辻堂 魁

仕舞屋侍シリーズ

イラスト1
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揉め事の内済を生業とする九十九九十郎を地酒問屋“三雲屋”の女将が訪ね、七雁新三という博徒の素性を調べてほしいと大金を預ける。新三は岩槻城下の貸元に草鞋を脱いでいるらしい。三雲屋も女将も岩槻の出身だった。九十郎は貸元を訪ねる。二十一年前、藩勘定方が酒造の運上冥加を巡る不正を疑われ、藩を追われた。三雲屋が藩御用達になったのはそれからという…書下し長篇時代剣戟。(「BOOK」データベースより)

 

仕舞屋九十九九十郎の活躍を人情味豊かに描く『仕舞屋侍シリーズ』第四巻目の長編痛快時代小説です。

 

上州銅街道の桐原宿はずれの渡良瀬川の渡し船で、博徒の新三の一言を聞いた原助と名乗る旅人は驚愕の表情で暴れだし、川へと転落してしまう(序 渡良瀬川)。

一季雇いの中間森助の件で五百石の旗本墨倉家用人の小堀与一之助と会った翌日、九十九九十郎は東両国本所元町の地酒問屋「三雲屋」の店主、三雲屋貫左衛門の女房のお曾良と名乗る女から、五十両という大金で七雁新三という名の博徒の素性を調べる仕事を請けた(其の一 江戸の女)。

その翌日、九十郎と藤兵衛は、七雁新三が世話になっていた日光街道岩槻宿貸元の金五のもとを訪ねるが会えず、ただ、九十郎は岩槻の筆頭番頭だった男から、勘定方だった日比野信兵衛が絡んだ三雲屋が今の大店になった真の事情、そして、その日比野は酔って渡し船から落ちて亡くなったことを聞きだす(其の二 岩槻の男)。

北町奉行所与力橘左近からは、日比野の転落死の調査の依頼と同時に、太一郎と紗衣という双子がいたことを聞いた。また、地回りの桂太から三雲屋の女将の生まれが岩槻であり、双子の妹は吉原へ売られ、新三は母親の死後奉公に出されたという話を聞いた九十郎は、お曾良からすべてを聞くのだった(其の三 別離)。

その後、曾良は九十郎に、自分らの父親を殺した男らのもとへ真実を明らかにしに行った三度笠の男と、そして自分の旦那を助けてくれと頼むのだった(其の四 愛宕下の戦い)。

三国屋主人貫左衛門の申し立てにより、すべては終わり、九十郎は藤ゆ二階の休憩部屋で旗本墨倉家の当主・墨倉柳之進とその供侍と会うのだった(終 夏の雁)。

 

本書の本筋は、かつて卑劣な罠にはまり、家名没落の憂き目にあったとある家族の復讐譚です。それとともに、高慢な旗本に虐げられた奴の代人として交渉事に臨む九十郎の姿が描かれています。

この、物語の本筋とは異なる、しかし仕舞屋稼業としては本筋のもみ消し業、本書で言えば旗本墨倉家と一季雇いの中間森助との間の揉め事の始末が結構面白いのです。

本来であれば、旗本が一季雇いの中間との間で話し合いを持つなど考えられない事柄の筈です。

しかし、仕舞屋である九十郎は御小人目付であった経験を活かし、話し合いに持っていくどころか、相手の弱みを調べ上げ、表沙汰にしないで内々で事をすませる内済として処理するように運びます。

その交渉の過程が小気味よく、もう少しその様子を読んでいたいと思うほどです。その話が、本筋の話の合間に少しずつ語られます。

 

そして本書のメインの物語がありますが、これがよく練られています。

ストリーだけ追っても、本書のような文庫書下ろしの痛快時代小説としてはかなり作りこんであり、普通であれば文庫本一冊では収拾がつかいないほどの流れがあるのですが、そこはうまく処理してあります。

物語の筋が話の流れとして丁寧に整理されていて混乱することはありません。そうした、物語の流れの丁寧な構築が辻堂魁という作家の作品の持つ特徴でもあり、面白さの源なのでしょう。

 

本シリーズで語られる話は哀しみに満ちている話が多いようです。

サブストーリーで仕舞屋としての仕事を痛快さを込めて語られ、メインストーリーで悲哀に満ちた過去を持つ人物の物語に九十郎が迫っていく様子が語られますが、彼らの哀しみは哀しみとして九十郎でもどうしようもないことが殆どです。

この形が一つのパターンとしてあると思われますが、マンネリに陥ることなく哀愁と痛快さとを兼ね備えた物語として、これからも続いてほしいと思うシリーズです。

[投稿日]2019年05月21日  [最終更新日]2019年5月21日
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