本書『高校事変Ⅱ』は、文庫本で384頁の『高校事変シリーズ』第二巻の長編アクション小説です。
驚異的な身体能力を持った女子高校生を主人公とする物語であり、アクションエンターテイメント小説としてかなり面白く読んだ作品です。
『高校事変Ⅱ』の簡単なあらすじ
世間を震撼させた「武蔵小杉高校事変」から2か月―平成最悪のテロリストの次女・優莉結衣は新たな場所で高校生活を送っていた。そんな中、結衣と同じ養護施設に暮らす奈々未が行方不明に。さらに、多数の女子高生が失踪していたことも判明する。結衣は奈々未の妹に懇願され調査に乗り出すが、JKビジネスや“特権階級”の存在など、日本社会の「闇」の数々が浮かび上がってくる。問題作ダークヒロインシリーズ第2弾!(「BOOK」データベースより)
本書『高校事変Ⅱ』での優莉結衣は、前巻『高校事変』での武蔵小杉高校での戦いの後、とある養護施設で暮らしており、高校は葛飾東高校へと通っています。
その養護施設にいた葛飾東高校三年の嘉島奈々未は、この養護施設の費用を払うために風俗店で働いていましたが、ある厄介な客に拉致されてしまいます。
同じ施設に住んでいた嘉島奈々未の妹で中学一年生の理恵は、結衣に奈々未を探してくれるように頼むのです。
結衣は少しの手掛かりを頼りに、奈々未がJK専門のデリヘルでアルバイトをしていた事実にたどり着き、そのデリヘルの元締めの城山譲二から、タカダという客が奈々未の最後の客だったことを知ります。
警察へそのことを通報すると、警察はタカダという客が実は辻舘鎚狩(つじたててがり)という男であることをつきとめますが、そのことを察知した鎚狩は奈々未を連れて逃亡してしまいます。
一方理恵は、姉を探すために城山のもとを訪れますが、その城山は暴力団から依頼のあったパーティーに理恵を送り込んで客の餌にしようと企むのでした。
『高校事変Ⅱ』の感想
本書『高校事変Ⅱ』では、時代性を反映した事柄として、まず女子高校生を食い物にしているデリバリーヘルスを取り上げています。
同時に、高齢者が暴走し通行人を跳ね飛ばし、結果として母子を轢き殺しでしまったにもかかわらず逮捕されなかったため、上級国民として話題になったいわゆる池袋暴走事件も取り上げてあります。
ただ、こちらの方は、交通事故という事実だけを借り、その背後に全くのフィクションとして主人公が戦いを挑むべき設定を設けてあります。
そして、これら二つの事柄を軸とした構成を持った緻密な描写が為された作品として仕上げられていることが本書『高校事変Ⅱ』という作品にリアリティーを与え、読者の感情移入がしやすくなっているのではないでしょうか。
もちろん、この手の人によってはグロテスクに過ぎると敬遠しそうなバイオレンス場面もあります。
しかし、そうした場面でさえもその過程を丁寧に描いてあり、もともとこの手の作品が苦手な人は別として物語の世界に入りやすいと思われるのです。
また、主人公の優莉結衣(ゆうりゆい)が常人とは異なるずば抜けた身体能力と、そうした身体能力とを備えるに至った理由とを明確に描いてあり、読者が納得するようにしてあります。
そしてその主人公が世の悪を懲らしめる、ダークヒーローとして痛快に活躍するのです。
本書『高校事変Ⅱ』の主人公がもともとは感情が欠落したクールな人物として登場し、実際、大人たちとの会話でもそのような行動しかとっていません。
しかし、本書の中心人物となる嘉島奈々未やその妹の理恵に対しては若干様相を違えています。この嘉島姉妹を積極的に助けようとします。
その理由について、解説の書評家タカザワケンジ氏は、一つには同じ女性としての同情と怒りがあったからであり、もう一つは結衣自身の暴力衝動を欲求を満たすためだと言います。
こうした、読者も納得できるそれなりの理由を引っ提げて彼女は胸のすくアクションを見せてくれるのです。