辻堂 魁

仕舞屋侍シリーズ

イラスト1
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かつて御小人目付として剣と隠密探索の達人だった九十九九十郎。だがある事情で職を辞し、今は「仕舞屋」と称してもみ消し屋を営んでいる。そんな九十郎の家を、ある朝七と名乗る童女が賄いの職を求めて訪れた。父母を失ったという七は断っても出て行かず、父仕込みの料理で九十郎を唸らせる。「侍」のもとで働きたいという七の真の目的とは?九十郎の情と剣が、事件と心の綾を解く!時代小説・書下し。 (「BOOK」データベースより)

 

『仕舞屋侍シリーズ』第一巻目の、仕舞屋九十九九十郎の活躍を人情味豊かに描く長編の痛快時代小説です。

 


 

松平定信の寛政の改革が始まって世の中が不景気になった頃、三屋半次郎という、山同心と呼ばれている上野の御山の東叡山寛永寺専属の同心が殺されます(序 不忍池)。

旗本室生伸之助が、奉公人である杵屋の娘お品に大けがを負わせてしまう事件が起こりますがその話し合いはこじれ、結論は持ち越しとなります(其の一 番町黒楽の皿屋敷)。

九十郎は、三屋半次郎の妻のお照からの、夫の死についての調査の依頼を請けます。半次郎の日記帳にあった「俊慧」について調べると、車坂町の浪人萩野忠五郎の娘三重の殺害事件などの事実が浮かび上がるのでした(其の二 山同心)。

調べていくうちに十年ほど前の西条伴右衛門の事件などが明らかになると共に依頼人のお照の事情も明確になってくきます(其の三 消えた女)。

すべてを明確にした九十郎はすべての決着をつけるのでした(其の四 果たし状)。

 

「其の一」で仕舞屋としての仕事の内容を紹介しながら、本書の実質的な事件の展開は「其の二」以降になります。

ストーリー自体は辻堂魁という作者らしく、単純すぎない物語ということを考えられたのでしょうが、若干複雑に絡み合いすぎている気がしないでもありません。

しかし、複雑でありながらもその複雑さをあまり感じさせないのも上手さゆえのことでしょうか。

 

本シリーズで注目すべきは、「其の二」から登場する“お七”という十二歳の女の子です。

九十郎の相棒でもある籐五郎のもとに自ら雇ってくれとやってきた娘です。この子の存在が物語の節目に語られているのですが、家事一般を見事にこなすその娘の姿が、物語の箸休め的存在となり、それが非常に効果的です。

その上、この娘も敵を討ちたいという望みを持っている身なのです。その事情は今のところは明らかにされてはいません。その事情もシリーズが進むにつれ明らかにされていくことでしょう。

[投稿日]2019年03月31日  [最終更新日]2019年5月21日
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