杉本 章子

イラスト1
Pocket


文明開化の光と影を描いて一世を風靡した“光線画”の異才・小林清親―その苦闘の軌跡と幕末から明治の激動に翻弄される人々の哀歓を浮き彫りにする渾身の長篇力作。(「BOOK」データベースより)

 

明治浮世絵の三傑の一人に数えられ、最後の浮世絵師と呼ばれた小林清親の物語です。

 

幕臣であった小林清親は、幕府の終焉により、年老いた母と共に徳川家とともに駿府へ移住する。苦しい生活のため撃剣興行に加わるが上手くいかず、結局は江戸へと舞い戻ることになる。そこで大黒屋と知り合い、趣味で書いていた画で身を立てていこうと決心する。

 

ウィキペディアを見ても小林清親の略歴の説明とは若干の違いがあるようです。しかし、本書は小説ですからそうした細かいことは言うべきではないのでしょう。

先に2002年に出されているこの作者の『信太郎人情始末帖シリーズ』を読んでいたので、その筆致の違いに少々戸惑いもありました。主人公の小林清親という人が実在の人物であることも知りませんでしたし、舞台が浮世絵の世界であることもまた違和感のもとになっているのかもしれません。

 

 

でも本書は、明治維新を敗者の側から見た物語である、という点は面白い視点でした。明治期の描写と言えば、例えば津本陽の『明治撃剣会』や浅田次郎の『一刀斎夢録』がありますが、これらは侍からの視点での描写です。

 

 

本書のように元は侍とはいえ下級武士であり、今は一般庶民の目から見た、生活に根差した描写は無かったように思うのです。宇江佐真理の「おぅねぇすてぃ」はそうかもしれませんが残念ながら読んでいません。

 

 

迫力の陸蒸気(おかじょうき)や、灯がともった硝子入りの窓の新橋ステンション、などの小林清親が見た新しい東京の町が描かれながら、光線画という新しい手法で注目され、人気絵師として成長していく小林清親の内面をも含めた描写は読みごたえがありました。

彼を取り巻く人々や女性との関わりをも含めた、一市民としての小林清親の生活を描いた本書は、第100回(昭和63年度下半期) 直木賞受賞作品です。

しかし個人的には、面白い小説ですから是非読んで下さい、とは言えない本でした。どこが、という説明が少々難しいのです。エンターテインメント性に欠ける、ということかもしれません。勿論直木賞を受賞する作品ですし、確かに素晴らしい作品なのですが、個人的には「読みたい本とは言えない」ということです。

[投稿日]2015年04月12日  [最終更新日]2020年6月18日
Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です