本『高校事変シリーズ』シリーズは、優莉結衣(ゆうりゆい)という名の女子高校生を主人公とする、荒唐無稽な、しかし面白い長編のアクション小説シリーズです。
すなわち、一人の少女が明晰な頭脳、そして驚異的な身体能力を武器に半グレ集団や暴力団などを相手に戦うエンターテイメントに徹したシリーズです。
本『高校事変シリーズ』の主人公は、優莉結衣(ゆうりゆい)という名の高校二年生です。
彼女の父親は「平成最悪のモンスター」と呼ばれ、七つの半グレ集団を率い、強盗や詐欺などの犯罪行為の末に銀座のデパートでサリンを散布し犠牲者を多数出すまでに至った平成を震撼させたテロリストである優莉匡太(ゆうり・きょうた)という男です。
この父親は平成最後の年に幹部たちとともに死刑が執行されていて、すでにこの世にはいません。
主人公の優莉結衣(ゆうりゆい)は、この父親の次女であって、母親の違う兄弟姉妹と共に殺人に役立つ知識や技術を徹底して仕込まれ育っています。
ここで、本シリーズの流れに関係してきますので、高校事変第九巻までに判明している兄弟姉妹の名前を挙げておきます。
中でも結衣はその身体能力もさることながら、知能の面でも優れており、身近にあるものを即興の武器として危地を脱する能力が高い点も特徴の一つでしょう。
ペットボトル火炎瓶や輪ゴムを使った簡易弓など、各巻でその知識の一端を見せながら、戦いに臨んだり、窮地を脱したりします。
本『高校事変シリーズ』では、彼女がこのような能力を持つに至った理由、その身体能力を生かして人を殺すことをためらわなくなった理由など、それ自体で一編の物語ができるような理由付けをしてあります。
ただ、生まれ落ちたときから人殺しを何とも思わない半グレ集団の中で育ったわりには、人間性を失ったというわけではなく、同級生などに助けを求められると救いの手を差し伸べたりもしています。
こうした人間性ゆえに人気シリーズとしてベストセラー作品にもなっているのでしょう。
結衣は、その狂暴な父親を持つ子という理由で受け入れてくれる学校も無いなか、何とか小学校は愛知県の公立小学校を卒業し、静岡の施設に移り静岡市内の中学校を卒業します。
さらに栃木県宇都宮市の高校に入学しますが、同学年の男子生徒三人に怪我を負わせ、不起訴となるものの退学となり、二年生となっている第一巻では神奈川県立武蔵小杉高校へと通学しているのです。
このあと、結衣は葛飾東高や清墨学園、芳窪高校、泉が丘高校など、住まいが変わるにつれ高校を転々とすることになります。
テロリストの子供として各学校でいじめの対象にされてきた結衣ですが、本シリーズ第一巻では友人ができます。
それが、神奈川県立武蔵小杉高校二年C組の濱林澪であり、この美緒はクラス担任だった敷島和美などと共にシリーズの随所で顔を出すことになります。
当初は自分個人が生き残ることしか見えていなかった結衣が、澪やそのほかの生徒を助けるために行動する様子などが描写されています。
そうして、少しずつではありますが、他者に対して心を開いていくようになる様子を細かに描き出しているところも、本『高校事変シリーズ』の魅力の一つになっていると思われます。
この『高校事変シリーズ』では、当初は見えていなった結衣の敵ともいうべき存在がいます。
第一巻では単にいち政治家の暴発と思われていたテロ行為が実はそうではないことが明らかにされ、シリーズを重ねるにつれより巨大な敵が顔を見せてきます。
そもそも最初からそういう予定だったのか、シリーズの途中でそのような設定を設けたのかは不明です。
この点は、二月に一度という本シリーズの驚異的な刊行スピードをみると、当初から設定されていたとみる方が妥当だと思われます。
第九巻まで刊行されている現時点では武蔵小杉高校から始まった戦いに、一応の区切りがつき、更なる強敵が出現するようです。
もしかしたら、この新たな敵もまた、倒したと思った敵に連なるものかもしれませんが、それは続刊の楽しみというところです。
本書のような荒唐無稽なアクション小説と言えば、いつも月村了衛の『槐(エンジュ)』や大沢在昌の『天使の牙シリーズ』などを紹介していましたが、これからは本シリーズも加えることができそうです。
また、本シリーズは、オオイシヒロト氏の画でコミック化もされているそうです。