『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』は、『付添い屋六平太シリーズ』第十四弾となる文庫本で290頁の連作短編小説集です。
変わらずに小気味の良いタッチで物語が進む、とても読みやすい人情物語です。
『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』の簡単なあらすじ
四谷相良道場の高弟でもある秋月六平太は、道場主の相良庄三郎から森掛藩下屋敷にある立身流兵法『練志館』への代稽古を頼まれた。森掛藩邸にはもう一つ一刀流の道場『興武館』も存在する。これまで親交のなかった両者による初の立ち合いが六平太の面前で行われた。一方、口入れ屋『もみじ庵』に新しい付添い屋、平尾伝八が雇われた。六平太は見習いとして平尾を付添いに同行させるが、根暗な性格は娘達の反感を買ってしまう。そんな中、瑞聖寺裏の田圃から、先の立ち合いで勝利した『練志館』田中祥五郎の惨殺死体が発見された。日本一の王道時代劇最新作!「BOOK」データベースより)
第一話 剣友
相良道場の主・相良庄三郎に立身流『練志館』の代稽古を頼まれる。そこには同門であり、かつて共に稽古に励んだ勘定方・田中祥五郎の姿があった。三年ぶりの再会を喜ぶ六平太に、稽古の見学をしたいという申し出が入る。森掛藩もう一つの流派、一刀流『興武館』の者達だった。
第二話 いかず連
『もみじ庵』に平尾伝八という男が付き添い屋として雇われる。六平太は平尾を見習いとして付添いに同行させるよう頼まれるが、気が進まない。その六平太の元に瑞聖寺裏の田圃で侍の惨殺死体が見つかったと知らせが入る。
第三話 祟られ女
六平太は、山之宿町の灸師・お浪から付添いの依頼を受ける。自分の告げ口によって賭場で捕まった亭主、又次郎が近々赦免される。赦免後の又次郎の様子を二、三日見てほしいというのであった。
第四話 放生の夜
六平太は、与之吉という男から自分を見張ってほしいと頼まれる。十五年奉公した糸問屋『桐生屋』の女将、お須美と駆け落ちしてきたのだが、働き口もなく怒鳴られる日々。いつかお須美を手に掛けそうな自分が恐ろしいというのであった。( Amazon「内容紹介」より)
『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』の感想
今回の物語『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』でも、各々の話での個別のエピソードと、巻を通してのエピソードがあります。
巻を通しての話として、一つは、六平太が行った代稽古の話です。
師匠である相良庄三郎の代理で森掛藩下屋敷の道場「練志館」へ行き、そこで行われた森掛藩の武芸係である陣馬重三郎の許可のもと、森掛藩の別流派「興武館」道場の門人の一部との交流試合が行われました。
そこで負けた「興武館」の門人が「練志館」へ意趣返しを仕掛けてきて、「練志館」の門人である田中祥五郎が後に惨殺死体となって発見されたのです。
そしてもう一つの出来事が、木場の「飛騨屋」の娘登世の「いかず連」の話です。森掛藩の問題がシリアスな悩みだとすれば、登世の問題はユーモラスな困りごとと言えます。
更に、口入屋の「もみじ庵」に付添人の新人が現れたということがあります。名を平尾伝八といい、付き添いの見習いとして翌日の付き添いに連れていくと、絡んできた酔っ払いをいなすこともできず、抜いた刀は竹光だったのです。
前巻の『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』の項で、本シリーズには変化がない、と書きましたが、その点では本書でも同様です。
しかしながら、物語に大きな変化のないことは、それはそれで六平太の日常の書き込みが為されており、それはそれで悪くはないのではないかと、私の方に心境の変化がありました。
何故にそのように考えるようになったのかはよく分かりません。単にその時の私の体調のためなのかも知れません。
もしかしたら、この頃読んでいた小説が、かなり暴力的でシリアスな作品が続いていたので、肩の凝らない、本書のような作品が息抜きになると思ったのかもしれません。
ともあれ本『付添い屋・六平太シリーズ』は、六平太を取り巻く人情模様を描き出す物語であり、特別な敵役など必要ではないのだ、ということを再認識する必要があるようです。
とはいえ、そうした目線で見るまでもなく、本書『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』では六平太の日常がそのまま描かれています。
その中に亭主の悪事を通報したために島送りになった亭主が突然島から帰ってくることになり、亭主の報復を恐れる女や、なじみの「飛騨屋」の娘登世が作った「いかず連」の話などがあります。
「行かず連」の話などはこのシリーズを通して語られている出来事であり、いかにもユーモラスな場面として本シリーズに彩を添えています。
また、本書『付添い屋・六平太 猫又の巻 祟られ女』から、新人の付き添い屋である平尾伝八という人物が登場しています。剣の腕は今一つのような描き方をしてありますが、実際はどうなのか。
多分、今後も登場してくるであろう人物ですが、六平太の頭痛のタネになりそうな人物ではあります。
また、毎回用意してある六平太の剣劇の場面が、本巻だけのことかもしれませんが、いつもとは異なる描き方をしてあります。
こうした処理の仕方もなかなかにいいものだと感じました。
ともあれ、人情小説としての楽しみに満ちたシリーズとして安定した面白味を維持していってもらいたいものです。