表沙汰にできない揉め事の内済を生業にする九十九九十郎。元御小人目付で剣の達人でもある。若い旗本、大城鏡之助が御家人の女房を寝取り、訴えられていた。交渉は難航したが、九十郎の誠意あるとりなしで和解が成立した。だが鏡之助は九十郎への手間賃を払おうとしない。数日後、牛込の薮下で鏡之助の死体が発見された。御家人とともに九十郎にも嫌疑がかかった…。書下し長篇剣戟小説。 (「BOOK」データベースより)
仕舞屋九十九九十郎の活躍を人情味豊かに描く『仕舞屋侍シリーズ』第二巻目の長編痛快時代小説です。
五人の童子が龍之介とお七をからかってきたが、これをお七がやっつけてしまい(序 柳原通り)、後にその童子の親が怒鳴り込んできた。
一方、九十郎は若衆髷の大城鏡之助という男からの不義密通のもみ消し、内済の依頼を請け、相手の加島秋介という浪人と話をつける。
後日、脇両替の「倉田」で、番頭の欣次と法華の行者である六部との喧嘩で、日ごろ大人しい欣次が六部を半殺しの目にあわせてしまうという事件がおこる(其の一 不義密通)。
同じ日の朝、鏡之助が首の骨が折れた状態で見つかり、加島秋介が捕まった。そのことを知った九十郎は調べを開始し、鏡之助の馴染みの芸者から、鏡之助が殺された付近での金策場所として、神楽坂の≪倉田≫という銭屋の話を聞きこむのだった(其の二 神楽坂)。
欣二が袋叩きにした六部を藤兵衛が見つけ、欣二の父親殺しの過去の話などを聞き出すことができ、逃げようとする欣二と対決する九十郎だった(其の三 望月)。
二月も晦日、身体も元になりつつある九十郎は大宮宿をこえ欣二らの仲間の居る場所へと仕舞屋の仕事の決着をつけるために向かうのだった(終 三両二分)。
今回の事件は、過去を消し去り生きていた人物が、自分の過去を暴こうとする輩を排除しようとして様々な事件を引き起こします。また、その人物を何とか助けようとする人物も現れて、そこに人情劇までもが絡んでくるのです。
また、サブストーリーとして、お七と龍之介とが悪ガキに絡まれた顛末も語られています。
龍之介は前巻から登場している少年です。かつて、龍之介の祖父が九十郎の頭だったのですが、そのあとを継いだ龍之介の父親が九十郎の部下になったものの、ある事件で死んでしまいます。今は母親が新しい夫に嫁ぎ、龍之介と共に幸せに暮らしています。
この龍之介がお七と遊びたくて九十郎の家に足しげく顔を見せ、剣術を習いたいお七の相手をしているのです。
本書でもお七の物語が情に満ちた息抜きとなっています。
そして本筋の物語は自分勝手な遊び人である若い旗本の密通劇から幕を開け、その遊び人が殺されたことから別な人生の物語へと話の流れが移っていきます。
物語が別の筋へ移ってからは揉め事の内済という九十郎の生業とは関係がないようにも思えますが、全くの無関係とも言えない点でクライマックスへと向かうことになるのでしょう。
この本筋に関して辻堂魁らしい人情劇が仕組まれているのですが、九十郎というキャラクターがうまく生きるような流れとして仕組まれているようです。
お七に対する、父親のような存在としての九十郎がいて、本書の本筋を追いかける九十郎がいて、どちらの貌も仕舞屋としての九十郎が明確に生きていて読者の心を打ちます。