橋の下で見つかった男の屍体の中から瑠璃が見つかった。探索を始めた定町廻り同心の木暮信次郎は、小間物問屋の遠野屋清之介が何かを握っているとにらむ。そして、清之介は自らの過去と向き合うため、岡っ引きの伊佐治と遠き西の生国へ。そこで彼らを待っていたものは…。著者がシリーズ史上ないほど壮大なスケールで描く「生と死」。超絶の「弥勒」シリーズ第四弾。(「BOOK」データベースより)
「弥勒」シリーズ第四弾になる長編小説です。
シリーズ第二作『夜叉桜』、そして前作『木練柿』と、少しずつ清之介の過去が明らかにされてきていたのですが、ついに本書では清之介は自らの過去へと向き合うために生国へと旅立つことになり、一段と深く清之介の過去と向き合うことになります。
ある男の死体から見つかった瑠璃が、清之介の乳母のおふじから清之介の故郷の藩の権力闘争に、そして清之介の兄へと連なる様相を見せてきたところから、清之介は自らの生国へと旅立つ決意をします。この旅の決意の陰には伊佐治の言葉があったからなのか、清之介は岡っ引きの伊佐治のこの旅への同行も嫌がりません。
清之介の旅の結末には何が待ち受けているのか全く分かりません。分からないというよりは、陰惨な過去が明らかになり、更なる闇を抱えることになりかねない旅ではあるのです。しかし、清之介が一歩を踏み出そうとするそのことは、未来に明るさを感じる一助でもあります。
今回は木暮信次郎の活躍する場面はほとんどありません。それでも、この物語には木暮信次郎の存在がはっきりと感じられます。それはとりもなおさず、作者の人物造形がうまくいっているからに他ならないと思われます。
信次郎と伊佐治、そして清之介という三人の物語は更に深みを増し、目を離せなくなっているようです。