川から引き上げられた錠前師八十吉の指無し死体。その下手人を追う定廻り同心樺山富士太郎は、錠前屋の高久屋岡右衛門に目星をつけるが、なかなかその証拠を掴めずにいた。一方、そんな窮状を見かねた湯瀬直之進は、探索の手助けを始めた矢先、かつて掏摸に遭ったところを助けた薬種問屋古笹屋民之助と再会、用心棒仕事を頼まれるが…。人気書き下ろし長編時代小説、シリーズ第二十九弾。(「BOOK」データベースより)
湯瀬直之進が掏摸をつかまえ引き渡したところ、何故かその意趣返しを受けてしまいます。一方、錠前師の八十吉殺しの犯人を錠前屋の高久屋岡右衛門との目星はつけたものの、なかなかその尻尾を掴めないでいた樺山富士太郎だったのですが、見かねて手助けをしようと申し出た湯瀬直之進の探索も錠前屋の高久屋岡右衛門へと行きつくのでした。
実は前巻を読んだ後、本書を読むまでの間に殆ど二年以上という間をあけてしまっていました。シリーズものを読むのにこれほど間をあけてしまっては、内容を忘れているので困ってしまいました。
久しぶりに鈴木英治作品を読んだことになりますが、この人の独特の文体はやはり何となくほっとするものがあります。登場人物の心裡や、ときには物語の進行までをも登場人物の独白で処理してしまうことについては、人によっては嫌う人もいるかと思います。
でも私には心地よく、その視点の移動すらも気にならないのです。それどころか、物語に奥行きすら感じたりするのですから、不思議なものです。好みの作家故の贔屓目なのでしょうか。
本シリーズでは他の作家の作品に比べ、女性が表だって活躍する場面は少ないと思います。代わりに、といては語弊があるかもしれませんが、直之進、佐之助、琢ノ介、それに富士太郎と珠吉といった登場人物のそれぞれに、おきく、千勢、智代らの女性たちが色を添えており、華やかさを増しています。
勿論、直之進や富士太郎らの探索が実を結び、最後には直之進や佐之助らによる剣戟の場面も設けてあり、読者へのサービスは怠りありません。
シリーズとしてのダイナミックさは感じられなくはなってきていますが、今後も読み続けたいと思うシリーズです。