸も江戸への出店を具体的に考え始めます。
しかし、その年の霜月(旧暦11月)には、幸の母親の房が逝ってしまい、妹の結も幸らと住むことになります。何とか店の女衆とも馴染み、明るく暮らしていく結でした。
そんなとき、幸の妊娠が判明し、喜びに沸く五鈴屋だったのです。
いつものように、本書『あきない世傳金と銀(五) 転流篇』でも相変わらず幸を難題が追いかけてきます。
そんな中でも「買うての幸い、売っての幸せ。」という信条を胸に商売に精を出す幸の姿があります。
あらためて考えると、常に厄介な状況の中にいる幸の姿は、読者にとっても息を抜く暇もなく疲れるのではないかという、要らぬ心配をしかねないほどです。
しかし、それをあまり感じさせないのが作者の力量でしょう。
たまには幸にも明るい話題をという意図があったかはわかりませんが、智蔵との夫婦生活は幸せな毎日です。幸の才能を十分に発揮できるようにとの智蔵の配慮は当を得ていたようです。
そんな中、幸の妊娠が判明し、一段と幸福感が増す五鈴屋でした。
しかしながら、そうした幸せが続かないのがこの手の物語の通例であり、本書のその例に漏れません。
反動ともいうべき事柄が次々に幸を襲います。
そうした幸を襲う様々な困難とは別に、五鈴屋の商売もそれなりのアイデアを出して発展させなければなりません。
そのアイデアはもちろん現実的なものでなければならず、本書で提示される商売上の工夫は過去の現実の流行などを調べたであろう作者の苦労がしのばれる点でもあります。
本書『あきない世傳金と銀(五) 転流篇』の最後では、今後話がどのように広がるものか分からなくなるほどに大きな展開が幸を待っています。
あらためて続巻の発売を心待ちにさせるのです。