『丘の上の賢人 旅屋おかえり』とは
本書『丘の上の賢人 旅屋おかえり』は『旅屋おかえりシリーズ』の第二弾で、2021年12月に210頁の文庫本書き下ろしで出版された長編の現代小説です。
本書には、本編の他に「フーテンノマハSP」と題された原田マハのエッセイや高校時代のエピソードの漫画化作品、それに瀧井朝世氏の解説まで収納されている、軽く読める作品です。
『丘の上の賢人 旅屋おかえり』の簡単なあらすじ
売れないタレント・おかえりこと丘えりかは、依頼人に代わり旅をする「旅の代理人」。秋田での初仕事を終え、次なる旅先は北海道ーある動画に映っている人物が、かつての恋人か確かめてほしいという依頼だった。依頼人には、初恋を巡るほろ苦い過去があって…。『旅屋おかえり』未収録の、幻の札幌・小樽編が待望の書籍化。北海道旅エッセイ&おかえりデビュー前夜を描いた漫画も収録した特別編!(「BOOK」データベースより)
本書冒頭で簡単に主人公の紹介を終えた後、どこかの丘の上でひとり座っている中年の男性を若者たちが足蹴にする動画が紹介されています。
丘の斜面を転がり落ちた男性を追いかけて蹴り続け、若者たちが去った後、その男性は再び丘の上に戻り、またひとり膝を抱えて動かなくなるのです。
それは主人公の会社に送られてきた「フール・オン・ザ・ヒル」というタイトルのメールに添付されていた動画でした。
そのメールは、もしかしたら自分のかつての恋人とかもしれないので、主人公にその人物の確認などをしてもらいたいという内容でした。
『丘の上の賢人 旅屋おかえり』の感想
本書『丘の上の賢人 旅屋おかえり』は、『旅屋おかえりシリーズ』(と言っていいと思います)の第二弾であり、旅にいけない人の代わりに旅をすることを業としている女性の物語です。
本書の主人公は、所属しているプロダクションの社長がつけてくれた「丘えりか」という芸名の売れないタレントであり、「おかえり」さんと略して呼ばれています。
おかえりさんは、ちょっとしたミスで唯一のレギュラー番組であった「ちょびっ旅」をおろされていたところに、代わりに旅行をしてもらえないかという依頼が舞い込み、「旅屋おかえり」として、「あなたの旅、代行します」、という新ビジネスを始めたのでした。
そのお帰りさんが所属しているプロダクションは「よろずやプロ」といい、社長は名刺の肩書に「元プロボクサー、いま社長」と書いている萬鉄壁という人物です。
またこのプロダクションにはほかに、かつてはセクシーアイドルで今は事務所のアイドルだという、事務及び経理担当副社長の澄川のんのがいます。
このおかえりさんに今回も旅の依頼が舞い込むのですが、その依頼に関して見せられたのが丘の上に座る男性と、その男性を蹴りつける若者たちの姿の映像だったのです。
依頼者は代官山でアクセサリーの制作、販売の会社「リュパン・ルージュ」の経営している古澤めぐみという人物で、依頼の内容は動画の男性の人物像を知りたいというものでした。
この古澤めぐみも自分の姉が絡んだことで故郷を捨てた過去があり、自分では確認をしに行けないというのです。
ただその目的地が札幌ということで、この仕事を請けるか否か迷いに迷いますが、結局はこの依頼を受けるおかえりさんでした。
というのも、北海道の礼文島が故郷であるおかえりさんは、十八歳で芸能界に入るにあたり、病気で他界した父親と残された家族に芸能界で花ひらくまでは帰らないと約束して島を出ていたのです。
本書『丘の上の賢人 旅屋おかえり』は、こうした故郷に帰りにくい事情を持つ主人公と、かつての恋人かどうかの確認を願う依頼者という、なんとも浮世離れした舞台設定ということもあってか若干の感情移入のしにくさを感じる作品でもありました。
ただ、本書は本編の「丘の上の賢人」は153頁の長さしかなく、その後に15頁のエッセイ、そして30頁強の漫画があって瀧井朝世氏の解説と続きます。
つまりは文章が読みやすいということもあって、それほど時間をかけずに読み終えることができるのです。
でも、確かに軽くて面白い物語ですが、「fool on the hill」というビートルズの楽曲をテーマに書かれた作品であることはいいのですが、丘の上にいる男、という設定がどうにも素直には感情移入できませんでした。
物語がどうにも感傷過多であり、そのことは、ほかの登場人物の家族や姉妹の関係性にしても同様なのです。
そもそも、本書は「旅」がテーマになった作品であり、感傷的な場面が前面に出るのも仕方のない連載であったのかもしれません。
しかしながら、本書のようにいざ文庫本を読むとその感傷の量の多さに若干ひいてしまいました。
かつての恋人を想いひとり丘の上で坐っている男、という設定そのものが受け入れ難いのです。
もしかしたら、ある意味少女趣味だと言われかねないストーリーに対する先入観なり、偏見がある私自身の読み方の問題かもしれません。
そうした感傷過多の側面を除けば、単純に気楽なファンタジー物語であり、つまりは楽に読めるほのぼの小説ともいえるのです。
かつて読んだこの原田マハという作家の処女作『カフーを待ちわびて』という作品も感傷的と言える作品でしたが、本書『丘の上の賢人 旅屋おかえり』のように感傷過多という印象はなかったと記憶しています。
もしかしたら、読み手である私自身の読み方に差が出てきたのかもしれません。
本書『丘の上の賢人 旅屋おかえり』は、軽く、ほのぼの系の物語を読みたいという人には最適な作品といえるのでしょう。
ちなみに、本シリーズの前巻をもとに安藤サクラ主演でドラマ化されているそうです。
また、2022年10月10日(月・祝) には「旅屋おかえり」愛媛・高知編 が再放送されると記載してありました。
詳しくは下記サイトを参照してください。