『仕舞屋侍 狼〈新装版〉』について
本書『仕舞屋侍 狼〈新装版〉』は『仕舞屋侍シリーズ』の第二弾で、徳間文庫から2015年5月に、そして2025年2月に368頁の新装版として出版された、長編の痛快時代小説です。
「仕舞屋」稼業の一人の浪人者を主人公とする、『風の市兵衛シリーズ』の作者の新しいシリーズ作品でであり、割と楽しく読むことができました。
『仕舞屋侍 狼〈新装版〉』の簡単なあらすじ
表沙汰にできない揉め事の内済を生業にする九十九九十郎。若い旗本が御家人の女房を寝取り、訴えられていた。交渉は難航したが、九十郎のとりなしで和解が成立。だが旗本は手間賃を払おうとしないばかりか、数日後に牛込の藪下で死体となった。旗本は銭屋「倉田」に大金を預けており、九十郎にも嫌疑がかかる。事件解明に乗り出した九十郎は、銭屋の番頭に怪しい匂いを嗅ぐ。長篇剣戟小説。(「BOOK」データベースより)
序 柳原通り
五人の童子が龍之介とお七をからかってきましたが、これをお七がやっつけてしまい、後にその童子の親が怒鳴り込んできます。
其の一 不義密通
一方、九十九九十郎は若衆髷の大城鏡之助という男からの不義密通のもみ消し、内済の依頼を請け、相手の加島秋介という浪人と話をつけるのでした。
また後日、日ごろ大人しい脇両替≪倉田≫の番頭の欣次は、法華の行者である六部との喧嘩で六部を半殺しの目にあわせてしまいます。
其の二 神楽坂
同じ日の朝、鏡之助が首の骨が折れた状態で見つかり、加島秋介が捕まります。
そのことを知った九十郎は調べを開始し、鏡之助の馴染みの芸者から、鏡之助が殺された付近での金策場所として、神楽坂の≪倉田≫という銭屋の話を聞きこむのでした。
其の三 望月
欣二が袋叩きにした六部を藤兵衛が見つけ、九十郎は欣二の父親殺しの過去の話などを聞き出すことができ、逃げようとする欣二と対決することになります。
終 三両二分
二月も晦日、身体も元になりつつある九十郎は大宮宿をこえ、欣二らの仲間の居る場所へと仕舞屋の仕事の決着をつけるために向かうのでした。
『仕舞屋侍 狼〈新装版〉』の感想
本書『仕舞屋侍 狼〈新装版〉』は、仕舞屋九十九九十郎の活躍を人情味豊かに描く『仕舞屋侍シリーズ 』第二巻目の長編の痛快時代小説です。
本書は当初は2015年5月に徳間文庫から文庫本書下ろしで出版されたのですが、2025年2月になって<新装版>として刊行されたものです。
今回の事件は、過去を消し去り生きていた人物が、自分の過去を暴こうとする輩を排除しようとして様々な事件を引き起こすというものです。また、その人物を何とか助けようとする人物も現れて、そこに人情劇までもが絡んできます。
また、サブストーリーとして、お七と龍之介とが悪ガキに絡まれた顛末も語られています。
龍之介は前巻から登場している少年です。かつて、龍之介の祖父が九十郎の頭だったのですが、そのあとを継いだ龍之介の父親が九十郎の部下になったものの、ある事件で死んでしまいます。今は母親が新しい夫に嫁ぎ、龍之介と共に幸せに暮らしています。
この龍之介がお七と遊びたくて九十郎の家に足しげく顔を見せ、剣術を習いたいお七の相手をしているのです。
本書でもお七の物語が情感に満ちた息抜きとなっています。
そして本筋の物語は自分勝手な遊び人である若い旗本の密通劇から幕を開け、その遊び人が殺されたことから別な人生の物語へと話の流れが移っていきます。
物語が別の筋へ移ってからは揉め事の内済という九十郎の生業とは関係がないようにも思えますが、全くの無関係とも言えない点でクライマックスへと向かうことになるのでしょう。
この本筋に関して辻堂魁らしい人情劇が仕組まれているのですが、九十郎というキャラクターがうまく生きるような流れとして仕組まれているようです。
お七に対する、父親のような存在としての九十郎がいて、本書の本筋を追いかける九十郎がいて、どちらの貌も仕舞屋としての九十郎が明確に生きていて読者の心を打ちます。