介錯人

不浄な「首斬人」と蔑まれる生業を継いだ別所龍玄。父に代わって首打役の手代わりを始めたのは十八の春であった。親子三代の中で一番の腕利きとなった彼の元には、外には出せないお家の事情を抱える武家から、武士が屠腹するときの介添役を依頼されるようになる。凄惨な生業の傍ら、湯島無縁坂での穏やかな家族との日々。凛として命と向き合う、若き凄腕介錯人の矜持。(「BOOK」データベースより)

 

首切りをその業とする一人の若き天才を描いた、四編からなる連作の短編時代小説集です。

 

 
切腹
岩本錬三郎が旧主に新田開発について中止の上申書を提出したところ、無礼な振る舞いだとして領内からも追放され、江戸の知己を頼りもはや十年になる。しかし、岩本を信奉し教えを請いに来るものも多く、坂上家は岩本の影響力を恐れてか切腹を命じてきたのだった。

密夫(まおとこ)の首
北町奉行所平同心の本条の付き添いを受け、龍玄は北町奉行から尾張家松姫のお輿入れお道具の小さ刀のお試し御用を申し付かった。その日、新たに設けられた仕置き場には二十三歳になる小伝馬町の畳職人の明次が死罪のお裁きが下されていた。

捨子貰い
龍玄は、打ち首になった幼馴染みの倉太郎からの、豊島郡の十五郎から妹のお陸とその乳飲み子の駒吉を救い出してほしい、との伝言を受けた。幼いころの龍玄と倉太郎との約束を守ってほしいというのだった。

蔵の中
寛政元年師走大晦日、名門の旗本朝比山家の百助が亡くなった。朝比山万之助は、最初に訪れた植村隼人という縁者、百助の湯かんをしている朝比山家の家老松田常右衛門らを斬り、そこに現れた祖母の永寿院に対し、自分は別所龍玄の介錯しか受けぬと言い放つのだった。
 

「首斬人」と言えば、まずは山田浅右衛門の名が浮かびます。「首切り浅右衛門」などとも呼ばれていました。

私が「首切り浅(朝)右衛門」に接したのは漫画が最初でした。小池一夫原作、小島剛石画の『首切り朝』というコミックがそれです。このコンビの漫画はほかにもいろいろと読みました。高名なところでは『子連れ狼』があり、山田浅右衛門はこの作品にも登場していたと思います。

 

 

小説でも鳥羽亮『絆 山田浅右衛門斬日譚』など多くの作品があります。私もかつて山田浅右衛門を描いた作品を読んだ記憶はあるのですが、残念ながら作者、タイトル共に覚えていません。

 

 

山田浅右衛門と言っても、その名は代々受け継がれていたようで、先に述べた小島剛石画の『首切り朝』は三代目吉継が描かれており、鳥羽亮『絆 山田浅右衛門斬日譚』は七代目吉利を主人公としているようです。

 

そして、本書辻堂魁著の『介錯人』です。本書の主人公別所龍玄も山田浅右衛門と同様に、罪人の首打ちと首を討たれた罪人の死体を使った試し斬りを行い刀剣の鑑定などを行い、収入源としていたとあります。つまりは山田浅右衛門の存在と似た存在です。

しかしながら、共に浪人ではあっても山田浅右衛門は将軍家御腰物御試しという御用があり、一方別所家は牢屋敷の首打人でした。

ただ、龍玄の父勝吉は介錯の経験はないものの、介錯の経験がある祖父の別所弥五郎を侍として誇らしく思っており、自らがさる譜代大名家からの殿様の差料の試し斬りと鑑定の依頼を承ってからは「介錯人・別所一門」を称し始めます。

つまりは、罪人の首切り人はあくまで不浄の御用、職務ですが、武士の切腹の場での介錯は、侍の死に際しての作法に組み込まれた儀式の担い手であり、誇るべき御用だったと思われます。

 

主人公が人の命を直接に奪う「介錯人」であるためか、本書のトーンは非常に低いところで推移しています。重苦しい、という言わけではありませんが、本書の主人公別訴龍玄が感情の起伏を見せていないように、本書の雰囲気も低めのトーンのままなのです。

辻堂魁という作者の他の作品で『仕舞屋侍』というシリーズがあります。その作品では十二歳の童女の“お七”という娘が主人公九十九九十郎の世話をするのですが、この娘が少々重い物語の雰囲気を和らげ、物語自体の暗さを救っています。本書では、龍玄の妻と幼い娘がその役割を担っているのです。

 

 

本書の主人公別所龍玄という介錯人については、2015年3月に宝島社から『介錯人別所龍玄始末』という作品が発表されています。

そして、その「内容紹介」に、「風の市兵衛」シリーズに登場する敵役、という一文がありました。私は全く覚えていなかったのですが、『風の市兵衛シリーズ』の第四弾『月夜行』に登場するそうです。

 

 

本書がシリーズ化されるものかどうかはっきりとはしませんが、是非シリーズ化されることを期待したいものです。

狼: 仕舞屋侍

表沙汰にできない揉め事の内済を生業にする九十九九十郎。元御小人目付で剣の達人でもある。若い旗本、大城鏡之助が御家人の女房を寝取り、訴えられていた。交渉は難航したが、九十郎の誠意あるとりなしで和解が成立した。だが鏡之助は九十郎への手間賃を払おうとしない。数日後、牛込の薮下で鏡之助の死体が発見された。御家人とともに九十郎にも嫌疑がかかった…。書下し長篇剣戟小説。 (「BOOK」データベースより)

 

仕舞屋九十九九十郎の活躍を人情味豊かに描く『仕舞屋侍シリーズ』第二巻目の長編痛快時代小説です。

 


 

五人の童子が龍之介とお七をからかってきたが、これをお七がやっつけてしまい(序 柳原通り)、後にその童子の親が怒鳴り込んできた。

一方、九十郎は若衆髷の大城鏡之助という男からの不義密通のもみ消し、内済の依頼を請け、相手の加島秋介という浪人と話をつける。

後日、脇両替の「倉田」で、番頭の欣次と法華の行者である六部との喧嘩で、日ごろ大人しい欣次が六部を半殺しの目にあわせてしまうという事件がおこる(其の一 不義密通)。

同じ日の朝、鏡之助が首の骨が折れた状態で見つかり、加島秋介が捕まった。そのことを知った九十郎は調べを開始し、鏡之助の馴染みの芸者から、鏡之助が殺された付近での金策場所として、神楽坂の≪倉田≫という銭屋の話を聞きこむのだった(其の二 神楽坂)。

欣二が袋叩きにした六部を藤兵衛が見つけ、欣二の父親殺しの過去の話などを聞き出すことができ、逃げようとする欣二と対決する九十郎だった(其の三 望月)。

二月も晦日、身体も元になりつつある九十郎は大宮宿をこえ欣二らの仲間の居る場所へと仕舞屋の仕事の決着をつけるために向かうのだった(終 三両二分)。

 

今回の事件は、過去を消し去り生きていた人物が、自分の過去を暴こうとする輩を排除しようとして様々な事件を引き起こします。また、その人物を何とか助けようとする人物も現れて、そこに人情劇までもが絡んでくるのです。

また、サブストーリーとして、お七と龍之介とが悪ガキに絡まれた顛末も語られています。

 

龍之介は前巻から登場している少年です。かつて、龍之介の祖父が九十郎の頭だったのですが、そのあとを継いだ龍之介の父親が九十郎の部下になったものの、ある事件で死んでしまいます。今は母親が新しい夫に嫁ぎ、龍之介と共に幸せに暮らしています。

この龍之介がお七と遊びたくて九十郎の家に足しげく顔を見せ、剣術を習いたいお七の相手をしているのです。

本書でもお七の物語が情に満ちた息抜きとなっています。

 

そして本筋の物語は自分勝手な遊び人である若い旗本の密通劇から幕を開け、その遊び人が殺されたことから別な人生の物語へと話の流れが移っていきます。

物語が別の筋へ移ってからは揉め事の内済という九十郎の生業とは関係がないようにも思えますが、全くの無関係とも言えない点でクライマックスへと向かうことになるのでしょう。

この本筋に関して辻堂魁らしい人情劇が仕組まれているのですが、九十郎というキャラクターがうまく生きるような流れとして仕組まれているようです。

 

お七に対する、父親のような存在としての九十郎がいて、本書の本筋を追いかける九十郎がいて、どちらの貌も仕舞屋としての九十郎が明確に生きていて読者の心を打ちます。

仕舞屋侍

かつて御小人目付として剣と隠密探索の達人だった九十九九十郎。だがある事情で職を辞し、今は「仕舞屋」と称してもみ消し屋を営んでいる。そんな九十郎の家を、ある朝七と名乗る童女が賄いの職を求めて訪れた。父母を失ったという七は断っても出て行かず、父仕込みの料理で九十郎を唸らせる。「侍」のもとで働きたいという七の真の目的とは?九十郎の情と剣が、事件と心の綾を解く!時代小説・書下し。 (「BOOK」データベースより)

 

『仕舞屋侍シリーズ』第一巻目の、仕舞屋九十九九十郎の活躍を人情味豊かに描く長編の痛快時代小説です。

 


 

松平定信の寛政の改革が始まって世の中が不景気になった頃、三屋半次郎という、山同心と呼ばれている上野の御山の東叡山寛永寺専属の同心が殺されます(序 不忍池)。

旗本室生伸之助が、奉公人である杵屋の娘お品に大けがを負わせてしまう事件が起こりますがその話し合いはこじれ、結論は持ち越しとなります(其の一 番町黒楽の皿屋敷)。

九十郎は、三屋半次郎の妻のお照からの、夫の死についての調査の依頼を請けます。半次郎の日記帳にあった「俊慧」について調べると、車坂町の浪人萩野忠五郎の娘三重の殺害事件などの事実が浮かび上がるのでした(其の二 山同心)。

調べていくうちに十年ほど前の西条伴右衛門の事件などが明らかになると共に依頼人のお照の事情も明確になってくきます(其の三 消えた女)。

すべてを明確にした九十郎はすべての決着をつけるのでした(其の四 果たし状)。

 

「其の一」で仕舞屋としての仕事の内容を紹介しながら、本書の実質的な事件の展開は「其の二」以降になります。

ストーリー自体は辻堂魁という作者らしく、単純すぎない物語ということを考えられたのでしょうが、若干複雑に絡み合いすぎている気がしないでもありません。

しかし、複雑でありながらもその複雑さをあまり感じさせないのも上手さゆえのことでしょうか。

 

本シリーズで注目すべきは、「其の二」から登場する“お七”という十二歳の女の子です。

九十郎の相棒でもある籐五郎のもとに自ら雇ってくれとやってきた娘です。この子の存在が物語の節目に語られているのですが、家事一般を見事にこなすその娘の姿が、物語の箸休め的存在となり、それが非常に効果的です。

その上、この娘も敵を討ちたいという望みを持っている身なのです。その事情は今のところは明らかにされてはいません。その事情もシリーズが進むにつれ明らかにされていくことでしょう。

仕舞屋侍シリーズ

仕舞屋侍シリーズ(2019年03月31日現在)

  1. 仕舞屋侍
  2. 仕舞屋侍 狼
  3. 仕舞屋侍 青紬の女
  1. 仕舞屋侍 夏の雁

 

風の市兵衛シリーズ』が一躍人気となった辻堂魁の新たなシリーズです。

 

田沼の世が終わり、松平定信の寛政の改革が始まって世の中が不景気になった頃を時代背景としています。

主人公は元御小人目付の今は仕舞屋稼業を営む初老の浪人で、名を九十九九十郎といいます。

ここで御小人目付とは、御徒目付と共に御目付配下にあって、御徒目付より録の低い一代抱えの下士のことを言います。また、御目付とは、家禄百五十石から三千石までの旗本の、家柄、能力共に選りすぐりの者が就く役目であり、役目を退いても、公儀直参の旗本であることに変わりはないといいます。

 

また、タイトルの「仕舞屋侍」の「仕舞屋」とは「しもたや」という言葉のことだと思っていました。

つまり「仕舞屋」とは、商店でない、普通の家のことを言い、店じまいをした家の意の〈仕舞(しも)うた屋〉から変わった言葉であり(コトバンク : 参照)、タイトルとしてどういう意味だろうと思っていたのです。

しかし本書で言う「仕舞屋稼業」という意味はそうではなく、言葉の意味の通りの「仕舞い屋」であり、要するにもみ消し屋のことでした。

 

剣と隠密探索の達人だった九十九九十郎という元御小人目付が依頼を請け、市井での揉め事にの間に入り、依頼者のために時には綺麗事ばかりではない手も遣ってもみ消しを図ります。

そのために、仕事を請けたり、時には依頼の揉め事の下調べをしたりもする存在として藤五郎という男が役に立っているのです。

この藤五郎は、小柳町とお兼新道をはさんだ平永町の南角にある湯屋《藤ゆ》の主人であり、二階の休憩所を九十郎の事務所のように使っています。

そしてもう一人、九十郎の住まいで家事仕事を行う、十二歳の童女である“お七”という存在がこの物語の花として彩を添えているのですが、この娘の物語もサイドストーリー的に挟まれています。

また、本シリーズの登場人物としては、もう一人北町奉行所年番方与力の橘左近が役人として九十郎らの仕事を側面から支える存在として配置されています。

 

浪人を主人公とするシリーズ物の痛快時代小説は、つまりは主人公が何らかの事件に関与することで物語が展開されるのが通常ですが、そのためには用心棒稼業が一番簡単であり、逆にそれ以外の設定はなかなか難しいものがあります。

そうした中で、池波正太郎の『剣客商売』(新潮文庫)や、野口卓の『軍鶏侍シリーズ』(祥伝社文庫)などは道場主を主人公とした読み応え十分なシリーズであり、珍しい設定だと思います。

 

 

ただ 佐伯泰英の『酔いどれ小籐次シリーズ』(文春文庫)は、当初は別として、いわば巻き込まれ型の物語であり、これも珍しい設定だと思います。

 

 

本書『仕舞屋侍シリーズ』もまた事実上の用心棒ものです。ただ、本書の場合、単に依頼者に襲い掛かる危難から依頼者を守るということではなく、積極的に現在陥っている難題から依頼者を救うという点では全く新たな職種、新たな設定だと言えるかもしれません。

ともあれ、辻堂魁の人情劇を絡めた痛快小説として読みごたえは十分な物語です。今後の展開が楽しみなシリーズです。

 

なお、本シリーズに関しては、本当に簡単ではありますが「あらすじ」をまとめています。物語の核心となる箇所はぼかしているつもりですが、このサイトの他の作品における書き方とは異なり、ある程度のネタバレをしています。

本来はこのような書き方はルール違反なのかもしれませんが、痛快時代小説での一応の物語の流れに関する情報は、知っていたとしても読書の邪魔にはならないような気がして、試しにネタバレ的なあらすじを書いてみることにしました。

もし不快に思われる方は、読み飛ばし、もしくは読まないでください。すみませんがよろしくお願いします。その上で、その旨連絡くだされば幸いです。

銀花 風の市兵衛 弐

銀花 風の市兵衛 弐』とは

 

本書『銀花 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛シリーズ 弐』の第三弾で、2018年8月に祥伝社文庫から339頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。

 

銀花 風の市兵衛 弐』の簡単なあらすじ

 

唐木市兵衛と暮らした幼き兄妹小弥太と織江の親戚にあたる金木脩が酔漢に襲われ重傷を負った。柳井宗秀の治療で一命をとりとめたものの、酔漢は実は金木の故郷北最上藩の刺客であることが発覚する。急遽、北最上に奔る市兵衛。そこでは改革派を名乗る一派による粛清の嵐が吹き荒れていた―領民を顧みず私欲を貪る邪剣集団が、市兵衛暗殺に牙を剥く!(「BOOK」データベースより)

目次

序章 忠犬 | 第一章 大川 | 第二章 羽州街道 | 第三章 江戸の男 | 終章 無用の用

 

銀花 風の市兵衛 弐』の感想

 

本書『銀花 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛 弐 シリーズ』の第三弾の長編の痛快時代小説です。

 

柳橋北の船宿≪川口≫で襲われ重傷を負った北最上藩石神伊家馬廻り役助の金木脩は、からくも脱出し唐木市兵衛に連絡を取ります。

脩から話を聞いた市兵衛は、北最上藩へと旅立つのでした。

北最上藩の金木家へとやってきた市兵衛が隠居の了之助らに脩の状況を話しているところに、≪神室の森≫で伐採が始まったとの知らせが入ります。

早速了之助らと共に駈けつけた市兵衛は、伐採に付き添っていた黒装束の侍らを退けるのです。

小弥太織江の親が死なねばならなかった原因となった金木家の本家中原家宝蔵家との争いに巻き込まれざるを得ない市兵衛でした。

 

これまで面白い時代小説のシリーズものとして読み続けてきたこの『風の市兵衛シリーズ』ですが、若干のマンネリ感を抱いていたのもまた事実です。

そうしたことは作者も感じておられたからこそ、シリーズを新たにされたのだと思います。

そして、本書『銀花 風の市兵衛 弐』で新シリーズも三巻目になって、狙い通りにかなり読み応えがある作品となっています。

 

本書では、新シリーズの第一巻目『暁天の志 風の市兵衛 弐』に登場し、市兵衛が斬り捨てた信夫平八に関連した北最上藩石神伊家にまつわる話が未だ続いています。

つまり、信夫平八の実家である金木家本家の中原家と、宝蔵家との争いに巻き込まれた市兵衛が、横暴な宝蔵家を懲らしめ、小弥太と織江の実家の金木家を助けるという痛快小説の王道の物語になっているのです。

その市兵衛が中原家を助けるに至るまでの筋道が、丁寧に、しかも物語の流れの中で自然に為されているところがこの物語の魅力になっているのです。

加えて言えば、市兵衛の剣の冴えは本書でも十分に見せ場を作ってありますし、勧善懲悪の定番の流れを裏切ることのない、安定したおもしろさを保っています。

 

今回もまた市兵衛の仲間が登場する場面はほとんどありません。

新しい岡っ引きである紺屋町の文六は、脩が襲われた経緯について調べ上げていますが、この探索も、市兵衛の活躍自体にはあまり役には立っていません。ただ、読者に物語の背景を説明するという意味では大きく役に立っています。

そしてもう一点。中原家の娘が市兵衛に熱い視線を注ぎますが、そのことについてはあまり触れてないところは若干物足りなく思いました。

 

本シリーズで不満があるとすれば、この市兵衛の回りの女性の影の無さでしょう。

以前、京都時代の市兵衛の恋人らしき人物が登場してきたことはありますが、この頃はそれもありません。市兵衛ではなく、弥陀ノ介の恋の成就が少し描かれていたくらいです。

また、新シリーズになってすぐの市兵衛の過去の一端が明かされましたが、今のところは新しいシリーズでは何も変化はありません。今後どのように市兵衛の過去が関わってくるものか、そちらも楽しみです。

 

いずれにしろ、本書『銀花 風の市兵衛 弐』は面白さを取り戻した作品だと思われます。今後の更なる活躍を待ちたいと思います。

夜叉萬同心 親子坂

夜叉萬同心 親子坂』とは

 

本書『夜叉萬同心 親子坂』は『夜叉萬同心シリーズ』の第三弾で、2013年8月にベスト時代文庫から文庫本書き下ろしで刊行され、2017年4月に光文社文庫から309頁の文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。

 

夜叉萬同心 親子坂』の簡単なあらすじ

 

中越・永生藩の山村から、奇妙な男が江戸に送り込まれた。無垢な心を持ち、鷹のように一瞬に獲物に止めを刺す、森で育った忍びの者、西上幻影。北町奉行所の隠密廻り方同心・萬七蔵は相次ぐ豪商の不審死を調べるうち、ある腹黒い商人と永生藩国家老周辺との癒着に気づく。巻き込まれる誇り高い鷹、幼影の運命に、七蔵はどう立ち向かうか。傑作シリーズ第三弾。 (「BOOK」データベースより)

序 十万億土
吉原の男たちによる警動騒ぎが起こって引きたてられ、翌正月に江戸町では女たちの入札が始り、一人の女に対する暴行を止めたのが七蔵だった。一方、永生藩では国家老の河合三了西上幻影にある命令を発していた。

第一章 湯島の白梅
ある日七蔵の家に猫のに誘われて、お美濃という幼子が遊びに来た。世話になっている叔父は帰ってこずに、賭け弓のうまい兄の健太と暮らしているという。しかし、七蔵が掛かりである殺人事件に絡んでいるのが健太が世話になっている白梅という女であり、また健太を利用した白梅の企みの裏には中丸屋康太夫という米問屋が絡んでいる疑いがあった。

第二章 寒椿雪化粧
新吉原の面番所に詰めていた七蔵は、正月に助けた本名を椿、今は寒椿と名乗る女郎から父親の河野佐治兵衛を斬った者を捜し出したいという相談を受けた。河野佐治兵衛の事件を調べると、かつては椿の許婚だった疋田籐軒、今の根津籐軒の身代わりに仕置を受けた事件に関連しているらしいが、根津籐軒の仕置は難しいと伝えるのだった。

第三章 幻の鷹
永生藩の河合三了から命を受けた西上幻影は鏡音三郎の昔馴染みであった。幻影は例の中丸屋に寝泊まりしていた。永生藩御用達を務める笹井屋太佐衛門室生屋利三郎と不審な死が続き、残された荷送問屋大樽屋文右衛門が調べを願い出てきた。中丸屋は永生藩蔵元の地位を望んでいるらしく中丸屋を見張る七蔵らだった。

 

夜叉萬同心 親子坂』の感想

 

本書『夜叉萬同心 親子坂』は、『夜叉萬同心シリーズ』の第三弾となる、連作短編の痛快時代小説です。

 

本書では、登場人物の一人である鏡音三郎が仕える藩の御用達の中丸屋が絡んだ話が第一話と第三話とに出てきます。それは、つまりは「序 十万億土」で登場してきた西上幻影の物語であり、ひいては鏡音三郎の話にもなります。

また前巻から登場してきている猫の倫が結構重要な役割を勤めていて、本書の雰囲気も和らいでいるようにも思えます。

 

猫に重要な役割を担わせている物語は少なからずありますが、時代小説に限ると、田牧大和の作品にはよく猫が登場します。

中でも『鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙』で登場するサバという名の猫は殆ど主人公といってもいいくらいで、この猫の指図で絵師の青井亭拾楽がさまざまに振り回されるのです。

また、そこまでではありませんが思い出すのは、池波正太郎の『剣客商売 二十番斬り』の中の「おたま」という短編に登場する猫も、重要な役割を担っていて、何故か心に残っています。

このシリーズの中では、久しぶりの出会いのきっかけを猫に求めるという、めずらしくファンタジー色が感じられる話であり、また、四十余年という歳月の経過の恐ろしさを描いた好編でした。

 

ともあれ本書『夜叉萬同心 親子坂』の第二話は、いつもの通りの世の中で起きた不条理な出来事の後始末をつける七蔵という流れの話ですが、他の二編は、永生藩の藩内抗争に絡んだ話であり、鏡音三郎が重要な役割を持って活躍する話になっています。

とはいえ、西上幻影という野に育った男が藩の重役の言動に踊らされるという悲哀を持った物語という点では、この作者がよく描く世界の話だとは言えるのでしょう。

変わらずに、一気に読める作品となっています。

夜叉萬同心 冥途の別れ橋

夜叉萬同心 冥途の別れ橋』とは

 

本書『夜叉萬同心 冥途の別れ橋』は『夜叉萬同心シリーズ』の第二弾で、2008年3月にベスト時代文庫から文庫本書き下ろしで刊行され、2017年4月に光文社文庫から317頁の文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。

 

夜叉萬同心 冥途の別れ橋』の簡単なあらすじ

 

北町奉行所の隠密廻り方同心・萬七蔵は、「夜叉萬」と恐れられる存在だ。永代橋崩落の大惨事に揺れる江戸で、押しこみ強盗の末に一家を惨殺する卑劣な窃盗団「赤蜥蜴」の探索をすることに。直近の襲撃のみ、一味のやり口が変化していることに七蔵は戸惑うが、そこから導き出されるのは意外な真実だった。人間の業や情愛、運命を鮮やかに描き出す、シリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)

 

夜叉萬同心 冥途の別れ橋』の感想

 

本書、辻堂魁著の『夜叉萬同心 冥途の別れ橋』は、『夜叉萬同心シリーズ』の第二弾となる、連作短編の痛快時代小説です。

この『夜叉萬同心シリーズ』は、クールな主人公萬七蔵が世の悪を懲らしめ、非道を正すという、まさに痛快時代小説の王道をゆく作品であり、本書では、文化4年(1807年)に起きた永代橋の崩落事故にまつわる三つのエピソードが語られています。

 

まず、「序 崩落」では、ある男が必死で逃げている最中に崩落事故に巻き込まれ、あるものを隠す様子が描かれています。

次いで「第一章 がえん太鼓」では、七蔵は崩落事故で行方不明となっている万吉という臥煙を探すように命じられます。七蔵らが調べると、そこでは定火消しの斉東家らが言うこととは異なり、高圧的な臥煙らの横暴な振る舞いが問題となっていた事実が浮かび上がるのでした。

そして「第二章 川向うの女」は、御公儀番方徒組三番組御家人・林勘助の溺死体が上がったことから、七蔵がその探索に乗り出します。崩落事故で行方不明になった妻袈裟を探す勘助の姿、そして一人の女を助けたある男の姿が浮かび上がってきたのでした。

また「第三章 散茶女郎の小判」では、残虐な手口で恐れられている「赤蜥蜴」と名乗る押し込みの一団を追う七蔵の姿があります。冒頭「序」で描かれた崩落事故は、事故の様子を描き出すとともに、この物語へとつながっていたのでした。

こうして永代橋の崩落事故にまつわる三つの物語が描かれるのですが、そこにあるのは、第一章では樋口屋という釘鉄銅物の問屋に降りかかった悲運であり、第二章では御公儀番方徒組三番組御家人・林勘助とその妻の袈裟の悲哀です。

これらの哀しみに隠された非道を暴き、懲らしめるのが萬七蔵とその仲間たちなのです。奉行からの切り捨て御免の暗黙の了解を得ている七蔵は、悪を前に思い斬り剣の腕をふるいます。

 

一方、七蔵の屋敷では、行儀見習いとして入った叔母由紀の孫娘で十三歳になるがいて、明るさを増しています。

また、第二章で登場した猫のが七蔵の家に住み着いたようで、文とに可愛がられる姿などが描かれていて、こうした描写は、殺伐とした内容が描かれることが多いこのシリーズの、息抜きともなっています。

また、このシリーズの第一巻『夜叉萬同心 冬かげろう』でも登場した鏡音三郎という男が今回も登場しますが、町娘のが音三郎に対し抱く愛情の場面などは実に爽やかであり、清涼剤ともなっているようです。

ここらは『日暮し同心始末帖シリーズ』での主人公日暮龍平の家庭の描写がいつも前を見つめていて希望を示していて、暗くなりがちな物語に明るさをもたらしているのと同じで、定番の手法だとは言えうまいものです。

修羅の契り 風の市兵衛 弐

修羅の契り 風の市兵衛 弐』とは

 

本書『修羅の契り 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛シリーズ 弐』の第二弾で、2018年5月に祥伝社文庫から322頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。

 

修羅の契り 風の市兵衛 弐』の簡単なあらすじ

 

病弱の妻の薬礼を得んがため人斬りに身をやつした信夫平八。断腸の思いで平八を刀に懸けた唐木市兵衛は、彼の忘れ形見、小弥太と織江とともに新しい生活を始める。日々、絆を深くする市兵衛と子どもたち。そんな中、岡っ引の文六、お糸夫婦が寝込みを急襲された。さらに、幼い兄妹が行方不明に―子どもたちの奪還のため死地へと向かう市兵衛に“修羅の刃”が迫る! (「BOOK」データベースより)

目次
序章 六道の辻 | 第一話 土もの店 | 第二話 仕かえし | 第三話 修羅の町 | 第四話 死闘千駄ヶ谷 | 終章 ご褒美

 

修羅の契り 風の市兵衛 弐』の感想

 

本書『修羅の契り 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛 弐 シリーズ』の第二弾の長編の痛快時代小説です。

 

今回の物語は、大きく二つに分けられます。

ひとつめはシリーズの主人公唐木市兵衛の新しい勤め先での出来事で、ふたつめは前巻で市兵衛が倒した信夫平八が残した二人の子、小弥太織江にまつわる話です。

 

最初の新しい勤め先とは家禄千二百石の旗本大久保東馬を当主とする大久保家であり、そこでの用人としての勤めです。

でも、そこには既に大木駒五郎という人物が既におり、大久保家全般のことを取り仕切っていたのです。

ところが、この大木駒五郎という男は大久保家を食い物にしようとしていることは明白であるにもかかわらず、大久保東馬はそのことを全く認めようとはしないのでした。

 

そしてもう一方では、小弥太と織江とが行方不明になってしまいます。その裏には、信夫平八とその妻由衣が国元から出奔する原因となった宝蔵家の三男であった竜左衛門の存在が疑われるのでした。

そこに、信夫平八の雇い主であった殺し人の元締めの多見蔵が信夫平八の敵を討とうと、新しい殺し人に岡っ引の文六とその女房お糸、そして市兵衛の殺しを依頼し、話は複雑になります。

 

こちらの話が本書の本筋の話ではあるのですが、市兵衛の痛快さが見れるのは最初の大久保家の話のほうです。

こちらは単純に頼りなさげに見えた男が実は芯の強さを秘めていたというヒーローものの王道のような展開を見せます。

そして、久しぶりに市兵衛の経理に強い、用人としての顔を満つことができる物語でもありました。

 

一方、小弥太と織江とにまつわる物語もヒーローものではあるのですが、こちらは物語で読ませる話となっています。

多見蔵と信夫平八との関係や、信夫平八と宝蔵家の竜左衛門と間の話、また市兵衛と幼い子らの関係はどうなっていくのか、などなかなかに読ませるのです。

そして、本来江戸の外に逃げ出せば足る筈の多見蔵が、新たに殺し人を依頼する理由なども丁寧に示してあり、私の好みをきちんと押さえた物語となっていました。

 

しかしながら、市兵衛の新しい物語も登場人物も確定してその中で物語が進行していくものと思っていたところ、更に思いの他の展開となってしまいました。

今後の展開はどのようになっていくものなのか、次巻を待ちたいものです。

縁切り坂 日暮し同心始末帖

内藤新宿のはずれ、成子町で比丘尼女郎の千紗が首の骨をへし折られ殺害された。犯行を目撃しただろう妹は姿を隠してしまう。探索する北町奉行所平同心の日暮龍平は、千紗が執拗に付きまとう男から逃れるため、深川から流れてきたと知る。さらに過去を辿ると、千紗と妹との因果が明らかに。やがて、妹の命を狙う下手人の身勝手な動機に、龍平は鬼となる! (「BOOK」データベースより)

本書は、日暮し同心始末帖シリーズ第六弾の長編の痛快時代小説です。

 

 
序 家内暴力
日暮龍平の出勤前に、お万知が喜多野勇が暴れると言って逃げ込んできた。龍平が何とか押さえている間に組頭の川波らが取り押さえに来て、なんとかその場は収まるのだった。

第一話 成子坂
成子町で、首に右手一本で締められたらしい指の跡を残し、女が殺された。三日前から行方不明のお久仁という妹が客引きをし、殺された千紗が客を取っていたらしい。深川の女衒の十吉によると、二年前まで五間堀の三間町で比丘尼女郎をやっていて、千紗に頼まれ成子町を紹介したというのだ。

第二話 三間町の尼さん
成子町に行くついでに、喜多野らと共に角筈村の心勝寺に大観という祈祷師を捕らえに行くと、喜多野は大観を右手一本で突き上げ、投げ捨てる暴挙に出る。一方、宮三は埼玉郡越谷宿で、お千紗と思われるお円という娘の両親と兄に会い、そもそもお円は根っから女郎になるしかない女だったと聞きこんできた。また、喜多野の手下によると、喜多野は数年前に千紗という名の比丘尼女郎に入れ込んでいたらしい。

第三話 七日目の夢
お久仁が見つかり話を聞くと喜多野がお千紗を殺したのを見たという。龍平は、北町奉行永田備前守らに喜多野の犯行を報告していたが、喜多野が七振りの刀を抱えた信太と共に北町奉行所へと乗り込んできた。暴れまわる喜多野を押さえられない同心、与力だったが、龍平がその前に立ちふさがるのだった。

結 縁切り坂
母方の実家のある用賀村の縁者のもとに旅立つお万知を見送り、お久仁はお円の兄が越谷村へ連れて行き養女にしたと報告があった。

 

今回の物語は、少々趣旨がつかみにくい物語でした。というのも、今回の物語は喜多野勇という男の行動が中心となっているのですが、いくら心に鬱屈を抱えているからといってここまで破れかぶれになるのだろうか、という疑問がずっと頭の片隅に残っていたからです。

龍平はもともと旗本の部屋住みであり、その男が不浄役人と蔑まれた同心の家へ養子に入ったのですが、喜多野勇は貧乏同心の家に、更に貧乏な家から養子に入り、不細工な嫁からはいつも見下されていて、心に鬱屈を抱えた日々を送っていたというのです。

しかし、それにしても激高の程度がひどく自殺願望があるとしか思えません。でも、よく考えて見ると、近年、激高の末に殺人に至る、という事件のニュースをよく見聞きすることに気がつきました。

してみると、こうした話も決して絵空事ではないのかもしれません。そこに日暮龍平が絡み、痛快小説として仕上げてあるわけです。

一方で、男が無くては生きていけない女の行きつくところを描いた物語でもあり、それはそれで哀しい話です。女郎としてしか生きていけに女に入れ込んだ哀しい男の物語でもあるかもしれません。

シリーズの雰囲気も維持したまま、それでも龍平は夫として、そして父親としてもひとつの理想像を生きているようなな気がします。

日暮し同心始末帖 逃れ道

神田堀八丁堤で菱垣廻船問屋の番頭が殺された。臨時で定町廻り方となった北町奉行所平同心の日暮龍平は、早速、探索を引き継ぐが難航する。同じ頃、倅の俊太郎を地廻りから救ってくれたお篠に出会う。お篠の夫は彼女を描いた錦絵が評判の絵師だった。ところが、番頭の遺品にその錦絵が見つかるや、お篠の過去に捜索の手が―秘した哀しみが涙を誘う万感の時代小説。(「BOOK」データベースより)

本書は、日暮し同心始末帖シリーズ第五弾の長編の痛快時代小説です。

 

 
序 あぶり団子
六歳の俊太郎は九歳の左江之介らと共に寛永寺参詣に行き、健五と呼ばれる男らから乱暴を受けているところをお篠と名乗る女に助けられた。

第一話 八丁堤
お篠とその夫の錦絵師の涌井意春とにお礼に行った翌朝、龍平は江戸煩い(脚気)で動けない廻り方の南村種義の代わりを務めるように命じられる。難しそうな事件としては神田堀の八丁堤での殺しがあった。南村の手先の蔵六に会いに行くと、そこには南村出入りの店の心付けを狙っていた非常警戒掛同心の鈴本左右助や、俊太郎を痛めつけた健五という男もいた。

第二話 美人画
八丁堤で殺された男は、四十を超えて独り身の、品川裏河岸の菱垣廻船問屋・利倉屋の平番頭の雁之助で、二百両を超える金と涌井意春の錦絵を持っていた。無くなっていた銀の煙管と象牙の根付は、健五らが売り払ったものであり、なお雁之助が八丁堤にいた理由や意春の錦絵を持っていたのは何故かが気にかかる龍平だった。

第三話 嵐
龍平らが、お篠と雁之助との因縁を知っている男、八弥の元に行き、詳しい話を聞いているころ、相模の出張陣屋の元締・黒江左京の命を受けた五郎治郎や庸行を始めとする四人は、お篠と意春の元に忍び込み、これを殺害しようとしていた。

結 馬入川
龍平と俊太郎はとある人物のもとを訪れ、その後の報告をするのだった。

 

本書では一人の女に焦点が当てられています。その女はやっとのことで悪党の仲間から逃げ出し、今はある絵描きの女房となって幸せに過ごしていたのです。

ひょんなことからこの女性お篠と知り合った龍平は、とある殺人事件の被害者がお篠の夫である錦絵師の涌井意春の錦絵を持っていたことが気になるのでした。

 

このお篠という女に凄惨な過去が隠されており、現在の幸せな生活がお篠の過去から現れた男らによって壊されてしまうという、よくあるパターンといってもいい物語の流れでです。

ある事件の関係者が偶然の出会いにより一同に会することになるという物語の流れは、痛快小説の宿命かもしれず、そのことは言いたてても仕方のないことなのでしょう。

しかし、できればその不自然さを少しでもいいので回避して欲しいと思うのです。それとも、無い物ねだりなのでしょうか。

 

ともあれ、今回は息子俊太郎が理不尽な暴力に遭うことから物語は始まり、そのことについての龍平による意趣返しも意図しないままに果され、お篠に対する非道な行為に対しても龍平の剣が冴え渡り、まさに痛快小説ここにありという展開を見せてくれています。

若干の哀愁を帯びた物語としてあるのもこのシリーズのいつもの流れです。軽く読めるエンターテイメント小説として持ってこいの小説です。