『仕舞屋侍〈新装版〉』について
本書『仕舞屋侍〈新装版〉』は『仕舞屋侍シリーズ』の第一弾で、徳間文庫から2014年2月に、そして2025年1月に304頁の新装版として出版された、長編の痛快時代小説です。
「仕舞屋」稼業の一人の浪人者を主人公とする、『風の市兵衛シリーズ』の作者の新しいシリーズ作品でであり、割と楽しく読むことができました。
『仕舞屋侍〈新装版〉』の簡単なあらすじ
公儀御小人目付として隠密探索と剣の達人だった九十九九十郎。ある事情で職を辞し、今はもめ事の内済屋を営む。七と名乗る童女が賄いの職を求めて訪れ、居付いてしまうが、料理の腕は九十郎を唸らせる。同じ日、不忍池の畔で追剥ぎに斬り殺された山同心の妻、お照の依頼を受ける。夫がたびたび夢に現われて無念を訴えるという。お照は三十両を添えて、涙ながらに真相解明を懇請した。(「BOOK」データベースより)
序 不忍池
松平定信の寛政の改革が始まって世の中が不景気になった頃、三屋半次郎という、山同心と呼ばれている上野の御山の東叡山寛永寺専属の同心が殺されます。
其の一 番町黒楽の皿屋敷
旗本室生伸之助が、奉公人である杵屋の娘お品に大けがを負わせてしまう事件が起こりますがその話し合いはこじれ、結論は持ち越しとなります。
其の二 山同心
九十九九十郎は、三屋半次郎の妻のお照からの、夫の死についての調査の依頼を請けます。半次郎の日記帳にあった「俊慧」について調べると、車坂町の浪人萩野忠五郎の娘三重の殺害事件などの事実が浮かび上がるのでした。
其の三 消えた女
調べていくうちに十年ほど前の西条伴右衛門の事件などが明らかになると共に依頼人のお照の事情も明確になっていきます。
其の四 果たし状
すべてを明確にした九十郎はすべての決着をつけるのでした。
『仕舞屋侍〈新装版〉』の感想
本書『仕舞屋侍〈新装版〉』は、『仕舞屋侍シリーズ 』第一巻目の、仕舞屋九十九九十郎の活躍を人情味豊かに描く長編の痛快時代小説です。
本書は当初は2014年2月に徳間文庫から文庫本書下ろしで出版されたのですが、2025年1月になってシリーズ全四作が順次<新装版>として刊行されたものです。
「其の一」で仕舞屋としての仕事の内容を紹介しながら、本書の実質的な事件の展開は「其の二」以降になります。
ストーリー自体は 辻堂魁という作家らしく、単純すぎない物語ということを考えられたのでしょうが、若干複雑に絡み合いすぎている気がしないでもありません。
しかし、複雑でありながらもその複雑さをあまり感じさせないのも上手さゆえのことでしょうか。
本シリーズで注目すべきは、「其の二」から登場する“お七”という十二歳の女の子です。
九十郎の相棒でもある籐五郎のもとに自ら雇ってくれとやってきた娘です。
この子の存在が物語の節目に語られているのですが、家事一般を見事にこなすその娘の姿が物語の箸休め的存在となり、それが非常に効果的です。
その上、この娘も敵を討ちたいという望みを持っている身なのです。その事情は今のところは明らかにされてはいません。その事情もシリーズが進むにつれ明らかにされていくことでしょう。